「今の税理士顧問料、他と比べて高すぎないだろうか?」 「開業にあたって提示された見積もりが妥当か分からない」
クリニック経営において税理士は最も身近なパートナーですが、その費用感は不透明に感じられがちです。一般の事業会社とは異なり、医療機関には「窓口現金の管理」や「概算経費の特例(措置法26条)」など、特殊な専門知識が求められるため、相場も独特な構成になっています。
本記事では、2025年最新の顧問料相場から、費用に差が出る要因、さらには「デキる税理士」を見極めるチェックリストまでを徹底解説します。今の契約が「適正か」を判断する材料としてご活用ください。
クリニックの顧問料は、経営形態と売上規模によって決まるのが一般的です。以下の表は、医療業界に精通した税理士に依頼する場合の平均的な相場です。
| 経営形態 | 月額顧問料 | 決算申告料 | 年間合計(目安) |
|---|---|---|---|
| 個人クリニック | 3万円 〜 5万円 | 15万円 〜 25万円 | 50万円 〜 85万円 |
| 医療法人 | 5万円 〜 10万円 | 25万円 〜 50万円 | 85万円 〜 170万円 |
※売上高1億円前後、定期訪問ありの場合。記帳代行や給与計算などは別途オプションとなるケースが多いです。
同じクリニックでも、契約内容によって料金は大きく変動します。主に以下の3点がポイントです。
税理士や担当者がクリニックを訪問する回数です。「毎月面談して経営数字を把握したい」場合は高くなり、「資料を郵送して年数回の報告で十分」という場合は低く抑えられます。最近ではオンライン面談を活用し、コストを下げる事例も増えています。
クリニック側で会計ソフトに入力(自計化)するか、領収書を丸投げして税理士側に「記帳代行」を任せるかで月額1.5万〜3万円程度の差が出ます。また、自由診療が多いクリニックは仕訳数が膨大になるため、加算対象となることがあります。
医療法人は個人に比べて作成すべき書類(資産総額の登記、事業報告書など)が格段に増えるため、顧問料・決算料ともに1.5倍〜2倍程度になります。さらに節税目的でMS法人を併用している場合は、別途その法人の顧問料が発生します。
「顧問料は安いが、合計すると高かった」という事態を避けるため、別途かかる費用を把握しておきましょう。
社会保険診療報酬が5,000万円以下の場合、「実額経費」ではなく「概算経費」で計算できる特例(措置法26条)があります。 これを選択するか否かで納税額が数百万円変わることも。手間がかかるため別途シミュレーション費用(数万円〜)を設けている事務所もありますが、ここを疎かにする税理士は避けるべきです。
顧問契約の月額料金とは別に、特定の時期やイベントごとに発生する費用があります。これらを含めた「年間トータルコスト」で比較することが重要です。
税務署の調査官がクリニックに来る際、税理士が同席して専門的な見地から意見を述べ、院長先生をサポートする業務です。日当として計算されることが多く、調査が数日に及ぶ場合はその日数分が発生します。また、調査終了後の修正申告が必要になった場合には、別途作成費用がかかるのが一般的です。
スタッフの毎月の給与から天引きした所得税を、1年間の正しい税額に精算する業務です。 「基本料金 + スタッフ人数分」という料金体系が多く、パートやアルバイトが多いクリニックほど総額が高くなります。給与計算を税理士に依頼していない場合でも、この年末調整だけはスポットで依頼するケースがほとんどです。
クリニックが保有するレントゲン、電子カルテ、リハビリ機器などの「動産」に対してかかる税金の申告業務です。 クリニックは高額な医療機器が多いため、毎年1月に自治体へ報告を行う必要があります。機器の台数や増減によって作業負担が変わるため、申告書1枚につき、または資産の件数に応じて費用が発生します。
クリニックの会計には、一般事業とは異なる独自のルールが多数存在します。顧問料の安さだけで選んでしまうと、こうした「医療現場特有の業務」がサポート範囲から漏れ、将来的な税務リスクや事務負担増を招く恐れがあります。
