介護ロボット導入のメリットを解説|現場との温度差解消が普及のカギ

更新日 2024.06.25
投稿者:豊田 裕史

少子高齢化などが原因で介護業界の人手不足が深刻化していますが、介護ロボットの導入が人手不足を解消する一つの手段として昨今注目されています。介護ロボットとは、「情報を感知」「判断し」「動作する」技術が、利用者のQOL向上や介護スタッフの業務負担の軽減に繋がる機器のことです。
現在、介護ロボットの導入を検討中で、どのような効果が得られるのかを知りたいとお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。介護ロボットを取り入れた施設では、介護スタッフの業務負担、ストレスの軽減に繋がったと多数報告されています。
今回は、介護ロボットのメリット・デメリットを伝えつつ、実際にどの程度普及しているのかの解説もします。この記事を読めば、介護ロボットを導入するメリットが理解でき、実際にどの程度普及しているのかがわかるようになるでしょう。

介護ロボットの4種類

ここでは、介護施設で使用されている以下のメジャーな介護ロボット4種類をご紹介します。

  1. 移乗支援
  2. 移動支援
  3. 排泄支援
  4. 見守り・コミュニケーション

一つずつ詳しくみていきましょう。

移乗支援

移乗を支援する介護ロボットは、「装着」と「非装着」に分類されます。

移乗支援機器(装着)

装着型の移乗支援ロボットの特徴は、パワーアシスト機能が搭載されている機器を介助者が装着することで、移乗をサポートしてくれるロボットです。

特に移乗介助は腰に負担がかかり、多くの介護スタッフが腰痛に悩まされています。

装着型の移乗支援機器を導入することで、移乗介助時にかかる腰の負担を軽減することができ、腰痛予防に繋がります。

移乗支援機器(非装着)

非装着型の移乗支援ロボットは、ロボット技術によって介助者が抱え上げる動作のパワーアシストを行い、抱えない介護を実現する非装着のロボットです。

ベッドから車椅子への移乗だけでなく、浴室のストレッチャーへの移乗も可能になるため、滑って事故になる心配がありません。

また、医療的処置が必要な方の移乗介助が困難な場合でも、機器を使用することで安全に移乗ができ、介護スタッフの心身の負担軽減にも繋がります。

移動支援

移動をサポートする介護ロボットは、「屋外」「屋内」「装着」の3種類があります。それぞれで得られる効果も違うので見ていきましょう。

移動支援機器(屋外)

屋外での歩行をアシストしてくれる機能を搭載しており、坂道などを一人で安全に歩行することを可能としたロボットです。

機器を使用して一人で歩行できるようになれば、介護スタッフが付き添う必要がなくなり、業務負担の軽減が可能です。

また、歩行時の不安が解消されることで積極的に外出をするようになり、自立支援にも繋がるでしょう。

移動支援機器(屋内)

立位保持や施設内の移動が不安な方の動作を支えて、安定した移動ができる機器です。

例えば、夜間帯にトイレへの移動や立ち座りが不安な利用者が機器を使用することで、介護スタッフを呼ばずに一人でも安全にトイレへ行くことが可能になります。

その結果、利用者のQOL向上、夜間帯の介護スタッフの業務負担軽減にも繋げることができます。

移動支援機器(装着)

