レセプトのオンライン請求への移行期限が、原則2024年9月末までとなっています。
しかし、2024年2月時点では、オンライン請求への移行が完了した歯科医院は全体の55%にとどまります。
本記事をお読みの方は、オンライン請求への移行に向けて準備は進んでおりますでしょうか?
9月末までにオンライン請求への移行が難しい場合は、届出も必要になるため早めの準備が必要です。
本記事では、オンライン請求義務化に向けて、まだ準備の出来ていない歯科医院が取るべき対策について解説しています。オンライン請求への移行に向けて、どういった準備をすればいいのかや、オンライン請求のメリット・デメリットについて解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
医療機関におけるレセプトのオンライン請求を推進すべく、厚生労働省は「オンライン請求の割合を100%に近づけていくためのロードマップ(案)」を公開しています。
このロードマップでは、2024年9月末を期限として、オンラインでのレセプト請求への移行を原則「義務化」していと示されています。これは病院やクリニックに限らず、歯科医院においても同様です。
なお、届出を行うことで、10月以降もこれまで通り光ディスクや紙レセプトでの運用を継続することも可能です。
出典:厚生労働省「オンライン請求の割合を100%に近づけていくためのロードマップ(案)」
2024年10月以降もCD-R等の光ディスクを用いた請求を継続する場合は、届出が必要になります。オンライン請求への「移行計画書」を提出することで、最大1年間の以降猶予期間を得ることができます。届出の期限は2024年8月31日となっています。
特定の条件を満たす場合に限り、届出を行うことで紙レセプトの継続使用が認められています。届出の詳しい内容は厚生労働省のホームページをご確認ください。
出典:厚生労働省「現在、光ディスク等や紙レセプトで請求を行っている医療機関・薬局の皆さまへ」
出典:厚生労働省「2024年度以降の取扱いと必要な届出について」
オンライン請求への移行機関の期限が近づいてきておりますが、まだ準備の出来ていない歯科医院も多いのではないでしょうか?これまでの運用を変えることに、抵抗感もあると思います。しかし、オンライン請求の移行期限はもうすぐそこまで迫っています。対策がまだの方はぜひ、いま一度やるべきことを整理して準備をすすめましょう。
先に記載しております通り、移行計画書を作成して、届出を行うことで1年間の移行猶予期間を得ることができます。9月末までにオンライン請求への移行に踏み切るのか、それとも移行計画書を作成して、これまで通りの運用を継続するのか、歯科医院としての方針を早いうちに決定しましょう。
まずは、レセプト送信用のパソコンとネットワーク回線が必要です。送信用パソコンに関しては、レセコンとの共用ができます。
ネットワーク接続するには、以下のいずれかの方式を選ぶ必要があります。
ネットワーク回線事業者については、支払基金ホームページを参照してください。
オンライン請求へ移行する場合、これまでのレセプト請求の方法と大きく変わるため、慣れない操作に不安を感じる方も多いことでしょう。そんなときに頼りにして頂きたいのがレセコンメーカーです。
お使いのレセコンメーカーがオンライン請求に対してどのようなサポートをしてくれるのかを、事前に確認しておくとよいでしょう。
ここで気を付けて頂きたいのが、オンライン請求の移行期限が近づくにつれて、レセコンメーカーへのお問い合わせが集中することです。既にレセコンを導入済みの歯科医院であっても、オンライン請求に対してのメーカーのフォローが手薄になる事態も想定されます。
電話対応やメールでのサポートだけでなく、デジタルマニュアルやQ&A、動画解説など、自己解決できる手段として他のどのようなサポート体制があるのかも大事なポイントです。
歯科レセコンの入れ替え・新規導入を検討されている方はおすすめ歯科レセコン・電子カルテ比較12選|価格や選び方までの記事を参考にしてみてください。
レセプトオンライン請求の申請は、以下の流れで申請を行います。
オンライン請求に関する届出に関しては、以下のページ経由で申請できます。
令和6年2月時点の支払基金への請求状況を以下の表にまとめました。この表から、歯科では医科・調剤と比べてオンライン請求への移行が遅れている状況が分かるかと思います。
オンライン請求に移行出来ている歯科医院は全体の55%にとどまります。
区分 | 電子レセプト/オンライン | 電子レセプト/電子媒体 | 紙媒体 |
---|---|---|---|
医科 | 83,977(89.1%) | 8,098(8.6%) | 2,218(2.4%) |
歯科 | 36,691(54.9%) | 25,472(38.1%) | 4,678(7.0%) |
調剤 | 60,070(98.7%) | 390( 0.6%) | 402(0.7%) |
出典:社会保険診療報酬支払基金「請求状況(医療機関数・薬局数ベース) 【令和6年2月診療分】」
反対意見もあるレセプトオンライン請求の義務化ですが、移行するメリットはあるのでしょうか。ここでは、レセプトオンライン請求を導入するメリットについて解説します。
