医療安全管理者にとって医療事故やインシデントの発生状況を正確に把握し、再発防止に努めていくことは大切な業務です。
しかしながら、インシデント報告を紙やエクセルで運用している病院は、インシデント内容の集計、委員会や会議のための資料作成に時間を取られてしまいます。
医療安全管理システムを導入することで、施設内の医療安全管理状態が見えるようになるでしょう。当記事では医療安全管理システムを導入することで得られるメリットや、おすすめの医療安全管理システムメーカーを徹底解説していきます。
そもそも医療安全管理システムとは、どんなシステムなのでしょうか。医療安全管理システムは「インシデント管理ツール」とも呼ばれます。「インシデント」とは、問題になりかねないヒヤリハットな出来事や緊急事態を指す言葉です。
医療安全管理システムでは、医療事故やインシデントなどの医療トラブルに関する報告書の作成や、レポートの集計やインシデント発生要因の分析など医療安全に関わる活動をサポートしてくれます。
インシデントレポートをうまく活用することで、医療トラブルの再発防止につながると同時に院内の医療安全への意識を高めることができるでしょう。
インシデントに対する対応の遅れは、医療安全に関する現場の課題でもあります。紙でのインシデントレポート作成は、書き直しなどに時間を取られて提出までに時間がかかってしまうのです。そのため、タイムラグが生じ、リアルタイムにレポート件数が集まりません。
さらに、忙しい業務の中でインシデントレポート作成は後回しになりがちです。管理者からのフィードバックも遅くなり、レポート作成に対するモチベーションは下がってしまうでしょう。
一方、管理者も提出されたインシデントレポートの集計や、会議のための資料作成で手一杯になりがちです。そのため、肝心の原因分析や、再発防止のための改善活動までなかなか手が回らないのが医療現場の課題といえるでしょう。
医療安全管理システムの代表的な機能は下記の通りです。
ここからは、医療安全管理システムの機能について解説していきます。
まずは「インシデントレポート作成機能」です。紙のインシデントレポートを使用している場合、書き直しに時間がかかったり、重要な項目の記載漏れなどが発生したりするケースがあります。報告書の提出遅れや記載漏れが起こると、さまざまな課題が発生しかねません。
医療安全管理システムを導入すれば、テンプレートを作成して選択式の項目の設定や、必須入力項目などの設定が可能です。それにより、インシデントレポート作成時間の短縮や、質の高い報告書を集めることにもつながるでしょう。
次に挙げられる機能は「インシデントレポート管理機能」です。医療安全管理システムを使うことで日々のインシデント報告状況だけでなく、職場長や部門長の確認状況を一目で確認することができます。
また、院内でどんなインシデントが発生しているのか、リアルタイムに把握することができるでしょう。それにより、重要なインシデントや医療事故に対して迅速に状況を分析し、院内での注意喚起や再発防止の改善活動にすばやく移れるようになるはずです。
「統計作成機能」も医療安全管理システムの特徴として挙げられます。「統計作成機能」は報告書の集計や統計の作成を簡単に行える機能のことです。検索条件を設定することで、必要な情報をすぐに抽出できます。
部署ごとでの集計やリスクレベル別の集計、異なる要素を組み合わせたクロス集計などさまざまな角度から集計を行えるので、分析資料や学会発表用の資料などが簡単に作成できるでしょう。医療安全管理システムのなかには、集計結果をリアルタイムにグラフ化できる機能を備え付けているものもあります。
最後に挙げられるのは「分析サポート機能」です。インシデントの集計をするだけでなく、なぜそのインシデントが発生したのか、原因が分からなければ同じような事態が発生するリスクが高まります。
分析サポート機能を使うことでインシデントが発生した原因の分析ができるため、同じようなインシデントの発生を防ぐことができるでしょう。医療安全管理システムの中には、RCA分析(根本原因分析)などが手軽に行える機能が搭載されているシステムもあります。
医療機器安全管理システムを導入することでのメリットは下記の通りです。
ここからは、医療安全管理システム導入のメリットを詳しく解説していきます。
最初のメリットは「スタッフ・管理者の双方の業務負担軽減」です。医療安全管理システムの導入で、インシデントレポート作成は効率化します。ただでさえ忙しいスタッフの負担は軽減されるでしょう。
また、職場長や医療安全管理者の負担も軽減されます。レポート集計や統計資料の作成が楽にできるようになるからです。それにより、本来取り組むべき要因の分析や、改善活動に集中することができるでしょう。スタッフと管理者双方の業務負担を軽減することにより、最終的には医療安全の推進と働き方改革につながるのです。
「医療事故やヒヤリハットの再発防止につながる」こともメリットのひとつです。先述したように、医療安全管理システムを使うことで多くのインシデント報告を集め、それぞれのデータを分析することができます。