脚力が弱くなってきた利用者が装着することで、安定した歩行ができるようになり、転倒予防の効果が期待できる機器です。

安定した歩行が実現できるようになった利用者は、疲れを感じず長距離を歩けるようになり、リハビリ訓練よりも自立支援になると期待されています。

また、利用者が一人で外出を行い、買い物などにも行くことが可能になればQOLの向上にも繋がります。

排泄支援

排泄支援機器は、「排泄物処理」「排泄予測」「動作支援」の3つに分類されます。それぞれの特徴と期待できる効果を見ていきます。

排泄物処理

排泄物処理ロボットは従来のポータブルトイレに、排泄物を室外へ流す機能、もしくは容器や袋に密閉して隔離する機能が搭載された機器です。

従来のポータブルトイレは、排泄物を介護スタッフやご家族などが処理しなければならず、排泄物の臭いも気になるという問題がありました。

排泄物処理ロボットを導入することで、排泄物処理をロボットが自動で行うため、介護者の負担軽減に繋がります。

また、排泄後に容器や袋に密閉してくれるため、部屋に臭いが残らないという効果もあります。

排泄予測

利用者の排泄タイミングを予測して適切なタイミングでトイレ誘導することができる機器です。

これまで尿量が多くオムツやパットから尿が漏れてしまっていた利用者でも、排泄のタイミングを把握することで、漏れる前にトイレで排泄をすることが可能になります。

適切なタイミングでトイレ誘導することで、利用者の自立した排泄も実現可能となり、QOL向上にも期待ができるでしょう。

動作支援

ロボット技術を活用して、トイレ内での下着の着脱などの一連の動作を支援する機器です。

これまで介護スタッフが介助していたトイレ内の動作を、一人で行えるようになることで介護スタッフの業務負担の軽減に繋がります。

また、利用者が一人で排泄後のお尻のケアや下着の着脱を行うことで、尊厳の保持や自立した生活の支援が可能になるでしょう。

見守り・コミュニケーション

見守り・コミュニケーションの分野は、「施設」「在宅」「生活支援」の項目に分けることができます。一つずつ詳しく見ていきましょう。

施設

介護施設や病院などで、見守りの用途に使用するセンサーや外部通信機能を備えた機器です。

見守りセンサーを導入することで、居室内の利用者の行動が把握できるようになり、転倒事故の予防策を打つことが可能になります。

また、夜間帯の巡視で訪室時に目を覚ましてしまう利用者の場合、訪室せずに睡眠状態や居室内の状況を把握できるため、睡眠の質の向上が期待できます。

在宅

在宅での使用を想定しており、転倒検知センサーや外部通信機能を備えた介護ロボットです。

家族などの介護者が外出していても常時見守りができるため、転倒を検知し素早い対応ができます。

ただし、家族がすぐに対応できない場合は、訪問介護事業所や警備会社などとの連携が必要になるでしょう。

生活支援

利用者の健康管理などの際に、ロボット技術を活用して高齢者の生活支援を行う介護ロボットです。

生活支援ロボットの活用によって、利用者の体調の変化が一目でわかるようになります。

例えば、体重や排泄状態、食事量、水分量の情報を把握し、他の介護スタッフにリアルタイムで共有が可能になり、医療機関との連携がスムーズにできます。

介護ロボットのメリットとデメリット

介護ロボットを導入することで得られるメリット・デメリットを知ることで、導入後のイメージを膨らませることができるでしょう。導入を検討している施設担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

介護ロボットのメリット

介護ロボットを導入する大きなメリットは、以下の2つです。

  • 介護スタッフの業務負担の軽減
  • 慢性的な介護人材不足の解消

介護業務には心身の負担が非常に大きく、腰痛やストレスで悩まれている方も多くいらっしゃるでしょう。そのため、介護業界は離職率も高く、慢性的な介護人材の不足に陥る要因にもなっています。

