近年、高齢化やコロナの影響によって閉院するクリニックが増えています。しかし、閉院の際は、さまざまな手続きや注意点があるため、しっかりと手順を踏んで進めなければなりません。
今回の記事では、クリニックの閉院に伴う手続きや、その流れについて詳しく解説していきますので参考にしてください。
目次
近年、クリニックの閉院が増えているのをご存知でしょうか。 帝国データバンクが行った調査によると、2021年度の医療機関(診療所・病院・歯科医院)の休廃業・解散は、過去最高水準の567件となっています。そのうちの8割(471件)が「診療所」の休廃業・解散であり、これは前年と比べて14.6%増です。
クリニックが休廃業・解散で閉院するのは、倒産とは異なり借入金などの負債によるものではありません。財務状況が健全なうちに事業を畳むということです。
クリニック閉院の代表的な理由は以下の4つとなっています。
出典:帝国データバンク「医療機関の休廃業・解散動向調査(2021年)」
新型コロナウイルスの影響によって、勤務医に戻る医師が増えています。開業医の場合、設備の固定費や人件費など多くの費用が必要です。
しかし、コロナによる影響で収入が減り、クリニックを維持することが難しくなった医師は閉院を決断します。
クリニック経営者の高齢化は年々進行しています。高齢なためにクリニック経営が難しくなった場合や、経営者の病気・死亡による閉院も少なくありません。
高齢になったクリニック経営者は、後継者を探してクリニックを存続させることも考えます。
しかし、医療業界の後継者不足は深刻であり、そう簡単にはいきません。結局、閉院という選択に迫られることが多いです。
近年の、経営難による閉院の主な原因は、コロナ禍での収入源です。多くのクリニックがコロナによる収入減の問題に直面しており、経営を続けることが難しくなりました。
クリニックを閉院して、勤務医に戻るなど、新たな道を選択した医師は少なくありません。
ここでは、閉院した主な医療機関を紹介していきます。
Nクリニック(医療法人)の閉院事例
都内某所の内科系無床クリニックのNクリニックは、院長の高齢化・後継者不在によって閉院しました。
Nクリニックの院長はすでに80代であり、体調不良により、診察できない日が増えていたのです。
院長には2人の息子がおり、それぞれ勤務医と開業医でしたが、事業承継の意思はありません。そのため、院長はクリニックを閉院する決断をしました。
ここでは、閉院手続きの流れと必要書類を紹介しますので参考にしてください。 閉院手続きの基本的な流れは以下の通りです。
個人クリニックの場合、管轄の保健所に診療所廃止届などを申請します。エックス線廃止届も保健所に提出しますが、その際は廃業証明書の添付が必要です。
院長が急逝した場合の手続きは、以下の表を参考にしてください。
手続き | 届け出先 | 期限 |
---|---|---|
診療所開設者死亡届 | 所轄の保健所 | 死亡後10日以内 |
診療所廃止届 | 所轄の保健所 | 休止(再開・廃止)後10日以内 |
保険医療機関廃止届 | 厚生局 | 死亡後速やかに |
保険医死亡届 | 厚生局 | 死亡後速やかに |
医籍登録抹消申請 | 所轄の保健所 | 死亡後30日以内 |
個人クリニックの場合、親子間でクリニックを承継する場合、譲渡する側である親は「診療所廃止届」を所轄の保健所へ提出します。承継した子どもは「診療所開設届」を提出しなければなりません。書類の提出期限は、クリニック承継開設後10日以内です。
医療法人化しているクリニックの場合は、親から子どもに理事長を交代する手続き等を行うだけで、クリニックの資産や許認可を保有する医療法人をそのまま承継できます。
スタッフの雇用契約も医療法人と締結しているので、新たな手続きは必要ないです。ただし、出資持分を持つ医療法人の場合は、出資者の持分の移転手続きを行う必要があります。
医療法人の解散に必要な手続きは、以下の表の通りです。
手続き | 届け出先 | 期限 |
---|---|---|
医療法人解散認可申請 | 所管する県又は政令市 | 医療審議会の開催時期に合わせて(10・3月) |
医療法人解散・清算人就任登記申請・清算結了登記 | 所轄の保健所所在地管轄する地方法務局 | – |
解散広告 | 官報販売所等にて申請(ネット申込可) | 2か月間に3回以上 |
登記事項届出 | 所管する県又は政令市 | 登記完了後速やかに |
スタッフに閉院の旨を伝えた上で、給与や退職金を支払います。その後、社会保険の手続きを進めましょう。 閉院する際の社会保険に関連する届出は、以下の表の通りです。
手続き | 届け出先 | 期限 |
---|---|---|
健康保険・労働厚生保険適用事務所全喪届 | 年金事務所 | 事実発生から5日以内。法人の場合は法人登記謄本。個人事業主の場合は雇用保険適用事業所廃止届など、事業廃止を確認できる書類を添付する。 |
被保険者資格喪失届 | 年金事務所 | 事実発生から5日以内。協会けんぽの場合は、健康保険被保険者証。紛失等により回収できなければ、健康保険被保険者証回収不能届が必要。 |
雇用保険適用事業者廃止届 | ハローワーク | 休止・廃止から10日以内。法人の場合は、登記簿謄(抄)本などが必要。個人の場合は、その事実を証明する書類が必要。 |
雇用保険被保険者資格喪失届 | ハローワーク | 離職証明書など離職理由が確認できる書類等。 |
