よりそう介護を目指した運営
社会福祉法人ウェフェア仙台様は1994年7月、設立者である本多三學氏が故郷・宮城県伊具郡丸森町への恩返しの意を込めて開設しました。「仁愛と奉仕」の理念の下、利用者(要介護者)様が安心かつ心豊かに過ごせるように、またそれらの活動を通じて地域社会に貢献することを目指しています。2023年2月現在、丸森町と仙台市にて、特別養護老人ホームやデイサービスセンター、高齢者グループホームなど3拠点・6施設を運営しています。
仙台市街が見渡せる大年寺山の頂上、野草園に隣接する特別養護老人ホーム「大年寺山ジェロントピア」は、2010年に開業しました。長期入所60床・ショートステイ10床を有し、長期入所は要介護3以上に認定された人が対象です。介護職員35人と、嘱託医師や看護師、専属管理栄養士が連携し、利用者様の健康で安心・安全な日常生活を支えるとともに、利用者様一人ひとりと向き合い、“よりそう介護”を提供しています。
排せつ情報把握にさまざまな工夫
社会福祉法人ウェルフェア仙台
特別養護老人ホーム 大年寺山ジェロントピア
施設長 加藤 平氏
介護現場においては、食事介助・入浴介助・排せつ介助が「三大介護」と言われ、利用者様の身体に直接触れ、かつ生活に欠かせない介護と位置付けられています。利用者様の介護度によって差はありますが、準備を含めると1日10回以上の作業が伴い、場合によっては利用者様1人に対して職員2人がフォローに当たります。
この介護業務に欠かせないのが「リズム表」です。これは、食事の摂取と排せつ、入浴、体調(脈拍や血圧などのバイタル)などの情報が網羅されていて、1ユニット10人分を一覧表にしています。特に排せつ情報は、利用者様の健康のバロメーターとなるため、回数や量、性状、色などの情報をその都度確認しリズム表に記入。介護職員間における情報共有と、スムーズな引き継ぎに欠かせないものになっています。さらに同表は、介護ソフトに入力・保存し、利用者様を支える関係者間で共有できるようにしています。
記入に際し排せつ情報はある程度記号化していますが、見た目の判断が伴うことから、どうしても確認者の主観が入ります。施設長の加藤平氏は、「ベテランになれば排せつ物の状態から異常を察することもできますが、なかなか判断が難しいことも多い」と話します。
また、自立歩行ができる利用者様の場合、介護職員が他の利用者様の介助を行っている間に自分でトイレに行ってしまい、排せつ情報を把握しきれないこともあります。そのため、便臭をチェックしたり、トイレットペーパーの減り具合を確認したりと、排せつ行動の確認に予備動作が発生することも。また、介護職員による業務は一連の動線で組み立てられているものの、リズム表から介護ソフトへの入力などの間接業務は、介護業務の合間を縫って対応する必要があります。
さらに、「自分の排せつ内容を話すのが恥ずかしいという利用者様もいるため、その気持ちにどう配慮するか、という点も、現場としては大きな課題でした」(加藤氏)。
選択のポイント
トライアルで有用性を確認。現場の声が後押し
社会福祉法人ウェルフェア仙台
特別養護老人ホーム 大年寺山ジェロントピア
事務長 鈴木 信宏氏
2021年秋、他のシステム導入でご縁があったNECプラットフォームズの担当者から、NECサニタリー利用記録システムについて提案を受けました。排せつに特化した新しいシステムだったため、まずはトライアルを行い、現場職員の使い勝手などを調査することにしました。
トライアル当初、「今までにないタイプのシステムだったので、使い方を覚える必要があり、有用性についても『とにかく試してみよう』という状態でした」と加藤氏が話すように、現場でも半信半疑の様子だったといいます。