利用者の要介護度が高くなり、介護スタッフの身体にかかる負担が大きくなる施設ほど、介護ロボットの導入を前向きに検討しているという調査結果もあります。

実際に見守りロボットを導入した施設では、訪室回数が減ったことで身体的・心理的な負担の軽減に繋がったという意見が多いです。

また、見守りを常時してくれることで、見守り業務の負担が大きい夜間帯などの業務改善がされ、介護スタッフの離職率も下がったという介護事業所もあります。

介護ロボットのデメリット

介護ロボットを導入するうえで課題となるのは、以下の2つです。

  • 導入にかかるコストが高い
  • 介護スタッフへの操作教育が必要

最大のデメリットは、導入にかかる初期費用・維持費です。介護ロボットが普及していない多くの施設が、コスト面の問題を挙げています。

介護ロボットの価格は、低いものだと数万円、高機能や大型のものになると、数百万円することもしばしばあります。

しかし、政府も介護ロボットの普及に向けて補助金を設けているので、コスト面のハードルを下げることが可能です。

介護ロボットの現状と課題

お伝えしたように介護ロボットを導入すれば、介護スタッフの業務負担の軽減や離職率の低減にも繋がります。

しかし、介護ロボットをめぐるさまざまな課題から普及していないのも事実です。なぜ、普及に至らないのかを詳しく見ていきましょう。

介護ロボットの現状

日本でも介護ロボットの導入が進んでいる北九州市を例にして見ると、令和2年度の普及率は介護事業所全体で24.8%です。

介護ロボットの導入を積極的に行なっている北九州市でも3割以下の普及率を考えると、まだまだ普及しているとは言い難い数字でしょう。

ただし、北九州市の特養に絞って普及率を見ると、45.7%という結果も出ています。

このデータからも分かるように、利用者の要介護度が高くなり介護スタッフの身体にかかる負担が大きくなるほど、介護ロボットを導入したい施設も増えるということです。

参考:介護ロボットの導入状況などに関するアンケート調査(令和2年度)

介護ロボットをめぐる課題

介護ロボットをめぐる課題を2つの面で見ていきます。

①現場への情報不足・現場とのギャップ

介護ロボットを導入する上で障壁となっているのは、「介護ロボットに関する知識不足」がほとんどの割合を占めている原因です。

政府も介護業界を取り巻くさまざまな課題を解決するために、介護ロボットの開発・普及に力をいれています。

しかし現場の声は、

「どのような効果が得られるのかわからない」「費用対効果が期待できるか不安」「効率的な運用方法がわからない」

上記のように介護現場の知識不足から普及していないことは明らかです。そのため、政府と現場との間には溝があり、普及が進まない状況に陥っています。

今後は、介護現場の知識不足を解消するために、更なる情報発信が必要になるでしょう。

②コスト

介護ロボットを導入したいと考える施設の最も大きな課題が導入コストでしょう。

施設でも導入すれば業務負担の軽減などが期待できると理解してもコストが障壁となり、諦める施設が非常に多いです。

ただし、そのような悩みを持つ施設に対しては、国や地方からの補助金制度があるのでコストを抑えることもできます。

例えば、埼玉県では「介護ロボット普及促進事業」から介護サービス事業者に対し、介護ロボットを導入する際の経費の一部を助成する制度もあるのです。

上記の例では、最大100万円が補助金として支給されるので、このような制度を利用すればコストを抑えることができます。

場合によってはこうした制度も検討し、コスト面のデメリットをカバーしてみてはいかがでしょうか。

まとめ

介護ロボットは、介護人材の深刻化する人手不足の解消になるとして注目されており、政府も開発・普及に力をいれています。

しかし、普及はまだまだ進んでおらず、利用者の要介護度が高くなるほど介護ロボットを導入したい施設が増えているのが現状です。

介護ロボット導入の障壁となっているのが、「知識不足」「導入コスト」が大きな課題となっています。

政府と介護現場とのギャップを埋めるためにも、更なる発信活動や積極的に補助金などを利用することで課題解決へ近づけるでしょう。

また、半数以上の事業所が介護ロボットの導入を予定しており、今後さらに普及率が高まる可能性があります。

本記事の内容を参考にして、導入すべきかどうかの判断にお役立てください。

介護ロボットについては介護ロボット徹底解説|種類やメリット、具体的な製品紹介まででも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。

中小企業診断士
セカンドラボ株式会社 PR Solution Div.
URL:https://note.com/2ndlabo/n/n949eaa3e9d69

北海道大学を卒業後、医療機器の営業として6年間勤務。外科、整形外科、泌尿器科領域を中心に民間・国公立の病院を担当。2020年よりセカンドラボ株式会社に入社。医療福祉施設の課題解決プラットフォーム「2ndLabo」にて各種ITツール、医療機器の導入支援、クリニック開業支援に従事。

2ndLaboのサービスを通じて、これまで1,000件を超えるサービス導入支援・開業支援を担当。得意分野は、電子カルテ、介護ソフト、各種医療機器。

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