今回、カシデリの立ち上げから携わっている青木光悦堂営業主任の宇野さんにインタビュー。2012年に産声を上げたこのサービスは、今や北海道から沖縄まで、全国津々浦々、多くの高齢者施設へお菓子と喜びを届けています。スタート時の苦労からカシデリの魅力、そして将来の展望までを語っていただきました。
——カシデリはどんなサービスですか?
カシデリは高齢者施設向けのおかし宅配サービスです。1食50円とリーズナブルなお値段で、必要なときに必要な分を注文可能。契約したからといって毎日受け取り続ける必要はありません。給食のような献立表でお菓子を提案。お菓子がマンネリ化しないように、毎日違うお菓子を提供しています。お客様が抱える、「お菓子選び」や「買いに行く手間」などの問題を解決できると多くの支持をいただき、ご愛用いただいているサービスです。
サービスとしてご用意しているカレンダーは以下の5種類。
施設の利用者様の健康状態や好みに合わせて、5種類のメニュー(献立)から異なる商品を組み合わせ、カスタマイズしてご注文いただくこともできます。私たちの拠点は京都ですが、カシデリのサービス対応エリアは日本全域です。
——カシデリについて、どのような喜びの声が届いていますか?
東京都のデイサービスの施設長様からは、ある患者様が衰弱して食べられるものがほとんどなかった状態でしたが、旅立つ前になにか食べさせてあげたいと御家族が希望された際に、「カシデリのお菓子を食べさせてあげれた」と感謝のお言葉をいただきました。このほかにも、施設の管理者様からは「必要な分だけを注文できるから助かる」、「昔懐かしいお菓子が多くて、利用者様に喜んでもらっている」といったお声をいただいています。「お菓子を取り分けるのが大変だったけど、楽になった」という嬉しいお声をいただくことも少なくありません。
また当社が京都に位置していることから生八つ橋もお届けしているのですが、こちらも好評で、修学旅行や旅行で京都を訪れた記憶を持つ方が多く、思い出を懐かしんでいただける回想法にもつながっているとおっしゃっています。
——カシデリを運営している青木光悦堂はどんな会社ですか?
当社はスーパーマーケットを中心とした小売店へ、あられやせんべいなどの懐かしいお菓子を販売し、今年で130年の歴史ある菓子卸問屋です。1892年に青木タカが創業。当時は京都市東山区で建仁寺納豆という商品を販売していました。そして2代目久三郎が菓子問屋事業を開始。太平洋戦争を乗り越えてもなお事業を継続しています。3代目久太郎は、町の牛乳販売店や小売店を開拓し、現在の4代目隆明へたすきを繋ぎました。現在は山科の地で卸売事業と共に、カシデリ事業、Web事業を三本の柱としています。
インタビューにお応えいただく宇野さん——カシデリをスタートしたきっかけを教えてください。
2011年に直営店「幸悦庵」をオープンしたときに、シニア層の方々が昔懐かしのお菓子を探している姿をよく見かけました。私たちが取り扱っているお菓子はせんべいやおかきなど、昔ながらのものばかりです。より多くのシニア層の方々に私たちのサービスを広めたいと思案したところ、高齢者施設で需要が無いか?と考え付きました。
いくつかの高齢者施設へ足を運んだところ、「おやつ」が提供されていることは知りましたが、「食べている」というより「食べさせられている」という現状を目の当たりにしたのです。ご高齢の方にもおやつを楽しんでいただきたいと強く感じた瞬間でした。そこで、私たちで扱っているお菓子を使って高齢者施設向けのおやつの宅配サービスを計画しました。京都商工会議所の「知恵ビジネスプランコンテスト」でカシデリの前身となる「月間宅配システム」が採用され、2014年にスタートすることができたのです。
ただ、スタート当初はなかなか施設様ご興味を持ってもらえませんでした。そんな中出展した展示会にて、同様に参加されていた配食・給食会社様が「おやつ」に困られていることを知りました。そこで私たちに商機があると考えたのです。配食・給食会社様から知恵をいただきながら商品開発を進め、現在のカレンダー形式のお菓子サービスが完成しました。
カシデリのおやつカレンダー——お菓子の月間宅配システムをスタートしたときから、好評を博していましたか?
