介護業界では慢性的な人手不足が最大の問題で、業務の効率化を進めることが急務となっています。効率化を進めるにあたり、「介護記録の電子化」は誰しも考えたことがあるのではないでしょうか。
ですが、実際に導入を考えるといろいろなリスクを思い浮かべてしまうものです。数ある介護記録システムの中で何がよいのかわからず、なかなか導入に向けての検討が進まない事業所も多いのではないでしょうか。
今回は「介護記録の電子化」によるメリット・デメリット、介護記録ソフトを選ぶポイントを紹介します。検討の参考にしてください。
介護記録の電子化は、国が推進するICT化のひとつです。介護記録の電子化が進められている理由として、介護業界の人手不足が影響しています。日本は少子高齢化が進んでおり、2025年には、介護従事者約35万人が不足するとの予測もあります。さらに、2065年には国民の約4人に1人が75歳以上になると予測されています。
高齢者が増加するということは、介護サービスの需要がより高まることを意味します。しかし、介護現場の労働環境の厳しさや少子化により介護サービスを提供する人材が不足し、介護業界の需要と供給の差が開いてしまうことが問題視されています。
介護業界の人材不足解消をアピールするサービスは各方面で展開されています。介護記録の電子化も、その一つの手段として注目されています。介護記録を電子化すれば、手書きで記録していた時よりも短時間で記録でき、ケア業務により注力することができます。また、記録はデータで保管されるため、大量の記録用紙を保管する手間を省くこともできます。
介護ソフトの導入に際しては、ICT導入支援事業の利用が可能です。支援制度を利用することで、事業所の規模に応じて介護ソフトの導入費の一部を補助してくれます。介護記録の電子化を検討している事業所には、よいタイミングです。補助を受けられる期間や申請時期などは、各都道府県によって異なります。担当窓口に一度問い合わせてみると良いでしょう。
介護記録ソフトについては【2024年版】おすすめ介護ソフト29製品を徹底比較|選び方まででも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
紙に介護記録を記入している方にとっては、介護記録を電子化するのは難しい印象があるかもしれません。「慣れている手書きの方が早く書ける」という声もありそうです。ただ、介護記録を電子化することで以下のメリットがあります。
①職員の業務負荷軽減
②利用者様の満足度向上
③情報共有を円滑におこなえる
介護記録を電子化することで、職員の業務負担が軽減します。まだ介護記録を電子化していない事業所では、手書きで記入しているケースがほとんどです。利用者様の情報を手書きで記入していては、職員の負担が増えるだけでなく、時間がかかってしまいます。介護日誌や食事摂取表、職員間の連絡帳など、複数に別れていた書式が一つのソフトに統一されれば、別の冊子を探すわずらわしさからも解放されます。
また、紙に記録する運用をしている事業所では、介護記録を記入するためには用紙がある場所に行く必要があります。一方で電子化されていれば、パソコンやタブレットなどで場所を選ばずに記録できます。用紙を記入するために、施設内を走り回ることがなくなります。
さらに、過去の記録を見返す時にも、簡単に検索できます。過去の記録を参照するために、保管している過去の介護記録を引っ張り出している状況から解放されるため、職員の業務負荷が大幅に軽減されます。
介護記録の電子化で記録業務にかかる時間を削減できれば、利用者様の満足度向上につながります。記録や書類作成などの事務業務は重要ですが、事務業務に追われてしまうと利用者様をケアする時間が少なくなってしまうこともあります。
記録を記入する時間を短縮できれば、利用者様に介護を提供する時間を増やせます。結果的に、利用者様の満足度向上が期待できます。
クラウド型の介護ソフトを導入すれば、パソコンやタブレットなどさまざまなデバイスから記録にアクセスでき、情報共有が円滑になるかもしれません。オンプレミス型の場合は、施設内にあるパソコンやタブレットを見ることで、他の職員が記入した介護記録を確認することができます。
紙媒体で記録していると、メールで情報共有するために記録を書き起すなどの手間がかかり、情報共有に時間がかかるケースが多いのではないでしょうか。
電子化によりデータ化されることで、職員間や利用者、家族、施設間などで、情報の共有がスムーズにおこなえるようになります。また、記入するフォーマット(形式)を統一すれば、必要な情報を誰でも簡単に記載でき、記載漏れやミスの軽減につながるでしょう。
介護記録の電子化には数々のメリットがありますが、一方でデメリットもあります。大きく以下の3つが考えられます。
①初期費用・ランニングコストなどが発生する
②職員が使いこなせるか
③セキュリティ面の不安
介護記録を電子化するには介護記録ソフトはもちろん、パソコン・タブレットなどが必要になります。
ICT導入支援事業を利用すれば、幾分かの費用を抑えることができます。しかし、すべての費用を補助してくれるわけではありません。
また、かかるコストは介護ソフトやパソコン・タブレットなどの導入費用だけではありません。介護ソフトの契約プランによっては、毎月の利用料など継続して費用がかかるケースがあります。パソコン・タブレットが破損したり、消耗したりした時の修理・購入費や、インターネットの利用料金もかかることを把握しておきましょう。
介護記録を電子化できたとしても、職員がうまく使いこなせない可能性があります。これまで用紙に記入していた職員は、電子化にともなって新たに入力方法を覚えなければなりません。
