介護施設での職員の負担が大きく、人材確保に困っていませんか。施設の入居希望者は途切れることがなく、実際に入居している方の介護はスタッフの大きな身体的負担となっています。そのため介護施設での業務を効率化し、スタッフの負担を軽減することは急務です。
昨今、介護の現場でアシストスーツが注目されるようになっています。これを導入することで業務効率化やスタッフの負担軽減になり、人材の定着度が高く働きやすい職場の実現にもつながるでしょう。
今回はアシストスーツを導入するメリットとデメリット・選び方を解説します。ぜひ最後までお読みください。
アシストスーツとは、身体の動きを補助する設備を背負うなどして固定し、持ち上げなどの動作をスムーズにアシストするための製品です。 モーターやセンサーなどの機械設備を搭載したり、衣服や外骨格型の装置を使ったりするタイプもあります。
2019年にはダウンタウン浜田さんの起用したテレビCMが話題になるなど近年注目されており、今後もさらなる成長が期待できるアイテムといえるでしょう。
アシストスーツは、農業や物流・建設・工場・介護などの分野で導入されています。 株式会社矢野経済研究所の行った パワーアシストスーツ市場に関する調査を実施(2021年)によれば、アシストスーツの市場規模(メーカー出荷金額ベース)は、2019年度と2020年度はほぼ横ばいで推移したものの、2021年度以降は右肩上がりで成長が見込まれる分野です。
種類は次の3種類があります。
サポータータイプ | サポーター感覚で気軽に利用できる |
---|---|
パッシブ型 | 装着者の姿勢の変化や動きをエネルギーとして蓄えてその復元力をアシスト力とする |
アクティブ型 | 外部エネルギーにより動力源を駆動 |
詳しくは後ほど解説します。
耐用年数は製品構造により異なりますが、3〜4年程度が目安です。 センサーやモーターの有無にもよるので、メーカーや取扱業者に確認しましょう。
なお、アシストシーツは、パワー(ド)スーツやパワーアシストスーツと呼ばれることもあることもありますが、今回は「アシストスーツ」と統一して表記します。
アシストスーツが普及しているのは、次の効果が期待されているからです。
これらの社会的背景について説明しましょう。
現在、日本は少子高齢化が社会的な問題になっており、介護業界のみならず多くの業界に影響が及んでいます。日本全体で介護を必要とする高齢者が多い一方、介護業務を担う年代が減っているという構造です。また、実際に介護業界で働いている人は、60歳以上の割合が多いとも言われています。
介護職場は精神的・肉体的に仕事が大変なことに対し、社会的評価が低い傾向があります。介護を受ける人やその家族、医療機関スタッフや外部の関係者など、さまざまな人と関わるため、ストレスを感じる職場です。これらの職場を取り巻く環境を改善する必要があります。
介護の現場では、ベッドや車いすを使うことが多いことから、移乗や入浴・排泄の支援・体位変換の作業の際に大きな身体的負担があります。介護職員に腰を痛めているものは多く、腰痛を理由に職を離れるものも少なくありません。アシストスーツを使用すると、持ち上げ作業において身体への負荷を軽減できるので、高齢者支援の作業能率が上がり職員の身体的負担を軽減することができます。
アシストスーツは農業や物流・建設・工場・介護などさまざまな分野で使われていますが、ここでは介護向け製品の導入メリットを説明します。
これらは前項で触れた社会的背景を踏まえて、介護職員の負担を大幅に軽減するものです。
厚生労働省の介護労働の現状によると、介助に携わる職員は女性や高齢者の職員が多いのが現状です。
職員は若ければ良いものではなく、これまでの経験や細やかな気遣いが必要とされるので、女性や高齢者が求められる傾向があります。 負担の大きい作業もアシストスーツが補助してくれるので、持ち上げ作業時の負荷を軽減できます。(20kgのコンテナ持ち上げ時、10~30%の力を補助の効果)
