コロナ禍で赤字転落する病院増加!赤字経営の病院の特徴とは?

更新日 2024.04.09
投稿者:豊田 裕史

「病院の赤字経営がなぜ起こるのか、どうすれば黒字経営に改善できるのかわからない」こんな悩みを抱えてはいませんか?
医療を提供する施設として、病院は生活に欠かせない施設のひとつです。しかし、日本の病院における約3分の2は、赤字経営と報告されています。
さらに、新型コロナウイルス感染症の影響により、赤字経営に転落した病院はより一層増加している状態です。医療提供にもコストがかかります。赤字経営が続けば、十分な医療提供が困難になってしまうでしょう。

本記事では、日本における病院経営の現状や新型コロナウイルスが病院経営に与えた影響について紹介します。病院経営におけるコスト構造や赤字に傾く原因、経営改善のためにできることなどについてもあわせて紹介するので、経営改善を目指す方はぜひご覧ください。

近年の日本における病院の経営状況

病院は多くの方が利用する施設であり、収益がよいと思う方も多いかもしれません。しかし、実際は赤字経営に苦しむ病院が多く、2009年から2019年まで、赤字経営の病院の割合は、60~75%付近を推移しています。

赤字病院の割合


多くの病院が赤字経営となっている原因は、医療費削減による診療報酬のマイナス改定や消費増税によるコストの増加が考えられます。



コロナ禍で病院の経営状態はどれほど変わった?

この章では、新型コロナウイルスが蔓延してから病院経営がどのように変わったのか紹介します。


<新型コロナウイルス蔓延後、赤字経営の病院は増加している>

日本病院会が2020年6月に公表した「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査(追加報告)」によると、2020年4月には、調査に応じた病院の66.7%が赤字経営と報告されています。前年同期に赤字経営だった病院が45.4%で、21.3%増加しているのです。

この結果から新型コロナウイルスによって、経営状況が悪化した病院が増えていることが分かります。


<コロナ患者受入や病棟の一時閉鎖をした病院で収入減が顕著>

新型コロナが病院経営に与えた影響は、コロナ患者を受け入れてた病院や、感染拡大に伴う影響で病棟を一時閉鎖した病院で顕著です。

コロナ患者を受け入れている病院の赤字率は、2019年4月は54.6%でした。2020年4月には78.2%となり、拡大前と比較すると23.6%増加しています。

また、クラスター発生やスタッフの濃厚接触による人員不足から病棟を一時閉鎖した病院では、赤字率の増加幅がより大きいです。2019年4月に50.6%だったところ、2020年4月には79.4%になりました。


<新型コロナウイルスが病院経営に与えた影響>

病院の赤字経営が増加した理由は、次にあげる要因が影響していると考えられます。

  • 感染拡大防止のための患者数減少
  • 予定手術の延期や検査数の減少による収入減少
  • 感染対策の備品や設備にかかるコスト増加

患者数の減少は、新型コロナウイルスの感染予防のために、不急の受診を控える方が増加したことによるものです。ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社の調査(2020年11月)によると、新型コロナウイルス感染症への不安から受診を控えた方は、およそ2人に1人となっています。

予定手術の延期による収入減少は、新型コロナウイルスの感染対策や感染者の対応に追われていたり、感染者が入院する病床を確保したりするためです。同時に、不急の検査も減少しています。

また、新型コロナウイルスの感染対策のためにマスクやガウン、フェイスシールド、キャップ、アルコールなどの感染対策にかかるコストが増加しています。



病院のコスト構造

感染症への対応に伴う病院の赤字幅の増加についてみてきました。経営状況の改善に向けた分析をするため、ここでは病院のコスト構造について解説します。主要な費用の内訳を確認し、削減できそうなコスト、逆に手をつけにくいコストはどこかなど、考えながら見ていきましょう。


100床あたりの医業費用内訳


<人件費>

病院経営において最も大きな割合を占めるのが、人件費です。人件費とは職員へ支払う給与や賞与のこと。多数の医療従事者が必要な病院では必ずかかるコストになります。

不用意な人件費の削減は、職員の不満や離職率の増加につながり、医療の質の低下につながりかねないため、簡単に減らすことはできません。給与カットやリストラは、最後の手段です。