分析結果に基づいて改善活動を行うことで、医療事故やインシデント発生件数の抑制につながるでしょう。また、医療安全管理システムでは、過去に発生したインシデントをすぐに検索することも可能です。それにより、新人教育や同様のインシデントが発生した際の注意喚起に活用できます。
「医療安全への意識の醸成」も挙げられるでしょう。医療安全管理システムを使えばスタッフが報告したインシデントレポートに対して、素早く要因の分析と改善活動のPDCAを回していくことができます。結果として、スタッフの医療安全への意識が醸成されていくのです。
また、インシデントを報告したことに対して改善の結果が見えるようになってくるため、スタッフがインシデント報告をすることへのモチベーションアップにもつながります。モチベーションが上がることで、質の高い多くのインシデント報告を集められれば、最終的には医療の質が向上するでしょう。
上記で紹介したような基本的な機能は、各メーカーの医療安全管理システムの標準装備機能です。そのため医療安全管理システムを選ぶ際には、それ以外の点で比較することになるでしょう。
医療安全管理システムの中には、安全管理を記録する以上の機能を提供するメーカーもあります。事前にデモで実際の使用感を確認したうえで、メーカーを選定していくようにしましょう。
選ぶ際に重要視したいポイントは下記の通りです。
ここからは、医療安全管理システムを選ぶ際のポイントを解説していきます。
最初のポイントは「分析機能の充実度」です。RCA分析(根本原因分析)機能を備えている医療安全管理システムは多くありますが、分析機能の精度には製品によって差があります。できるだけ精度の高い分析機能を搭載したシステムを選ぶことで、医療安全管理システムのメリットを最大限に得ることができるでしょう。
たとえば「Safe Master(セーフマスター)」は国内で唯一「FMEA分析機能」が付いた製品です。また、「Iras next+(アイラスネクストプラス)」は「4m5e分析」「SHELL分析」「P-mSHELL分析」「時系列事象相関図」など。多数の分析サポート機能を搭載しています。
「初期費用」も選ぶ際には重要視したいポイントです。医療安全管理システムは、機能によって導入費用が変わってきます。高機能であればあるほど、費用は高くなりがちです。もちろん、ランニングコストなど導入後にかかるトータル費用も確認しながら、自社の予算に合ったシステムを選ぶようにしましょう。
「メディカルリスクブロック」は月々¥65,000から利用できます。クラウド型で初期費用を抑えられるので、予算が限られた方にはおすすめです。
これまでの「導入実績」も、選ぶ際の指標となります。多くの病院に導入されているということは、それだけ機能性や利便性が高いということです。各メーカーの公式サイトで導入病院を公開している企業も多いので、事前に確認してみましょう。
たとえば「Safe Master(セーフマスター)」は国内で350以上の病院へ導入している、トップクラスの実績を誇るメーカーです。さらに「ファントルくん」も、全国の国公立病院などへの導入実績を公開しているため安心感があります。
最後のポイントは「eラーニングの有無」です。「eラーニング」とは、パソコンやタブレット、スマートフォンを使いインターネットで学習できるシステムのことです。医療安全管理システムの中には安全管理に関するeラーニング研修を受けることができるものもあり、単に安全管理を記録するだけのシステムに留まりません。
たとえば「Safe Master(セーフマスター)」や「Iras next+(アイラスネクストプラス)」といった製品には、wラーニング機能が搭載されています。
医療安全管理システムの中でも、おすすめの企業は下記の通りです。
「Safe Master(セーフマスター)」は、インシデント分析から教育研修までを実現する医療安全管理システムです。装備されている「eラーニング機能」では、研修実施だけでなく集合研修の受講データを取り込むこともできます。
スタッフの受講状況が詳細に把握できるうえに、テストやアンケートの作成・集計もできるため、医療安全のレベルアップに役立つでしょう。また、JCI認証取得に必要な「FMEA分析機能」を搭載しているのは、国内で「Safe Master(セーフマスター)」のみです。
Safe Master(セーフマスター)の比較ポイント
製品情報
機能 | 充実の分析支援機能、eラーニングシステム搭載、患者相談支援機能(オプション) |
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トライアル | デモあり |
導入実績 | 国内トップ350病院以上(東京慈恵会医科大学附属病院など) |