介護業務中は立ち仕事や中腰の機会が多く、介護職員は腰痛で悩むことが多いです。厚生労働省の業務上疾病発生状況等調査(令和2年)によれば、介護を含む保健衛生業で業務上発生した疾病のうち、腰痛の割合は27.8%となっています。この結果から新型コロナウイルス感染症を除くと、大半が腰痛に見舞われていることがわかるでしょう。
業務上疾病(全体) | 災害性腰痛 | 新型コロナウイルスり患 | |
保健衛生業(介護含む) | 6,969件 | 1,944件(27.8%) | 4,578件(65.5%) |
介護職は腰痛になりやすいと悩んでいる人が非常に多いと言えます。
介護に従事する職員は腰への負担があるため職員配置が難しく、腰に不安のある職員をなかなか配置することができず作業が滞ることがありました。 アシストスーツ導入後は、介護作業の腰への負担が軽減し作業が楽になったと感じ、背筋が伸び疲れにくくなったという声が聞かれます。 作業効率がアップし、作業時間の短縮につながるといえるでしょう。
介助作業時に負担を軽減してくれるアシストスーツですが、デメリットもあります。 成長が続く分野なので、現時点ではまだまだ不安を感じることがあるかもしれません。 ここでは次の3点について押さえておきましょう。
介護用アシストスーツは便利だけど、着脱するのにハードルが高く手間がかかるという点が心配されることがあります。 タイプによっては介助時にスムーズに装着できるような製品も出ていますが、まだまだ装着に時間がかかり、とっさの場合に対応できないことがあるのも事実です。 これについては、今後メーカー側の改良により、装着の際の時間短縮と簡単さが進んでいくでしょう。
介護用アシストスーツの導入による一番のデメリットは、導入費用が高額なものが多いということです。
サポータータイプやパッシブ型は数万円台からと値段もこなれていますが、アクティブ型のアシストスーツは介護ロボットとも呼ばれるように、動力や最先端のセンサーなどが組み込まれています。従ってかかる費用も高額になり、価格帯の目安は次のようになっています。
参考:アシストシーツ農林水産省
アシストスーツの使用には、不測の事故やトラブルの恐れもあります。 機器のトラブルの主な種類は、使用中の突然の停止やバッテリーなどの発火などです。
機器停止のトラブルはどんな製品にも発生する可能性があることに加え、バッテリーの安全性の問題はアシストスーツに限りません。 メーカーの技術開発による安全性のさらなる向上を期待しましょう。
また、不測の事故としては、アシストスーツの使用方法に関するものが多いようです。 介護者の身体の固定がうまくいかず不安定になったり、スーツを着た状態で構内PHSをしまい込んで連絡できなくなったりと、操作や作業に不慣れなことに起因する事例も報告されています。
このようなトラブルは、慣れないうちに想定外のことがあると起こるので、経験を積み複数人で作業に当たるなどの対策が必要でしょう。
アシストスーツの種類は、主に動力の有無により次の3種類に分けられます。
それぞれの特徴と価格の概要は次のようになります。
特徴 | 価格 | |
---|---|---|
サポートタイプ | サポーター感覚で使用 | 数万円〜 |
パッシブ型 | ・動力を使わない ・空気圧などの反発力を利用する | 数万円〜数十万円 |
アクティブ型 | ・動力やセンサーを利用する ・身体へのサポート効果が大きい | 数十万円〜100万円程度 |
サポートタイプは、動力を使わずサポーターの感覚で使えます。 生地素材の反発力や収縮力を利用するとともに、ベルトや人工筋肉によっても姿勢を保ってくれるスーツです。
サポートタイプの代表的なメーカーに、ダイヤ工業株式会社があります。 例えば、DARWING Hakobelude(ダーウィン ハコベルデ)は、背中を覆うタイプのスーツです。
肩から腰・脇から腰にかけてカバーする特殊高反発ゴムと、腰から大たい部にかけての同じ特殊ゴムや人工筋肉が配置されています。 ゴムの収縮する力で上半身を起こしてくれるような感覚です。 空気を人工筋肉に注入することで、中腰の姿勢を維持するために必要な背部の筋肉を補助する働きがあります。