クリニックの税務調査で最も厳しくチェックされるのが、日々の窓口現金です。医療に精通した税理士は、単に帳簿をつけるだけでなく、レセコンから出力される「日計表」と実際の「手元現金」が一致しているか、管理フローの指導まで踏み込みます。このダブルチェック体制を構築することで、意図しない入力ミスや売上の計上漏れを未然に防ぎ、税務署から疑われない健全な経営を実現します。
保険診療と異なり、ホワイトニングや自費検査、診断書作成料などの「自由診療」は、支払基金からの入金確認ができないため、計上漏れが起きやすい項目です。 専門性の高い税理士は、薬剤・材料の仕入量や予約表などと突き合わせ、売上が妥当かどうかを検証します。これは、税務調査での指摘を回避するための「守り」の重要業務です。
令和5年度より、医療法人および一部の個人クリニックを対象に、「医業経営情報(損益計算書等の内容)」を毎年、厚生労働省へ報告することが義務化されました。 この報告には特定のフォーマットへの入力が必要であり、事務負担が小さくありません。医療特化型の税理士であれば、決算業務と並行してこの報告をワンストップでサポートしてくれるため、院長先生の手間を大幅に軽減できます。
出典:厚生労働省|医療法人に関する情報の調査及び分析等について
クリニックを運営していると、管理医師の住所変更やスタッフ構成の変更など、保健所(開設届)や厚生局(保険医療機関指定)への各種変更届が頻繁に発生します。 これら行政手続きのタイミングを把握し、適切にアドバイスしてくれる税理士を選ぶことで、手続き漏れによる診療報酬への影響などの経営リスクを防ぐことができます。
税理士変更を検討すべき具体的なサインを紹介します。
開業時は多額の借入や設備投資が発生します。「節税対策は利益が出てから」と言う税理士ではなく、初年度から消費税還付や青色申告のメリットを最大化する提案があるかを見極めてください。
「質問へのレスポンスが3日以上かかる」「診療報酬改定の話が通じない」「担当者がコロコロ変わり、その都度説明が必要」といった不満は、経営のスピード感を阻害します。これらは変更を検討すべき明確なシグナルです。
「今の税理士を変えるのは気まずい」「手続きが大変そう」と、二の足を踏んでしまう先生も少なくありません。しかし、税理士変更は年度の途中であっても可能です。以下の3ステップを踏むことで、診療に支障をきたすことなくスムーズに移行できます。
まずは、現在の税理士に解約を伝える前に、「次の受け皿(新しい税理士)」を確定させます。 空白期間を作らないことで、月次の試算表作成や給与計算、各種届出の漏れを防ぐためです。新しい税理士に「いつから切り替えたいか」を相談し、スケジュールを組んでもらいましょう。
新しい税理士が決まったら、現在の税理士へ契約解除の意思を伝えます。 一般的には「解約の3ヶ月前」までに通知するよう契約書に定められていることが多いですが、事情によっては話し合いで短縮できるケースもあります。不満をぶつけるのではなく「知人の紹介で」「法人化を見据えて」など、円満な理由を添えるのが実務上のポイントです。
移行にあたり、新しい税理士が過去の経緯を把握するために以下の書類が不可欠です。必ず返却・共有してもらいましょう。
税理士選びで失敗しないためには、単なる「料金の安さ」ではなく、クリニック経営のパートナーとしての「質」を見極める必要があります。面談の際、以下の5つのポイントを必ず確認しましょう。
税理士顧問料は、安ければ良いというものではありません。 月額1万円の差を惜しんで、数百万円の節税チャンスを逃したり、税務調査で不利になったりしては本末転倒です。
大切なのは、「支払っている費用に対して、ストレスなく、経営に資する提案が得られているか」という視点です。もし少しでも違和感を感じているのなら、一度セカンドオピニオンとしてプロの診断を受けてみることをおすすめします。
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