「Iras next+(アイラスネクストプラス)」は使いやすさをモットーに、報告から分析、教育までをトータルサポートしてくれるオールインワンシステムです。施設の規模や施設数、施設の種別にかかわらず、幅広い施設で導入できます。
「Iras next+(アイラスネクストプラス)」はオプションで電子カルテとも連携でき、利用者情報や患者情報を検索することも可能です。また、eラーニング機能や改善機能など、充実した機能を搭載しています。
Iras next+(アイラスネクストプラス)の比較ポイント
製品情報
機能 | 検索機能、データ集計機能、分析サポート機能、改善機能、eラーニング機能など) |
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トライアル | デモあり |
導入実績 | - |
株式会社メディシステムソリューションはヘルスケア産業だけでなく、訪問看護ステーションの経営やコンサルティング事業を展開している企業です。インシデント管理システム「ファントルくん」は2007年に発売されました。
「ファントルくん」を使うことで誰でも簡単にインシデントレポートを作成できるだけでなく、数秒で集計することが可能です。それにより、エラーが事故につながるのを未然に防ぐことができるでしょう。スタッフの医療安全への意識を維持するのに役立つシステムです。
ファントルくんの比較ポイント
製品情報
機能 | RCA分析機能による分析支援機能、レポート作成サポート機能など |
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トライアル | デモあり |
導入実績 | 全国の国公立病院などでの実績110施設 |
「e-Riskn」は医療安全管理者の業務を効率化するためのソフトです。インシデントとアクシデントの効率的な収集と、医療安全管理者の業務負担軽減を両立し医療安全の推進と働き方改革をサポートします。
シンプルな操作性で、パソコン操作に自信がない人でも直感的にレポートを作成できるでしょう。また、事故内容件数や転倒転落の件数、また事故レベルごとの件数など、細かな検索条件で抽出した統計を、数クリックで作成できます。
e-Riskn(イーリスクん)の比較ポイント
製品情報
機能 | レポート作成機能、統計作成機能、クロス統計機能、データ抽出など |
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トライアル | デモあり |
導入実績 | 医療法人相生会 金隈病院など |
「Smart Risk Manager」はフレキシブル設計で、あらゆる病院規模や組織体系に対応できるよう開発された医療安全管理システムです。インシデントレポートフォーム、報告項目、選択肢、リスクレベルなどの運用条件を、自由に設定することができます。
インシデントレポート報告はウェブブラウザだけで行うことが可能です。電子カルテ端末はもちろん、既存のWindowsパソコンを併用することができます。専用ソフトのインストールが不要なので、負担なく導入できるでしょう。
Smart Risk Managerの比較ポイント
製品情報
機能 | ダッシュボード機能、改善対策コメント機能、インシデント要因分析ツールなど |
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トライアル | 要お問い合わせ |
導入実績 | 金沢医科大学病院、松江医療センターなど |
株式会社NSDはソフトウェア開発やITインフラなどを手掛ける会社です。「ePower/CLIP(イーパワー/クリップ)」は、インシデントレポートの作成から、分析・対策立案までを効果的にサポートしてくれます。
分析手法は「ImSAFER(アイエム セーファー)」を用い、事例の詳細分析をパソコンの画面上で展開することが可能です。また、短時間で簡単にインシデントレポート報告が作成できるため、報告者や医療安全管理者の負担を軽減できるでしょう。
ePower/CLIP(イーパワー/クリップ)の比較ポイント
製品情報
機能 | 入力支援機能、収集・統計分析プログラム、詳細分析プログラムなど |
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導入実績 | 自治医科大学附属病院、東京女子医科大学病院など |
「メディカルリスクブロック」は「インシデントレポート作成時間の短縮」「インシデント集計・分析のシステム化」「医療安全委員会用の資料作成効率化」の3つができる、シンプルな使いやすい医療安全管理システムです。
レポートの登録項目は独自の内容に設定できます。事前に打ち合わせを行い、決めた項目をシステムに設定してくれるので、どの病院においても使いやすいシステムを作り上げることが可能です。さらに、作成されたレポートを医療安全委員会へ送致し、対策を立案することもできます。
メディカルリスクブロックの比較ポイント
製品情報
機能 | 独自の項目登録、クロス集計分析機能、eラーニング連携オプション機能など |