<材料費>

医療提供の質を担保しながら、いかにコスト削減に取り組むか。ここが、病院を運営するにあたって腕の見せ所です。

材料費は、院内で使用する薬や処置の際に使用する包帯、ガーゼ、注射針などを指します。

過剰に在庫を抱えたり、使用期限が切れた材料を廃棄したりすることは、病院経営を赤字に傾かせる要因です。ディーラーと価格交渉をして仕入れ値を抑えたり、適正な在庫量になるよう発注回数を見直したりすることで、経費削減の余地があります。


<委託費>

委託費は、病院が外部の業者に業務を外注した時に発生するコストです。患者様の食事を用意する給食や病床のシーツやタオル、職員の制服をクリーニングするリネン費などが、委託費にあたります。


<設備関係費>

設備関係費は、病院設備を購入した際の費用やメンテナンスにかかるコストです。MRIやCTといった高価な医療設備を導入した時には、設備関係費の割合が増加します。


<経費>

経費は病院の電気代や水道代、文具などの業務にかかわる必要なコストです。一つひとつは大きな金額ではありませんが、積み上がることで大きな金額となるため、コスト削減には重要な項目でしょう。



病院経営が赤字に傾く原因とは

赤字経営に傾く病院にはどのような原因があるのでしょうか。ここでは、社会福祉法人済生会病院の赤字病院と黒字病院を比較したデータをもとに、病院経営が赤字に傾く原因について解説します。なお、同法人が抱える病院のうち、47病院を分析対象としている。


<人件費率が高い>

赤字経営の病院は、黒字経営の病院と比較して、人件費率が大きくなる傾向です。人件費率とは、病院運営にかかる費用全体における人件費の割合を意味します。

2012年と2013年で、2年続けて黒字経営だった病院と2年続けて赤字経営であった病院の人件費率は、次のとおりです。

上記の表のように、赤字経営の病院は黒字経営の病院よりも4.5%人件費率が大きいと報告されています。人件費率は職員の平均年齢とも相関しており、平均年齢が高い病院では勤続年数による昇給に伴い人件費が増え、結果的に人件費率の上昇に影響する可能性も考えられます。


<病床稼働率・外来数の減少>

赤字経営の病院と黒字経営の病院では、病床稼働率が異なります。病床稼働率とは、病院内の病床がどれだけ使用されているかの割合のことです。

2012年と2013年で、黒字経営の病院と赤字経営の病院では、次の表のように病床稼働率に差が生じています。

病床稼働率が低いということは、本来稼働していれば得られていた収入が得られないということです。病院の収益における6割強が入院診療による収益であることから、病床の稼働率が低いことは病院全体の収益に大きく影響します。

入院診療に次いで収益の割合が高いのが、外来による診療です。病院収益の約25%を占め、入院収益よりも利益率が高いため、病院経営において重要といえます。

黒字経営の病院と赤字経営の病院の外来対入院比率を比較すると、黒字経営の病院の方が外来診療の割合が高いです。外来対入院比率は、1 日当たりの外来患者数を、1 日当たりの入院患者数で割った割合です。



病院経営の改善のためにできること

病院経営を改善させるためには、不要なコストを削減し、病院収益を上げることが必要です。ここでは、病院経営の改善のためにできることを紹介します。


<人件費の最適化>

病院経営において大きな比重を占める人件費を最適化することは、病院経営の改善に重要なポイントです。

黒字病院でも人件費率が高いのは変わりませんが、病院職員ひとりの売り上げを意味する1人あたりの医業収益が、赤字病院よりも良い結果となっています。

医業収益とは、医療行為によって発生する売上のことです。一般の会社でいう営業における売上のことを指します。

この結果は赤字病院では人件費が最適な状態ではなく、1人あたりの医業収益が下がるためだと考えられます。そのため、人材の需要を見直して、必要であれば適切に調整して人件費を最適化させるとよいでしょう。


<業務の効率化>

人力で手間がかかる作業を続けていれば、過剰な人件費がかかることになってしまいます。手間や無駄が多い業務に関しては、業務内容の見直しや職場のICT(情報通信技術)化を進めて、効率化を進めましょう。短期的には支出が増えるため足踏みする気持ちも分かりますが、長期的に業務の効率化につながる手段を活用していくことが大切です。

病院におけるICT化には、診療予約システムやオンライン診療システム、Web問診システムなどがあります。ICT化を進めることで、人件費の削減や新たな医業収益の向上につながるでしょう。