うまく使いこなせなければ、紙に記入していた時よりも時間がかかってしまい、一時的に業務に支障が出たり、職員がストレスを感じたりすることもあります。介護記録を電子化する際は操作方法の研修を実施したり、マニュアルを作成したりするなど、職員が新しいソフトを使いこなせるような配慮ができると良いでしょう。
電子化に伴って、情報漏洩や不正アクセスなどセキュリティ面の不安を感じる方もいるでしょう。セキュリティ面の対策をしていても、悪意のあるハッカーに情報にアクセスされてしまうリスクはあるので注意しましょう。
また、職場外で情報を見た時には、その場にいる不特定多数の方に情報を盗み見られてしまう可能性もあります。介護業界で取り扱っているデータは、利用者様の個人的なデータであるため、漏洩した時には利用者様に不利益が生じてしまいます。
介護ソフトを導入していない時は、個人情報を保存したUSBを紛失して情報漏洩につながるケースが度々問題になりました。介護ソフトの導入で、データを外部に持ちだすことによるリスクは減少すると考えられますが、また新たなリスクに注意を払う必要がありそうです。セキュリティ面の安全性を高めるためには、パスワードを厳重に管理したり、職員にセキュリティの基本的な考え方を伝えるなどの対策をとりましょう。
介護記録ソフトはさまざまな会社からリリースされており、どのソフトを選べばよいのか迷ってしまいそうです。人気のソフトを選べばよい、と安易に考えてしまうかもしれませんが、一度立ち止まってみましょう。
職場にあったソフトを選ぶことが重要です。介護記録ソフトを選ぶ3つのポイントを紹介します。
①予算
②オンプレミス型orクラウド型(ASP)
③サポート体制
事業所によって介護ソフトに使用できる予算は異なるため、事業所にあった予算感の介護記録ソフトを選びましょう。介護記録ソフトの費用は、商品や契約プランによってさまざまです。費用の差は、利用できる機能の差と考えて問題ありません。
例えば、最低限の介護記録が記入できるだけのソフトであれば低価格で利用が可能です。対して、ケアプラン作成や介護保険請求などが利用できるソフトは、高価格になります。
介護記録ソフトを選ぶ時には予算感を考慮し、どのような機能を求めているのか整理して、必要な機能を満たしているソフトを選ぶことをおすすめします。
介護記録ソフトは、オンプレミス型とクラウド型の2つの種類にわかれます。
オンプレミス型は、自院内にサーバーや通信回線を構築して、パソコンに介護記録ソフトをインストールして使用する方式です。ソフトがインストールされているパソコンであれば、インターネット環境に関係なく利用できます。使用できるデバイスはソフトがインストールされているものに限られますが、情報漏洩におけるリスクが低いのが特徴です。
クラウド型は、インターネットを経由してサーバーにアクセスし、サービスを利用します。自社内でサーバーや通信回線を構築する必要がなく、インターネット環境があれば、どの端末からでもアクセスが可能です。サーバーの設置や通信回線の構築の必要がないため、初期費用がオンプレミス型に比べてかかりません。しかし、インターネットを経由して利用する特徴から、セキュリティ面のリスクがあります。
オンプレミス型とクラウド型にはそれぞれメリットとデメリットがあるため、各特徴を理解して利用しやすい方式のソフトを選びましょう。
最後のポイントは、サポート体制です。契約プランによっては、サポートの有無や充実度が異なります。
ある程度パソコンやインターネットに関する知識やスキルがあり、簡単なトラブルに対応できる自信がある場合は、サポート体制が少ないソフトでも問題ないでしょう。しかし、使い慣れていない方や知識の少ない方が、サポート体制が少ない契約を結んでしまうと、大きなトラブルにつながる可能性があります。価格は大切なポイントですが、有事に介護記録を記入できなくなる事態は避けたいところ。メーカー担当者と相談の上、希望するサポート体制を明確にしていきましょう。
介護記録ソフトによっては、本格的に導入する前に、デモを試してみることも可能です。使用に不安がある方や実際の使用感を知りたい方は、デモを試してみましょう。
介護記録を電子化する時には、以下の点に気をつけて導入しましょう。
①職員への研修・教育
②利用者やご家族への説明
現場職員への説明が不足したままで介護記録ソフトを導入すると、職員がうまく対応できない可能性があります。導入する前には、介護記録を導入する意義や使い方などを職員に説明しておくことが大切です。
導入後もフォロー研修や継続的な教育をおこない、日々の使用方法の悩みを解決しましょう。
利用者様のデータを電子化して取り扱うことに関して、不安を感じる利用者様やご家族がいることがあります。利用者様やご家族の方が不安を感じることがないように、しっかりと説明することが大切です。
情報漏洩への恐れや、導入によって自分の対応が変わるのではないか、との不安などがあげられます。対応した職員が適切に説明できるように、職員間で情報を共有しましょう。
本記事では、介護記録の電子化について解説しました。
介護記録を電子化することで、職員の業務負担が軽減したり、利用者様に提供する介護サービスの質の向上につながったりするメリットがあります。一方で、新たに介護記録ソフトの使用方法を学ぶ必要やセキュリティ面のリスクなどがあることに注意が必要です。
介護記録ソフトの導入を検討する時には、メリットとデメリットを理解し、本記事で紹介したポイントや注意点を参考にしてください。