お菓子の月間宅配システムをスタートしたときの社員は1人だけ。専任の従業員を雇用し、6か月間限定の大学生をインターンで受け入れ、たった3人でスタートしました。本業である菓子卸業務の片隅で始めたスモールビジネスです。
最初はまったく高齢者施設の方々にご理解いただけませんでした。「どこにでもあるお菓子よね」、「お菓子の種類が少ない」などのご意見をちょうだいするばかり。手作りのチラシを作って高齢者施設を歩いて回るのですが、営業というよりも改善点を教えていただいている状態でした。人員は割けませんので、ひたすら限られた人数で足を使ってあちこちを回りました。施設で机を借りてお菓子を販売したこともあります。ところが売上の差が激しく、月間で2000円しか売れなかったこともありました。そこでサービスを見直すことにし、現在と同じお菓子の献立表形式にしたのです。それでもやはり売れず、最初はたくさんのお叱りの声をいただきました。「入れ歯が取れた」、「固くて食べられない」などなど。ダメだったお菓子に×印をつけていったところ、ほとんどのお菓子がダメになったこともありました。今の姿にたどり着くまでに、かなりの試行錯誤を繰り返しました。社内でもそれはもう肩身が狭かったです。
——お菓子宅配サービスに転機が訪れたきっかけはありますか?
カシデリ事業に転機が訪れたのは、とある介護関係の展示会に出展したときのこと。そこで給食会社さんがお菓子の手配に苦労していると聞いたのです。そしてその企業さんと契約している施設へ私たちのお菓子を宅配できるようになったのです。最初は継続契約が10施設もあればよいほうでしたが、今では500施設にまで増加。本社の小さな机の上で始まったサービスに、専用部屋が与えられ、今ではビル一棟を拠点とするまでに成長しました。現在、カシデリ事業部には9名のスタッフが在籍。9名で日本中のみなさんにおいしいお菓子を届けています。
今では給食会社さんが高齢者施設と契約をする際に、「うちにはカシデリがついてくるんですよ」と交渉材料にされています。高齢者施設の給食会社さんの中でもカシデリ認知度は高まっていると感じています。
——毎日お菓子を届けるとなると、マンネリ化が懸念されますが、どのように工夫をしているのですか?
マンネリ化しないように毎月新作のお菓子を4品導入し、期間限定のお菓子を提供しています。四季折々のお菓子も取り入れ、レクリエーション向けのお菓子も好評です。ハロウィンやクリスマスなどの季節イベントにちなんだお菓子のアレンジは、多くの皆様が楽しみにされています。
当社は菓子卸問屋ですので、多くのお菓子メーカーとお付き合いがあります。長年培ってきたお菓子の知識で、マンネリ化しないように工夫をこらしています。
——カシデリならではの魅力、特色を教えてください。
菓子卸問屋だからこそ利用者様のニーズに即したお菓子を提供できると自負しています。卸部門では、スーパーの棚の移り変わりや売れ筋商品を常に把握していますので、それを反映させたお菓子をお届けできるのです。
また菓子専門業者であることから、食べやすい食感だけでなく味を吟味できる点にも自信があります。すべてのお菓子を社員が食べて、味、量、硬さなどを確かめていますので、それが皆様の満足に繋がっているのではないでしょうか。
——新サービスの予定はありますか?
今後はレクリエーション向けのお菓子を増やしていく予定です。皆さんは自分で作って食べることに喜びを感じていらっしゃるようです。これまでも多数の声を反映させながら、サービスをアップデートしてきました。現在提供している「個包装のお菓子のみをお届けするカレンダー」は、コロナ禍の感染症対策として生まれたサービスです。「嚥下サポート商品」は、飲み込むことが難しい方でも食べられるお菓子を集めたもの。これらもお客様の声から誕生しました。「これまではミキサーにかけていたけれど、嚥下サポート商品なら一手間かけることなくそのままお出しできる」と喜ばれています。このように私たちのサービスは日々改善を続けているのです。これからもお客様の声に真摯に耳を傾け、お菓子ともに喜びを届けていく所存です。
今年の7月より「健康リッチおやつ」プログラムが始まりました。今までの「美味しい」や「やわらかい」に加えて健康になる栄養が含まれたり、より幸福感が生まれるおやつの開発を進めています。京都光華女子大学様と産学連携を結びながらコロナ禍を意識したおやつ開発を進めています。また、京介食協議会(会長:愛生会病院 荒金先生)様と嚥下困難者向けおやつの開発チームも発足して商品作りを始めています。
ご案内までには少し時間が掛かりますが、高齢者のおやつ時間の楽しみをより充実できる活動を行っていきます。