また、ICT化のような大きな職場環境の変更でなくとも、日々の業務における流れを見直すことも業務を効率化させるひとつの方法です。職員にとって負担となっている業務を把握して、改善していくとよいでしょう。

業務状況を見直して、効率化を進めることにより、人件費の削減や1人あたりの医業収益の向上が期待できます。


<患者数を増やす対策>

人件費や業務効率を改善すれば、支出面での改善が見込めるでしょう。しかし、支出面だけを改善しても収入が増えなければ、根本的な赤字経営の解決には結びつきません。収入を増やすためには、患者数を増やす対策も重要です。

まず、患者様が病院に訪れるためには、存在を知ってもらう必要があります。近年ではインターネットやSNSを利用して調べる方が少なくありません。そのため、Googleマップ等の地図アプリの検索で上位表示を目指すMEO(Map Engine Optimization=マップエンジン最適化)対策をしたり、SNSでの情報発信をしたりするとよいでしょう。

病院の認知度が高まることはもちろん、病院の雰囲気や口コミなどを確認できるため、信頼性が高まり、患者様が訪れやすくなります。そのほかにも、地域の病院と医療連携を強化し、患者様を紹介し合う関係を構築することで、患者数の増加が見込めるでしょう。



経営を改善するには、検討チームを立ち上げる

病院経営を改善するためには、現状の問題点の把握や改善目標、改善対策などを考えなければなりません。様々な業務を抱える事務長や責任者が一人で実施しようとしても、満足のいく案を出せずに終わってしまう恐れもあります。そのため、まずは病院経営の改善を担当する検討チームを立ち上げましょう。

病院経営を改善させる責任者を明確にすることで、責任を持って経営改善に取り組めます。検討チームを立ち上げる時の注意点としては、なるべく他職種のメンバーで編成することがポイントです。偏った視点からではなく、多面的な視点で経営改善を進められるようになります。



公立病院は再編検討も視野 抜本的な対応も視野に

厚生労働省は2020年1月、全国424の国立・公的医療機関等を対象に、再編・統合の検討を求めています。この報告は、国が抜本的な医療コストの削減を目指していることのあらわれといえるでしょう。

このような国の方針や新型コロナウイルスの影響により、ますます病院経営は難しくなっていくことが予想されます。いざという時に病院経営が困難な状態にならないように、医療業界の動向に注目しておきましょう。



経営状況を見直して、病院の赤字を回避・改善しましょう

病院の赤字を回避

本記事では、病院経営の赤字の状況と、その原因について解説しました。

病院は人々の生活に欠かせないものですが、多くの病院の経営状況は赤字です。さらに、新型コロナウイルスの影響で赤字転落する病院が増加しており、病院経営を見直していく必要があります。

病院経営にかかるコストを理解して、病院の赤字を少しでも改善できるよう取り組んでいきましょう。


理学療法士として総合病院や訪問看護ステーションでリハビリテーション業務に携わった後、資格を活かして医療系Webライターとして活動。根拠に基づいた記事執筆を得意としており、様々なWebコンテンツにて執筆実績多数。

|薬剤師

薬剤師として日本、シンガポールで従事。国際医療ボランティアとしてインドやボツワナ、タイに派遣される。現在は医療ライターとして執筆、コンテンツディレクター、編集長、ライティング講師、Webデザイナーとして活動。

|医師
総合病院
URL:https://twitter.com/dr_shinpaku

呼吸器専門医、指導医、総合内科専門医、研修医指導医、医学博士。総合病院勤務医として臨床または研究に従事し、若手指導にあたりながら、これまで培った経験を生かして医師ライターとしても大手医療メディアなどで多数の記事作成を行っている。また専門知識を生かして監修や編集、Webディレクターとしても活動している。
最近は予防医学、デジタルヘルス、遠隔医療、AI、美容、健康、睡眠などに関心を広げデジタルヘルス企業に関する記事の連載も行っている。
正しい医療知識の普及や啓蒙のために日本語又は英語で発信を行いながら様々な企業との連携やコンサルティングも経験し、幅広い分野での貢献に努めている。
複数の学会に所属し、論文執筆、国内・国際学会発表による研鑽を積んでいる。

関連記事

PAGE TOP