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トライアル | 要お問い合わせ |
導入実績 | 久野病院など |
「HoSLM(ホスルム)」は、長年の医療安全管理の研究に基づいて開発された医療安全管理コンピュータ・ソフトウェアです。一定期間ごと、月ごと、年度ごとに医療安全管理の状態をモニタリングすることができます。
また、医療安全管理水準やゆらぎ、介入効果、類型化分析などで、分析の自動所見が表示されるのでリスクマネージャーの判断や評価をサポートし負担を減らしてくれるでしょう。東北大学名誉教授の関田康慶教授の医療安全研究グループが監修しています。
医療安全管理システム HoSLM(ホスルム)の比較ポイント
製品情報
機能 | モニタリング機能、比較分析機能、介入効果の評価機能など |
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導入実績 | 戸田中央総合病院など |
「HOPE インシデントレポートシステム」は迅速に報告書を作成し、再発防止への改善・対策に向けて医療安全管理をサポートするシステムです。富士通の電子カルテや富士通医事システムと連携し、利用者を一元管理することができます。
また、選択入力式のため、報告内容にばらつきがなく誰でも正確で高精度な報告書の作成が可能です。さらに、SHELL分析やRCA出来事流れ図作成で、インシデント発生の傾向や要因の可視化ができるようになります。
HOPE インシデントレポートシステムの比較ポイント
製品情報
機能 | ToDo機能、事例閲覧機能、ログ管理機能、マスタメンテナンス機能など |
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導入実績 | 順天堂大学医学部付属練間病院など |
「e3incident インシデントレポート管理システム」は、医療安全対策をサポートするためのシステムです。メール操作をイメージした画面構成で、インシデントレポートの通知や差し戻し、承認状況を簡単に把握することができます。なお、必須入力項目のチェックを行うため、入力漏れを防ぐことが可能です。
また、「e3incident インシデントレポート管理システム」にはRCA分析支援機能が搭載されています。分析結果は、マウス操作で簡単に分析ボックスを作成できるでしょう。さらに、豊富な統計機能で発生割合分析や月別分析などの各種統計の対応が可能です。
e3incident インシデントレポート管理システムの比較ポイント
製品情報
機能 | RCA分析支援機能、統計・集計分析機能など |
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導入実績 | - |
株式会社サン・コンピュータの「インシデント管理システム」は、先進システム開発ツール「GeneXus」を採用した医療安全管理システムです。それにより、煩雑なWebアプリケーションの画面設計や開発が柔軟に行えるだけでなく、納期の大幅な短縮が実現しました。
財団法人日本医療機能評価機能のフォーマットに準拠しており、出力したファイルを加工する必要なく報告が可能です。なお、Webブラウザから入力するため、試用端末や場所を選ばず、いつでもどの端末からでも報告書の作成や提出ができます。
インシデント管理システムの比較ポイント
製品情報
機能 | 検索閲覧機能、統計情報機能など |
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導入実績 | - |
「Medical Incident」は、事務負担の解消と事故防止対策立案のサポートを行うために開発されたシステムです。レポート印刷機能を搭載しており、使用中の帳票に合わせて委員会などで使用するレポートを印刷できます。また、Excelを使用した単純な集計やグラフの作成が可能です。
なお、院内で使用する端末の数に制限はありません。同一のネットワークに接続されている端末であれば、何台でも使用できるので安心です。
Medical Incidentの比較ポイント
製品情報
機能 | 内容入力機能、レポート印刷機能、医事会計システム連携機能など |
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導入実績 | - |
医療安全管理システムを導入することで、インシデントの重要度や対応状況を可視化し、管理を効率化できるようになります。また、医療事故やヒヤリハットの再発防止、スタッフの意識向上にもつながるので、病院全体の医療の質が高まるでしょう。
なお、医療安全管理システムを選ぶ際には、機能の充実度や導入実績などを詳しくチェックしたうえで選ぶ必要があります。機能が多ければ多いほど価格は高くなりますので、予算を出したうえで検討するようにしましょう。