オンライン請求システムは、従来の紙やフロッピーなどを審査支払機関にレセプト請求を行っていたものを、安全なネットワークを利用して請求データ(レセプトデータ)をオンラインで受け渡す仕組みです。
本記事では、レセプトオンライン請求義務化の概要に触れつつ、反対意見が出ている理由、オンライン請求のメリット・デメリットなどについて解説します。レセプトのオンライン請求義務化について不安に感じている方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
目次
厚生労働省は、光ディスクなどで請求する医療機関に対して、2024年9月末までにオンライン請求への移行を実質義務化するロードマップを発表しました。
このロードマップは、オンライン請求の割合を100%に近づけるためのものです。
また、紙レセプト請求機関に対しては、経過的な扱いとした上で、2024年4月以降は新規適用を終了する方針を示しています。
オンライン資格確認整備の義務化に便乗した形となり、医療機関には負担と混乱を招き、反対意見も多く上がっています。
特に小規模で光ディスク請求を行っている6割程度の歯科分野を中心に、影響が大きく歯科診療の安定確保も危ぶまれる状況です。
ただし、現状は政府の方針が示されただけであり、法的に「義務化」されたわけではありません。実質義務化の方向に進んでいるといえるでしょう。
出典:厚生労働省「オンライン請求の割合を100%に近づけていくためのロードマップ(案)」
ここでは、レセプトオンライン請求について概要を深掘りしていきます。
レセプトオンライン請求が対象となる医療機関は決められています。それが以下の医療機関です。
次に、上記の医療機関でオンライン請求しているのはどのくらいの割合か見ていきましょう。
令和5年2月時点の支払基金への請求状況を以下の表にまとめたので、参考にしてください。
点数表 | 電子レセプト/オンライン | 電子レセプト/電子媒体 | 紙媒体 |
---|---|---|---|
医科 | 73,958(78.3%) | 17,633(18.7%) | 2,833(3.0%) |
歯科 | 22,034(32.6%) | 40,198(59.4%) | 5,426(8.0%) |
調剤 | 59,306(98.3%) | 464( 0.8%) | 588(1.0%) |
上記の表を見ると、医科、調剤では一定の割合でオンライン請求が実現していますが、歯科は3割程度に止まっています。
厚生労働省は、2024年9月末までに原則オンライン請求に移行するとしています。新規適用を2024年6月4月から終了し、既存機関は2024年9月末までに原則オンライン請求に移行しなければなりません。
光ディスクなどの請求を続ける期間に関しては、移行計画の提出を求め、1年単位の経過的な取り扱いとします。
全国の医師・歯科医師10万人以上で構成されている医療団体「全国保険医団体連合会」がオンライン請求義務化に対する反対を求める声明を出しています。
ここでは、その概要と反対している理由について見ていきましょう。
全国保険医団体連合会は2023年3月28日付けで、「診療報酬オンライン請求「義務化」方針の撤回を求める(声明)」を発表しました。
オンライン請求の義務化は、医療機関に負担と混乱を招くものとして、強く反対の意を示しています。
以下は、全国保険医団体連合会の声明をまとめたものです。
「今回のロードマップは、医療機関の置かれている状況を全く考慮していないものです。
コロナ感染拡大に伴い、地域の医療機関に大きな負担がかかり続ける中、オンライン請求を強制するようなことは容認できません。
医療機関にオンライン請求を実質義務付ける提案を、即時撤回するよう求めるもの」という内容です。
出典:診療報酬オンライン請求「義務化」方針の撤回を求める(声明)
ではなぜ、オンライン請求義務化に反対しているのでしょうか。
具体的には、小規模で光ディスク請求を選択している歯科では、影響が大きいと予想されており、歯科診療の安定確保が危ぶまれるからです。
紙レセプトを請求する割合が多い高齢医師や歯科医師なども、紙レセプトは「経過的な取り扱いであることを法令上明確化」した上で、改めて届出を提出しなければなりません。
そのため、余計な負担がかかり、閉院・廃院に繋がりかねない事態となることを危惧しているのです。
反対意見もあるレセプトオンライン請求の義務化ですが、移行するメリットはあるのでしょうか。ここでは、レセプトオンライン請求を導入するメリットについて解説します。
