起業家視点から、在宅医療の組織をつくる

みどり訪問クリニック|院⻑ 姜琪鎬(かんきほ)先⽣

Point

  • 起業家マインドをもつ医療⼈、“姜琪鎬”。
  • 疾患と⽣活−両⽅を診るからこそできる“全⼈的医療”に魅⼒。
  • 在宅医療の課題は“連携”−病院と、看護・介護と、情報共有。
  • サマリーは院内での情報共有、新⼈スタッフの育成にも。
  • 業務効率化にICTの恩恵が絶大。外部サービス導入のメリットをクリティカルに考える。
  • これからの在宅医療はグループ診療体制づくりが鍵に。

愛知県名古屋市にある「みどり訪問クリニック」。グループ診療で、在宅医療を提供されています。クラウドクリニックサービスの中で、サマリー作成をご利⽤いただいており、今回は、院⻑の姜琪鎬(かんきほ)先⽣に、在宅医療に対する思いから、サービス利⽤のご感想まで、幅広く、お話をうかがってきました。

 

起業家マインドをもつ医療⼈、“姜琪鎬”。

 

川島はじめに、先⽣のプロフィールをおしえてください。

名古屋市⽴⼤学を卒業後、泌尿器科学教室に⼊局しました。8年間ほど、いくつかの病院で泌尿器科医として研鑽を積みましたが、外の世界が⾒たくなって、渡⽶しまして、ビジネススクールでMBAを取得しました。卒業後は、医師に戻ろうかなと思っていたんですが、私が卒業した2000年頃は、ちょうど、ネットベンチャーが出てきた時代。ケアネット社のように「ネット×ヘルスケア」を⼿がける会社は、まだまだ少なくて、この分野の成長を期待して、ケアネット社に⼊りました。

川島まさに異⾊の経歴ですよね。

疾患と⽣活−両⽅を診るからこそできる“全⼈的医療”に魅⼒。

川島先⽣は、その後、ケアネット社から再び医師へ転⾝されるわけですよね。しかも、もともとの泌尿器科医ではなく、在宅医療をはじめられました。そのきっかけは何だったのでしょう。

ケアネット社時代に、都庁の近くで在宅医療をはじめられた英裕雄先⽣(新宿ヒロクリニック院長)に出会いました。当時は、在宅医療の認知度はとても低くて、制度も整っていなかった。今ほど在宅医療のニーズが出てくるとも思いませんでした。でも、英先生の診療に同行させてもらって、直感的にこれはおもしろい!と思ったんです。

川島⾒学されて、特に、どんなところに魅⼒を感じられたのですか。

医師からすると、病院がホームグラウンドですよね。患者さんの⾃宅は完全なるアウェー。でも、アウェーだからこそ⾒えるものもあるんだと気づいたんです。病院で⾒える部分は、患者さんの疾患だけなんですよ。でも、⾃宅に⼊っていくことで、患者さんの⽣活まで⾒えてくるんです。やっぱり、疾患と⽣活はセットだなと。患者さんの⽣活を、ご家族まで丸ごと診てはじめて、全⼈的医療ができる。そこがおもしろいと感じた最⼤のポイントです。

川島たとえば、⽣活のどんなシーンが診療に役⽴つのでしょうか。

服薬管理が典型です。病院では、患者さんが「薬はちゃんと飲んでいます」といえば、それを信⽤してまた処⽅しますよね。なのに、良くならない。それは、家の中を⾒ればすぐにわかるんです。患者さんとご家族の承諾を得た上で、押⼊れや冷蔵庫などを⾒せてもらうんですが、飲んでいない薬がごそっと出てきたりね。冷蔵庫を⾒れば、きちんと⾷事が摂れているのかもわかります。病気が良くならないヒントは、家中にあるんです。

在宅医療の課題は“連携”−病院と、看護・介護と、情報共有。

川島先⽣は、しばらくケアネット社でのお仕事と並⾏して在宅医療に関わられた後、2012年4⽉に、このみどり訪問クリニックを開業されていますよね。フルタイムで在宅医療に関わるようになって⾒えてきた課題などはありますか。

⽇々、肌で感じているのが連携の問題。看護・介護との連携、そして病院との連携ですね。 まず、在宅医療と看護・介護との連携では、お互いにフラットな⽴場で連絡を取り合って情報共有をしていくことが重要です。たとえば、LINEのタイムラインのようなイメージで、迅速に共有できるのがベストです。いろいろなシステムが開発されていますが、今のところ、これという決定的なものはないですね。