レセプトオンライン請求では、事務点検機能により事前にエラーチェックができます。これは、オンライン請求を受付する際に、自動的にレセプトをチェックできる機能です。
エラーチェックによりミスが減るので、保険者側の事務作業の削減につながります。
例えば、以下のような項目をチェック可能です。
など、単純なミスを防げるため、返戻レセプトを減らすことにもつながるでしょう。
レセプトオンライン請求により、セキュリティの強化につながります。
暗号化通信だけでなく安全性が確保されたネットワーク回線を使用するため、従来の請求に起きうる書類の破損や紛失がなくなります。
また、医療費の不正請求防止にもなるでしょう。
医療現場では、医療機関間での診療情報の共有は非常に大切です。救急医療や災害の現場などで、情報の共有ができていれば、医療安全の確保や効果的・効率的な治療を行えます。
レセプトオンライン請求の導入により、医療情報の共有化が進むので、医療の質が向上するきっかけにもなるでしょう。
レセプトオンライン請求のメリットに、返戻レセプトをデータで受け取ることができる点が挙げられます。
オンライン請求を導入している医療機関では、返戻レセプトを「紙」と「電子データ」で返戻レセプトを受け取ることが可能です。
電子データで返戻レセプトを受け取る場合は、オンライン上でCSV形式のデータとしてダウンロードすることもできます。
ASPができる点や電子データで一元管理できる点から、電子データで返戻処理を行う医療機関が増えていくでしょう。
次に、レセプトオンライン請求のデメリットを解説します。
レセプトオンライン請求を導入するには、システム導入にかかる費用が必要です。
初期費用として、以下の例が挙げられます。
オンライン請求用のPC | 10万円 |
---|---|
外付CD/DVDドライブ | 1万円 |
電子証明書発行料 | 1,500円 |
インターネット接続にかかる初期費用 | 28,000円 |
なお、毎月のネットワーク費用は、6,000円程度です。オンライン請求の導入費用は、15万円程度となります。
また、初期設定をシステムベンダーに依頼する場合は、追加の費用もかかるでしょう。
レセプトオンライン請求は、PCを使って操作するため、IT知識が求められます。主に、レセプト作成→点検→データ修正→オンライン提出までの流れを、医療事務は身につけなければなりません。
そのためには、教育や採用コストが必要となるでしょう。医療機関内にオンライン請求に詳しいスタッフがいない場合、システムベンダーに教育を依頼することも可能です。
レセプトオンライン請求の対応に慣れるまで時間がかかるのがデメリットといえるでしょう。
オンライン請求を実施するためには、インターネット回線が必要です。そのため、ネットワーク環境が悪い場合は、接続エラーになってしまうデメリットがあります。
また、インターネット回線の開通には時間が必要です。工事が必要な場合は、数ヶ月かかる場合もあるため早めに申し込みしましょう。
全国の医師・歯科医師10万人以上で構成されている医療団体「全国保険医団体連合会」がオンライン請求義務化に対する反対を求める声明を出しています。
ここでは、その概要と反対している理由について見ていきましょう。
全国保険医団体連合会は2023年3月28日付けで、「診療報酬オンライン請求「義務化」方針の撤回を求める(声明)」を発表しました。オンライン請求の義務化は、医療機関に負担と混乱を招くものとして、強く反対の意を示しています。
以下は、全国保険医団体連合会の声明をまとめたものです。
「今回のロードマップは、医療機関の置かれている状況を全く考慮していないものです。コロナ感染拡大に伴い、地域の医療機関に大きな負担がかかり続ける中、オンライン請求を強制するようなことは容認できません。医療機関にオンライン請求を実質義務付ける提案を、即時撤回するよう求めるもの」
という内容です。
出典:診療報酬オンライン請求「義務化」方針の撤回を求める(声明)
ではなぜ、オンライン請求義務化に反対しているのでしょうか。
具体的には、小規模で光ディスク請求を選択している歯科では、影響が大きいと予想されており、歯科診療の安定確保が危ぶまれるからです。
紙レセプトを請求する割合が多い高齢医師や歯科医師なども、紙レセプトは「経過的な取り扱いであることを法令上明確化」した上で、改めて届出を提出しなければなりません。
そのため、余計な負担がかかり、閉院・廃院に繋がりかねない事態となることを危惧しているのです。
本記事では、レセプトのオンライン請求の義務化について解説してきました。
政府は2024年9月末までに、オンライン請求に移行することを義務化する方針を示しています。期限内でのオンライン請求への移行が難しい場合は、「移行計画書」を作成し、届出を行うことで最大1年間の以降猶予期間を得ることができます。
いずれにせよ、医院としての方針を早いうちに決定し、各種届出や、PCや通信環境の準備、レセコンメーカーへのサポート内容の確認など、やるべき準備が多々あります。
まだオンライン請求への移行に向けて対策の出来ていない方は、本記事を参考に準備を進めていきましょう。