レセプトオンライン請求では、事務点検機能により事前にエラーチェックができます。これは、オンライン請求を受付する際に、自動的にレセプトをチェックできる機能です。
エラーチェックによりミスが減るので、保険者側の事務作業の削減につながります。
例えば、以下のような項目をチェック可能です。
など、単純なミスを防げるため、返戻レセプトを減らすことにもつながるでしょう。
レセプトオンライン請求により、セキュリティの強化につながります。
暗号化通信だけでなく安全性が確保されたネットワーク回線を使用するため、従来の請求に起きうる書類の破損や紛失がなくなります。
また、医療費の不正請求防止にもなるでしょう。
医療現場では、医療機関間での診療情報の共有は非常に大切です。救急医療や災害の現場などで、情報の共有ができていれば、医療安全の確保や効果的・効率的な治療を行えます。
レセプトオンライン請求の導入により、医療情報の共有化が進むので、医療の質が向上するきっかけにもなるでしょう。
レセプトオンライン請求のメリットに、返戻レセプトをデータで受け取ることができる点が挙げられます。
オンライン請求を導入している医療機関では、返戻レセプトを「紙」と「電子データ」で返戻レセプトを受け取ることが可能です。
電子データで返戻レセプトを受け取る場合は、オンライン上でCSV形式のデータとしてダウンロードすることもできます。
ASPができる点や電子データで一元管理できる点から、電子データで返戻処理を行う医療機関が増えていくでしょう。
次に、レセプトオンライン請求のデメリットを解説します。
レセプトオンライン請求を導入するには、システム導入にかかる費用が必要です。
初期費用として、以下の例が挙げられます。
オンライン請求用のPC | 10万円 |
---|---|
外付CD/DVDドライブ | 1万円 |
電子証明書発行料 | 1,500円 |
インターネット接続にかかる初期費用 | 28,000円 |
なお、毎月のネットワーク費用は、6,000円程度です。オンライン請求の導入費用は、15万円程度となります。
また、初期設定をシステムベンダーに依頼する場合は、追加の費用もかかるでしょう。
レセプトオンライン請求は、PCを使って操作するため、IT知識が求められます。
主に、レセプト作成→点検→データ修正→オンライン提出までの流れを、医療事務は身につけなければなりません。
そのためには、教育や採用コストが必要となるでしょう。医療機関内にオンライン請求に詳しいスタッフがいない場合、システムベンダーに教育を依頼することも可能です。
レセプトオンライン請求の対応に慣れるまで時間がかかるのがデメリットといえるでしょう。
オンライン請求を実施するためには、インターネット回線が必要です。そのため、ネットワーク環境が悪い場合は、接続エラーになってしまうデメリットがあります。
また、インターネット回線の開通には時間が必要です。工事が必要な場合は、数ヶ月かかる場合もあるため早めに申し込みしましょう。
レセプトオンライン請求へ移行する際、どのような準備が必要なのでしょうか。ここでは、移行準備について解説します。
まずは、レセプト送信用のパソコンとネットワーク回線が必要です。送信用パソコンに関しては、レセコンとの共用ができます。
ネットワーク接続するには、以下のいずれかの方式を選ぶ必要があります。
ネットワーク回線事業者については、支払基金ホームページを参照してください。
オンライン請求は、従来の請求と違った運用になるため、教育や研修が必要になります。必要最低限のIT知識が必要になるため、操作が苦手な方も出てくるでしょう。
教育するスタッフがいない場合は、システムベンダーに教育することもできます。しっかりとスタッフ教育を実施し、操作トラブルが発生しないように準備しましょう。
レセプトオンライン請求の申請は、以下の流れで申請を行います。
オンライン請求に関する届出に関しては、以下のページ経由で申請できます。
本記事では、レセプトのオンライン請求の義務化について解説してきました。
政府は2024年9月末までに、オンライン請求に移行することを義務化する方針を示しています。しかし、医療機関では反対意見も出ており、義務化の撤回を求める声も多いです。
レセプトのオンライン請求は、「医療費の不正請求の防止」「医療情報の共有化が進む」などのメリットがあります。
このようなメリットがありながらも反対意見が出ている理由としては、歯科への影響が大きく安定確保が危ぶまれるからです。
レセプトのオンライン請求の義務化に関しては、方針を示している段階なので、法的な影響は現在ありません。
しかし、義務化された時のためにも、本記事を参考に準備できるようにしておきましょう。