看護・介護との連携は、いかにタイムリーに情報を共有できるか。

川島情報共有というキーワードがでました。私⾃⾝、病院で連携室の仕事に関わっていますが、在宅医療と連携室の情報共有の必要性は、とても感じます。在宅医療側から⾒て、先⽣はどのようにお感じですか。

今後、病床数が減っていく中で、その受け⽫の大部分を在宅医療が代替することになります。しかし、病院の先生方は、まだまだ在宅医療の具体的イメージ、つまり患者さんが自宅で療養するシーンを想像しにくい。ですから、その架け橋が連携室になるわけですが、連携室にすべての機能を負わせるのは、限界があると感じます。

川島そうですね。まず電話がつながらない。患者さんやケアマネージャーからの問い合わせ、書類の不備の対応もすべて連携室がやっていたりします。そうなると、病院の担当医と在宅で診る医師同⼠の連絡もフォローできず、という状態になります。

そう。だから、医師同⼠で情報共有するという意識を病院側の先⽣にも持っていただきたい。療養の場が、病院から家に変わるというのは、我々の想像以上に、患者さんとご家族の不安はとても大きい。その不安をできるだけ取り除くには、病院から在宅へのシームレスな移行が必要不可欠です。病院スタッフと私たち在宅医療に携わるスタッフが、申し送る場として退院カンファレンスは必須のはずなんですが、開催されない場合が少なからずあります。

病院との連携は、医療者同⼠の情報共有が肝になる。 退院カンファレンスやサマリーのやり取りが習慣になれば。

川島逆に在宅医療側から病院への情報共有はどうでしょう。

 

在宅療養中に重症化することはあります。そういう場合は、病院の救急外来にお願いしますが、在宅から病院につなぐやり取りも、定期的な業務として確⽴されていないのが現状です。迅速、かつ、質の伴った正確な情報を病院と在宅の双⽅で共有できることが必要です。患者さんのカルテをサマライズして、クラウド管理するのが良いと思います。サマリーの作成は、時間も⼿間もかかる作業ですが、在宅で患者さんを支える医療者として、当たり前のレベルですし、病院側に対しても礼儀だと思っています。

 

サマリーは院内での情報共有、新⼈スタッフの育成にも。

川島 先⽣には、今回、弊社のサマリー作成サービスをご利⽤いただきました。率直なご感想をお聞かせください。

在宅医療では、いかに効率よくオペレーションを構築していけるかが重要です。私⾃⾝も開業してからのこの4年間、業務設計において、毎⽇が試⾏錯誤の連続でした。だから、クラウドクリニックさんが在宅医療のオペレーション部分の⼿伝いをされると聞いたときは、正直なところ、半信半疑でした。実際には、サマリーの出来映えを⾒て、期待以上に良かったです。過去のカルテをしっかりと読み込んでくれていると感じました。私は評価します。

川島ありがとうございます。在宅医療をやられている先⽣⽅とお話を すると、サマリーを活⽤したいとは思っているものの、なかなか実⾏でき ないという先⽣が多く、ニーズはあるのでは、と感じました。

マンパワーに余裕があれば、⾃前でサマリーをつくることも可能です。でも、医師が⼀⼈で運営しているような診療所では⽇々の診療を回していくだけで精⼀杯。このサマリー作成サービスは、特に、 そういった診療所を支援できますね。あとは、当院のようにグループ診療の診療所。グループ診療の場合、病院や看護・介護といった他職種だけでなく、院内での情報共有も重要ですから、サマリーは活用したいですよね。

グループ診療の体制をとる診療所では、院内での情報共有にもサマリーが効果を発揮。

川島院内での情報共有を強化するという⾯も含め、今回のサマリーでの改善点やご要望はありますか。

 

疾患のサマリーはありますが、医療と生活を包括的に診ていくのなら、介護の世界では常識となっているICF(国際生活機能分類)というモデルも導入して、サマライズしていくべきだと思います。そのためには、ケアマネージャーの計画書、サービス担当者会議の資料まで⾒ていく必要があります。そのサマリーがあると、在宅医の養成にも役⽴つと思います。訪問診療の経験が豊かな医師は、患者さんの家に上がっただけでリスクが⾒えますが、訪問診療に初めて携わる医師には、そもそも、どこをどう⾒ればいいのか、基準がありません。包括的に診る視点を育てるためにも、サマリーは効果があると考えます。

