医療情報の把握や質の高いサービス提供に役立つ「PHR」とは?

投稿日 2021.08.17 / 更新日 2022.01.04
投稿者:森 章也

PHRとはPersonal Health Recordの頭文字をとった略称で、個人の医療や健康に関するデータを意味します。
本記事では、医療・介護・健康分野の情報共有において、その有用性が注目されているPHRについて紹介。具体的なPHRの導入事例を交えながら現場でどのようにPHRが活用できるのか説明しています。

「既往歴や過去の検査データが共有できるようになれば、手間が少なくなるのに。」こんなことを思ったことはありませんか?

新規で来られた患者だと、既往歴や過去の検査データがわからないため、一から情報収集をしなければならないことがあります。一から情報収集をするのは医療従事者にとっても、患者にとっても負担です。

実は現在、日本政府全体で医療情報を共有のために、PHRを活用した仕組みを構築する取り組みが行われていることをご存知でしょうか?[1]

PHRとはPersonal Health Recordの頭文字をとった略称で、個人の医療や健康に関するデータを意味します。

本記事では、医療・介護・健康分野の情報共有において、その有用性が注目されているPHRについて紹介。 具体的なPHRの導入事例を交えながら現場でどのようにPHRが活用できるのか説明しています。


PHR誕生の背景

ある病院を受診していた方が、初診で他の病院を受診したり、救急で病院に搬送されてきたりした時は患者の情報が不明確なことがあります。患者の既往歴や過去の検査データなどの医療情報が不明確だと、情報を患者本人や付き添いの家族から確認しなければならず、迅速な処置や適切な治療ができません。

このような情報の共有不足から生じる不利益を解消しようという仕組みがPHRを活用した取り組みです。

PHRとは、個人の医療や健康に関するデータ

個人の医療や健康に関するデータ

PHRが意味する個人の医療や健康に関するデータとは、過去に受けた治療履歴や既往歴、検査データなどのことです。他にもスマートフォンやスマートウォッチで測定した、毎日の血圧や歩数などのデータも共有できます。

PHRを医療機関で共有できるようになれば、転院や救急で患者が来た際、迅速に個人の情報を確認できます。医療機関にとっては、患者のデータが正確にわかるようになるため、既往歴や過去の検査データをもとに最適な治療を行えるでしょう。

PHRは個人の医療や健康に関するデータを意味します。日本政府の取り組みでは、PHRを個人が自ら管理するように推進。本人が同意すれば医療現場だけではなく、介護や健康予防など、幅広い分野でPHRの活用が可能です。

PHRとEHRの違い

PHRと類似したシステムとして、EHRというシステムを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

EHRはElectronic Health Recordの頭文字をとった略称で、患者の検査データや治療の医療情報に関するデータのことです。医療情報を各医療機関の間で共有して、医療・健康データを患者の治療に活用します。

PHRとEHRは、同じものだと思うかもしれません。確かにPHRとEHRは検査データや治療履歴など同一のデータを含んでいます。しかし、異なる点としてPHRには、EHRには記録されていない患者が自ら記録した毎日の血圧や歩数、体重なども記録されています。

また、EHRは医療機関がデータを管理しているため、患者本人が簡単に確認できません。その点、PHRは自分のデータを自ら管理するため、確認がしやすく、生活習慣を改めるきっかけとしての役割も果たします。


PHRを活用する4つのメリット

PHRは個人が自らのデータを管理し、医療や健康分野で活用していく取り組みです。では、PHRを活用することでどのようなメリットが得られるのでしょうか。

ここではPHRを活用する4つのメリットについて、詳しくみていきましょう。

①患者の医療情報の把握

PHRには、患者がこれまで受けてきた検査データや治療歴、既往歴などが蓄積されます。そのため、初診時や転院時に過去の医療情報を把握でき、その情報をもとにして適切な治療アプローチが行えるようになるでしょう。

検査の二度手間や服薬している薬の確認、既往歴の把握などが容易になるため、より質の高い医療の提供に役立つと考えられています。さらに、PHRは日常の血圧や歩数などのデータを確認することもできるので、生活習慣病の予防改善を目的とした保健指導も行いやすくなるでしょう。