持ち上げの作業と長時間の中腰作業の両方に効果を発揮するアシストスーツといえるでしょう。
パッシブ型は、動力を使わず空気圧や支柱構造体などによって身体の動きをアシストしてくれるスーツです。 動力を使わないので、バッテリー切れの心配がなく低価格なのがメリットとなります。 この型は身体を前屈させてから戻す際に、空気圧などの反発力を利用してサポートしてくれるタイプです。
代表的なメーカーに株式会社イノフィスがあります。 マッスルスーツEveryは、手動で空気を注入し、ふくらんだ人工筋肉の反発力でアシストする仕組みです。 このスーツには、ソフトフィットとタイトフィットの2種類があります。
ソフトフィット | 35度にかがんだ状態から補助力が発生する | 荷物の持ち運び作業などに適している |
---|---|---|
タイトフィット | 少しかがんだ状態から補助力が発生する | ベッドメイクなどの中腰姿勢に向いている |
ホームセンターや通販サイトでも購入できます。
モーターとセンサーでしっかり制御して駆動するのが、アクティブ型です。 センサーで人の動きを検出し、必要なときにモーターが駆動して動きをアシストしてくれるので、作業の邪魔をすることなく、腰の負担を軽減します。
代表的な企業には、ユーピーアール株式会社があります。例えば、サポートジャケットEp+ROBOは、本体の重量が3.4kgで、モーターで駆動するアクティブタイプのアシストスーツの中では最も軽量なもののひとつです。 アシスト力は10kgfですので、軽作業に適しています。
アシストスーツはこれから普及が見込まれる市場であり、まだ導入の際の費用が安価になっているとは言えません。特にアクティブ型はセンサーやモーターを搭載していることから多額の費用を伴うので、なかなか導入が難しい状況があります。
しかし、初期費用を抑えるには、補助金を利用する方法とレンタル・リースを活用する方法があります。これらをうまく活用することで導入費用を抑えることができるでしょう。
アシストスーツの購入には、「介護ロボット補助金」などの補助金を受けることができます。 補助金の問い合わせや申請は、都道府県など自治体の指定する窓口で行います。
ただし、申請時期や要件・審査基準は自治体により異なるため、必ず補助金が保証されるわけではありません。 補助金の活用を前提で導入する場合は、事前に補助金が受けられることをそれぞれの自治体に必ず確認のうえ検討してください。
取扱事業者に補助金申請の実績を確認し、申請手続きについても問い合わせると良いでしょう。
参考:補助金メニュー介護ロボットの開発・普及の促進|厚生労働省
参考:東京都の助成制度東京都:次世代介護機器導入促進支援事業
介護用アシストスーツは導入経費が高額なため、レンタルやリースの取扱いをしている事業者が多くあります。 レンタルやリースを活用すれば一括での導入費用が抑えられ、月々の利用料だけで済むのが利点です。 試用や短期で使うことがあれば検討してみましょう。
また、レンタル・リース業者だけではなく、メーカーそのものがレンタルに対応していて、気に入ったらそのまま購入できるところもあります。
アシストスーツの導入により、職員の負担の多い介護業務を軽減し業務の効率化を行うことができるので、人材の定着や働きやすい職場の実現にもつながることが期待されています。種類も豊富で価格帯にも幅がありますが、補助金やレンタル・リースを活用すれば初期費用を抑えて導入可能です。
実際に使用感を確かめるために、アシストスーツを体験できる展示会も開催されています。ぜひ、施設にあった装置を導入して人手不足や負担軽減につなげてください。腰の負担を軽減する具体的なおすすめの機種も紹介したので、導入の参考としていただければ幸いです。
より具体的にアシストスーツを比較したい方は【2023年版】パワーアシストスーツ14選を徹底比較!で紹介しています。参考にしてください。
介護ロボットについては介護ロボット徹底解説|種類やメリット、具体的な製品紹介まででも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。