しかし実際に使ってみたところ、排便・排尿の回数や内容が正確に把握できることが確認できました。「特に、認知症の利用者様からは正確な排せつ情報を得ることが難しく、記録漏れが発生していました。それが同システムによってしっかり把握できることがわかったため、現場から『これはいいね』という声が上がりました」と、事務長 鈴木信宏氏は振り返ります。加藤氏も「導入に懐疑的だった職員からも『わかりやすくていい』という声が上がり、それがほかの職員にも伝わり、『自分たちの担当している利用者様にも導入してほしい』との要望につながった。現場からの声が導入を後押ししました」と話します。 導入には宮城県の「介護ロボット・ICT導入支援事業」を活用することで、初期投資を抑えられるめどもつき、2022年1月からの段階的な導入を決定しました。
導入後の成果
正確かつ確実に排せつ情報を把握
排せつ検知センサで感知された排せつ物の分析情報は、職員の持つスマホやタブレットといった携帯端末に送信されます。運用を開始してみると、排せつの回数や色・性状などの精度はリズム表とほぼ変わらず、合致率も非常に高いといいます。排便形状は7段階で表示でき、また着座時間といった今まで把握できなかった部分も確認できるようになったため、利用者様の状態が詳細に把握できるようになりました。加藤氏は「排せつ時の転倒や体調変化についても、着座時間から推測できるようになり、排せつ情報の正確かつ確実な把握に加えて、見守りの質もより高まったと思います」(加藤氏)。
介護職員のタブレットへリアルタイム通知および排せつ部通分析情報を表示
業務の負担軽減・効率化を実現
「排せつ状況の確認作業」が簡素化されたことで、一連の介護業務の1つを軽減化することができました。介護業務は多岐にわたるため、相対的に作業時間や業務が削減できるわけではありませんが、「その分の時間で利用者様とのコミュニケーションを増やしたり、職員同士の打ち合わせを増やしたりなど、利用者様のQOL(生活の質)の向上につながる業務が手厚く対応できるようになっているのでは」と推測しています。
簡易・省施工性かつストレスフリーな設備
設備面では、排せつ検知センサの便器ふちへの取り付けと、便器裏に制御ボックスを置くのみということで、利用者様も今までどおりにトイレを使用できているようです。センサで感知し分析した情報の送信は、施設内のWi-Fi環境が活用でき、個室内トイレであっても問題なく稼働しています。
また、途中で使用する利用者様の変更がありましたが、NECプラットフォームズの営業担当者にフォローしてもらいながら自分たちで移設。「何か不具合が出るのではないか、通信状況に合わせて調整が必要なのではないかと心配でしたが、そういったことは全くなく、今までどおりに使えています」(加藤氏)。
排せつ情報は、色や量など、それぞれイラストによるアイコンで識別できます。トライアル時に出た現場の意見を反映したことで、「これまでの内容と違和感もなく、わかりやすい」と現場でもスムーズに受け入れられています。
便器の縁(便座の下)に設置している排泄検知ユニット
利用者様のプライバシーをより配慮できる環境に。介護側の心理的負担も軽減
排せつ介助を「恥ずかしい」と感じる利用者様がいる中で、排せつ情報を聞くこともプライバシーに配慮しながらの業務となることから、利用者様・介護職員ともに心理的負担があるといえます。今回のシステム導入によって、利用者様の気持ちにより配慮した対応ができるようになりました。さらに、「現場からも、利用者様に聞かなくても確認でき、気持ちが楽になったという声が寄せられました。利用者様だけでなく、職員にとっても導入してよかったと思います」と鈴木氏は話します。
利用者様によりそう機能を
今後、超高齢化社会に伴い介護ニーズは高まる一方ですが、慢性的な人材不足や職場環境の改善を図るため、ロボット・ICT・AIの実用化が推進されていくと見込まれています。ICTの活用による人員配置基準の緩和が検討される中で、同施設においても市販の見守りカメラを活用するなど、限られた予算内で工夫をしています。
さらに、「介護のプロとITのプロが連携すれば、よりよい介護につながるアイデアが生まれるのでは」(加藤氏)とし、収集・蓄積した情報の活用方法や、介護施設別のニーズに合ったシステム・機能などの提案にも期待を寄せています。