②利用者本人の自己管理促進

医師から食生活や運動習慣を改めるように指導されるだけでは、なかなか行動変容に至らない患者もいるかと思います。PHRは自身で医療や健康に関するデータを管理するため、いつでも情報を確認できるようになり、自己管理の促進につながるでしょう。

人は目に見える具体的なフィードバックがなければ、効果を実感できずにモチベーションの維持が難しいこともあります。そのため、保健指導をされてもすぐに目に見える効果がないと、食事や運動習慣の改善を維持できないケースも。

PHRは日々のデータを簡単に確認してフィードバックを得られるため、生活習慣の改善効果が期待されています。

③災害や緊急時における適切な処置

PHRは災害や緊急時において、適切な処置を行うために役立つと考えられています。

災害が起きた時や急病といった緊急時には、迅速で適切な処置を求められます。しかし、緊急事態において、患者個人の情報を確認するのは簡単ではありません。

患者個人の情報がわからなければ、既往歴による禁忌事項やアレルギーが確認できず、迅速な処置がおこなえません。

ですが、個人がスマートフォンといったデバイスでPHRをすぐに確認できるような状態であれば、情報を迅速かつ明確に確認できます。情報を把握すればできれば、適切な処置が可能です。

PHRは、災害や緊急時における適切な処置の実現に役立つと考えられます。

④個人に合わせた質の高いプログラムの提案

PHRは個人の医療・健康データが把握できるため、データをもとに個人に合わせたプログラムを提案できます。

一人ひとり、体の状態は異なるため、同じ健康指導を行っても効果を十分に得られる方もいれば、効果が乏しい方もいるでしょう。そのため、本来であれば個人に合わせたプログラムの提案が望ましいです。

しかし、個人のデータを一から測定するのは、時間も手間もかかります。そこでPHRを活用すれば、個人のデータをもとにそれぞれに合わせた質の高いプログラムを提案することが可能です。


実際に行われたPHRサービスモデルを紹介

日本政府では、平成28年度から平成30年度にかけて、自治体と協力してPHRサービスモデル・プラットフォーム開発事業を実施しました。4つのテーマに分類し、それぞれのテーマにおいてPHRを活用した事例が紹介されています。[2]

ここでは、実際に行われたPHRサービスモデルについて詳しく見ていきましょう。

妊娠・出産・子育て支援

1つ目は妊娠・出産・子育て支援をテーマにしたPHRサービスモデルです。

産科医院が保有している妊婦検診に関するデータや、自治体が管理している乳幼児検診・予防接種に関するデータ、薬局のお薬手帳のデータなどをPHRとして収集しています。

データを関係者間で共有することで、母子への効果的な健康支援や緊急時の迅速な対応などを実現しました。たとえば、子どもの身長や体重などの情報をもとにした適切な対応や、予防接種のチェックリストを作成します。

他にも、緊急時に救急車で搬送された場合において、救急車に搭載されたタブレットでPHRを閲覧して迅速かつ効果的な処置を実現しています。

疾病・介護予防

2つ目は疾病・介護予防をテーマにしたPHRサービスモデルです。

自治体が保有している介護保険に関するデータや健康診断のデータ、個人が測定する血圧や体重などのバイタルデータをPHRとして収集しています。

自治体やサービス事業者が、収集したPHRをもとに個人や地域に合わせた効果的な介護サービスの提供を実現しました。PHRから把握できる個人の認知症リスク測定や介護リスクなどを考慮したサービスの提供、バイタルデータに基づいて個人に合わせたプログラムの提供を行っています。

生活習慣病の重症化予防

3つ目は生活習慣病の重症化予防をテーマにしたPHRサービスモデルです。

医療機関で測定した検査データや薬局の調剤データ、個人が測定する血圧や体重などのバイタルデータなどをPHRとして収集しています。 本サービスモデルでは、保険者や疾病管理事業者が、PHRを利用することで、糖尿病の重症化予防を実現しました。日本糖尿病学会や日本高血圧学会など6つの臨床学会により検討され、承認を得た「生活習慣病自己管理項目セット」および「PHR推奨設定」が活用されています。