ここからは、閉院にかかるコストと手続きについて解説していきます。 閉院に伴い、主に以下のような費用が発生しますので覚えておきましょう。
建物を借りていた場合は、基本的に内装・外装を元の状態に復元しなければなりません。土地のみを借りている場合は、建物の取り壊しが必要です。その際、解体費用などが発生します。
閉院時は、個人・医療法人関係なく、複数の機関で法的手続きを行わなければなりません。手続き自体の費用は少額ですが、関連する手続きを税理士などに委託する場合は、委託料を支払う必要があります。
委託料はクリニックの規模や税理士事務所によって異なりますが、10万~20万円ほどが相場です。
クリニックを閉院する際は、スタッフに退職金を支払います。相場は「基本給の半額×勤続年数」です。そのため、しっかりと支払えるように現金や生命保険で積み立てておく必要があります。
クリニックの開業や運営には多額の費用が必要です。そのため、借入をしていたという方も多いでしょう。閉院時は、借入の残債もしっかりと清算する必要があります。
クリニックには、以下のような医療機器が設置されています。
これらの機器は、専門業者に買い取ってもらうか、無償で引き取ってもらうようにしましょう。ただし、著しく劣化しているものや、機器自体の価値が低い場合は処分費用が発生することがあります。
リース契約で利用していた機器は、リース残債もしくは違約金を支払わなければなりません。
備品や医療廃棄物の処分もしっかりと行います。その際、薬剤や感染性廃棄物の取扱には注意してください。
ものによっては専門業者に委託する必要がありますが、処分する医療廃棄物が多ければ、そのぶん費用は高くなります。
ここでは、閉院後の手続きや注意点について解説していきます。 閉院後は、以下の点に気をつけましょう。
閉院・廃業後は、カルテは不要だと思うかもしれませんが、診察が完了されてから5年間は保管が義務付けられています。義務としては5年間ですが、患者はクリニックに対して10年以内であれば医療過誤による損害賠償請求が可能です。そのため、10年間はしっかりと保管しておいた方がいいでしょう。
レントゲンデータは、3年間の保管が必要になっています。なお、保管期限が過ぎたデータを処分する際は、信頼できる廃棄物処理業者に依頼するようにしましょう。
レントゲンデータは、患者の重大な個人情報です。そのため、処理方法を間違えてしまうとトラブルにつながる可能性があります。
閉院後は、「麻薬施用者業務廃止届」を提出しなければなりません。たとえば、山口県では15日以内に廃止届を提出する必要があります。 また、麻薬の在庫の有無に関係なく、所有する麻薬の個数の報告が必要なので、クリニックが麻薬診療施設ではなくなってから15日以内に「在庫麻薬届」も提出しなければなりません。
ただし、各都道府県で期限が定められているので、該当する県のホームページなどで調べておくようにしましょう。
閉院が決まったら、患者。スタッフ・金融機関などへ通知をします。患者は新しい通院先を探す必要があり、スタッフは転職先を探さなければなりません。そのため、早めに通知をしましょう。
通知した上で、患者へは紹介できる新しい通院先、スタッフへは転職先を紹介し、紹介状を作成する必要があります。
ここからは、閉院以外の選択肢と対応策について解説していきます。
クリニックの継承開業についてはクリニックの継承開業(承継)とは?メリットやデメリットを解説でも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
経営難によって閉院の選択を迫られている場合は、まずは経営の安定化を図りましょう。 以下のような対策をとることで、改善できる可能性があります。
ここでは、閉院後の医師とスタッフのキャリアについて解説していきます。
閉院後のスタッフへのフォローは必須です。閉院に伴う解雇という扱いになるので、開業医がスタッフの次の勤務先を紹介・提案する必要があります。
これらの対応が必要なので、閉院を決めたら早めにスタッフに伝えて、閉院日までにスタッフが安心して次の転職先で働けるようにしましょう。
閉院後の開業医は、勤務医に戻ることが多いです。その際、転職サイトなどを利用する方が多いですが、なかには求人を通して他院の院長となった方もいます。この場合、オーナーは別にいるので、院長として経営ではなく診察に専念することが可能です。
開業医から勤務医になり、今までとは異なるクリニック・診療科目で働く方も少なくありません。
開業医としてクリニックを経営していたという強みがあるため、60歳を目前にした転職でも成功している方はいます。
その他、これまでの経験を活かして医師会や地域医療機関のサポートを行う方もいます。こちらに関しても、開業医としての経験を活かすことが可能です。
閉院の際は、閉院サポートサービスを活用するのも有効です。 以下のような閉院サポートを行ってくれるので、非常に助かるでしょう。
ただし、閉院となった場合、業者にとってそのクリニックはお客様ではなくなります。そのため、閉院の際に味方になってくれる業者は少ないです。
それぞれの事情でクリニックを閉院することがあると思います。しかし、閉院するにしても、さまざまな手続きが必要です。手続きを自分一人で行うのは、時間と手間がかかります。
そのため、閉院を決めたら早めに準備を進め、法的手続きに関しては税理士などに委託したほうがいいでしょう。
クリニックの閉院を検討している方は、今回の記事の内容を参考にしてみてください。