介護のICFモデルをサマリーに落とし込むことで、患者さんの生活を包括的に診る視点を育てることにも。

 

業務効率化にICTの恩恵が絶大。
外部サービス導入のメリットをクリティカルに考える。

川島医師の教育というお話が出ましたが、先⽣は、Zaitaku Hackerという在宅診療の情報をまとめたサイトを運営されていますよね。ケアネット社時代のご経験が活かされた取り組みだと感じます。

在宅医療は、医師の中でも認知が低いという思いがあります。ZaitakuHackerは、30代の医師をターゲットにしています。若い世代にも在宅医療のことをどんどん知ってもらって、関⼼を持ってもらいたい。そして意欲をもって、在宅医療の世界に⾜を踏み⼊れてくれたら。Zaitaku Hackerをきっかけにそういう医師が⼀⼈でも増えたらいいなと思っています。

川島先⽣は、在宅医療を広い視野で考えられていますよね。弊社のサービスは、在宅医療に携わる⽅の負担を少しでも減らして、質の⾼い医療の提供に役⽴ちたいという思いではじめました。ただ、⽣まれたばかりのサービスなので、今後、どうこの業界でアプロー チしていくべきか⼿探り状態です。ぜひ、アドバイスをいただけませんか。

在宅医療のオペレーションが改善したのは、ICTインフラの普及が絶⼤。ICTインフラが現在のように普及していなかったら、今頃、どうやっていたんだろうと思うくらい、在宅医療においては、あたり前のツールとして使いこなす時代になっています。業務の効率化自体は、あくまでも裏方に徹するべきなんですが、訪問診療の質を担保するために重要です。紙カルテを使っている先⽣が、ICT導入で悩んでいたりすると、「この利便性を知ると、後戻りできなくなりますよ!」とアドバイスをすることにしております。そういう先生たちがICTを導入するメリットは、2つ挙げられます。1つ目は、外部サービス導入による効率化によって節約できた時間を、患者さんとご家族とより深いコミュニケーションに充てることができること。2つ目は、先生が雑務から解放されることによる、先生の時給節約が、外部サービスの利用コストを上回ることです。

医師の時給と、外部サービスの利⽤コストを⽐較する等、外部サービスの導入をクリティカルに考える。

川島先⽣は、医療の外の世界でのご経験があるからこそ、起業家としてのマインドをお持ちなんでしょうか。

起業というのは、自身のやりたいことや理念が先行しがちで、一人相撲になりかねないのですが、組織づくりが最も優先されるんだと思います。医師は生真面目で、責任感が強い方が多く、なんでも1人でやろうとする。でも、在宅医療の場合、1人では患者さんとご家族を支えることは難しく、院内を組織化して、外部の他職種と連携しないと在宅療養を維持できません。ですから、自身でやらないことを決めること、適材適所で任せること、業務の効率性を考えることも大事だと思うんです。そこを考えないと、真っ先に犠牲になるのが組織のスタッフですからね。24時間・365日対応を標榜する在宅医療機関は、内在する構造として過酷な労働環境になりがちです。いかに不必要な業務を省いて、質が担保された診療を実現するかをまず考えなければならないと思います。

業務の効率化は、健全な組織文化醸成にも。スタッフが犠牲になっていないか考えることも大切。

 

これからの在宅医療はグループ診療体制づくりが鍵に。

川島弊社が提供するサービスで、こういうものがあったらいいな、というものはありますか。

グループ診療の体制づくりを⽀援するサービスはどうでしょうか。在宅医療の専門性が高い医療機関は、グループ診療の体制を構築できるかどうかが、成長の過程で1つのハードルになります。なので、スタッフの育成も含めたコンサルティングサービスがあると良いと思いますね。特に、院内総務を預かる事務⻑に対してのコーチングは需要があると思います。外来ですと、参考事例も多く、ある程度、業務の設計ができますが、在宅医療はこれからの領域ですので、何がベストプラクティスか、やってみないとわからないのが現状です。診療をサポートする業務も多様で柔軟な対応力が求められます。だからこそ、自分で考えて動けるサポート・スタッフが揃っていると、業務は円滑に進みます。グループ診療の安定化のためにも、サポート・スタッフの充実は土台になるものだと思います。究極は、院⻑がいなくても、⾃分たちで考えて改善していける、成⻑していける組織が目指すところですよね。

川島ぜひ、そういう組織づくりのお⼿伝いもさせていただいて、微⼒でも在宅医療に貢献できればと思います。 本⽇は、貴重なお時間ありがとうございました。

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