PHRのデータが管理項目で定められた数値を超えると、本人のスマートフォンのPHRアプリに介入アラートが通知されるようになっています。

介入アラートが通知されると、本人の許可のもとでPHRを参照した保険者や疾病管理事業者が受診を推奨したり、適切な指導を行ったりします。早期に介入することによって、生活習慣病の重症化を予防につながるでしょう。

医療介護連携

4つ目は医療介護連携をテーマにしたPHRサービスモデルです。

日本医師会の推進する「かかりつけ連携手帳」を電子化して、医療情報や個人のバイタルデータをPHRとして本人のスマートフォンに保存します。

スマートフォンに個人データが保存されているため、新しい病院を受診した時や災害時の避難先での迅速な情報の共有を実現しました。個人がデータを持ち運ぶことができるため、引っ越してかかりつけの病院が変更になったといった場合にも情報把握がスムーズに行えるでしょう。


PHR実現に向けた今後の課題

PHRは質の高い医療・介護・健康サービスの実現に向けて、良い取り組みだと感じた方も多いのではないでしょうか。しかし、PHR実現には今後対応しなければならない課題があります。[3]

その課題とは次の2つです。

利用者本人が情報管理をしなければならない

PHRは個人の医療や健康などに関するデータを自分で管理します。情報の開示は本人の同意によって行われるため、開示する範囲を自分で決めなければなりません。判断が個人にゆだねられているので、情報セキュリティの面が課題です。

特に高齢者や障害者の方は、自分で管理することが難しいケースもあるでしょう。すべての利用者が安全に利用できるように、セキュリティ面の強化を推進していく必要があります。

デバイスが必要なため普及が難しい

日本政府が推進するPHRシステムでは、スマートフォンといったデバイスにアプリを取り込んで使用することを想定しています。そのため、デバイスを用意するのはもちろん、アプリをダウンロードしたり、操作したりする知識が必須です。

デバイスの準備や、アプリを使用しなければならないことから、PHRを迅速に普及していくのは難しいと考えられています。普及を進めていくには、誰でも簡単に操作できるような利便性の高い仕組みを作ることがキーポイントとなるでしょう。


PHRの活用で医療や健康情報を把握しよう

この記事ではPHRの意味やメリット、活用事例、今後の課題について紹介しました。

PHRは個人の医療や健康に関するデータのことであり、活用できるシステムが普及すれば、質の高い医療や介護、健康サービスの実現につながります。特に正確で迅速な情報把握が求められる医療現場情うにおいては非常に重要です。

PHRはまだ課題が残る点もありますが、開発が進められており、近い将来PHRが普通に使われる未来になるかもしれません。実現した場合にはPHRを活用し、医療や健康情報を把握して質の高い医療が提供できるようになるでしょう。

【参照】

[1]総務省 「医療・介護・健康分野の情報化推進」
https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/iryou_kaigo_kenkou.html

[2]総務省 「PHRサービスモデル・プラットフォーム開発事業(平成28年度〜平成30年度)」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000583121.pdf

[3]総務省 「クラウド時代の医療ICTの在り方に関する懇談会 報告書(案)概要」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Sha
kaihoshoutantou/0000097880.pdf

URL:https://twitter.com/peppepei10

理学療法士として総合病院や訪問看護ステーションでリハビリテーション業務に携わった後、資格を活かして医療系Webライターとして活動。根拠に基づいた記事執筆を得意としており、様々なWebコンテンツにて執筆実績多数。

薬剤師として日本、シンガポールで従事。国際医療ボランティアとしてインドやボツワナ、タイに派遣される。現在は医療ライターとして執筆、コンテンツディレクター、編集長、ライティング講師、Webデザイナーとして活動。


都内大学病院

小児科専門医、医学博士。専門は、アレルギー、免疫。大学病院および地域の基幹病院で小児科医として10数年勤務、ゲノム研究、論文執筆を行う。オンライン診療、患者サポートプログラムなどの監修。正しい医療情報を発信するためにライターとしても精力的に活動中。

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