クリニック開業において、スタッフの労働時間を適切に管理することは、労務トラブルを避けるためにも重要なことです。
労務管理を怠ると、クリニックの評判が落ちるばかりか、訴訟問題につながってしまいます。
本記事では、クリニックにおける労働時間管理のポイントや注意点を解説します。
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新規開業のクリニックや医院において、トラブルになりやすいのが労働時間の設定です。適切な労働時間管理が行えていないクリニックは、労働基準法に違反する可能性があります。ここでは、「労働時間」を考える上での注意点を解説します。
「診療時間のみが労働時間に含まれる」と認識している方が多いですが、それは誤った考え方です。
労働基準法における労働時間とは、「使用者(院長・理事長)の指揮命令の下で管理されている、全ての時間」を指します。
例えば、看護師や受付スタッフに、診療後の後片付けや勉強会などを院長が義務付けている場合は、それも労働時間に含まれます。
診療時間以外の後片付けや準備時間なども院長が義務付けているのであれば、労働時間にカウントするということです。
そのうえで、法定労働時間である1日8時間の範囲内で所定労働時間を設定する必要があります。
ただし、一部のクリニックでは特例が適用されます。スタッフの人数が10名未満の小規模事業所については、通常1週間の労働時間40時間を最大44時間まで設定することが可能です。
特に小規模クリニックであれば、この特例が適用され労働時間管理が行えるでしょう。
労働基準法では、1日8時間・週40時間を法定労働時間として定めています。とはいえ、スタッフの勤務が8時間を超える日もあるでしょう。
そこでおすすめの制度が「1ヶ月単位の変形労働時間制」です。以下で詳しく解説します。
1か月単位の変形労働時間制とは、1ヶ月単位で週40時間の法定労働時間以内であれば、1日もしくは1週の法定労働時間を超えて労働できる制度です。
簡単にいうと、労働時間が8時間を超える日があっても、週40時間以内であれば違法にならないということです。
例えば、ある週の火曜日の労働時間を10時間とし、月・水・金は8時間、木曜日は6時間、土日は休診なども可能になります。火曜日が1日8時間を超えていても、週単位で見ると40時間以内におさまっています。
ただし、1か月単位の変形労働時間制を導入するには手続きが必須です。労使協定や就業規則で、一定の事項を定めて届けなければ違法になってしまうため注意しましょう。
1か月単位の変形労働時間制の導入がおすすめのクリニックは、
などが挙げられます。
週で見ると労働時間が40時間以内におさまっていても、1日8時間を超えれば残業代を支払わなければなりません。
1か月単位の変形労働時間制を導入すれば、上記のクリニックでも残業代を削減できるのです。
ここでは、クリニックで変形労働時間制を設けた場合の活用事例を3つ紹介します。
木曜日と日曜日が休診日のクリニックの場合でみていきましょう。
月曜日・火曜日・水曜日・金曜日の所定労働時間を9時間と設定し、土曜日を4時間勤務とします。
1日8時間を超える日があっても、週40時間以内なので問題ありません。
予防接種や健康診断がある日はクリニックも忙しくなり、診療時間が長くなりがちです。
スタッフの勤務時間が10時間を超える場合もあるでしょう。
変形労働時間制を活用すれば、例えば月曜日の所定労働時間が10時間でも、火曜・水曜・金曜を8時間、土曜日は6時間にし、木・日を休診日にできます。
このように、予防接種や健康診断がある特定の日の勤務時間を長くすることが可能です。
レセプト業務が発生する月末月初は、非常に忙しくなります。通常の受付や会計業務に加えて、レセプト業務が増えるため、残業になることも多いです。
例えば、変形労働時間制を導入して、レセプト業務が発生する月末月初の週だけ1日の所定労働時間を9時間にします。その他の週を1日7時間に設定すれば違法にはなりません。
これは、レセプト業務がある週の所定労働時間が40時間を超えても、1ヶ月単位で見たときに週平均40時間以内になっていれば問題ないからです。
「便利だから自院にも変形労働時間制を導入しよう」と思っても、導入するためには手続きが必要です。あらかじめ、労使協定や就業規則を作成して届けなければなりません。
そもそも就業規則に関しては、スタッフ常時10人以上の事業所において、作成と管轄の労働基準監督署へ届出が義務付けられています。
まずは就業規則を作成し、変形労働時間制の条項を盛り込みましょう。
また、雇用契約書に「変形労働時間制による」と勝手に記載するケースもよく見られます。
変形労働時間制の手続きが完了していれば問題ありませんが、勝手に導入するのは違法になるので注意しましょう。
変形労働時間制について、誤った認識や管理の仕方をしている事業所も多く、スタッフと未払賃金の労務トラブルに発展するケースもあります。
裁判所から変形労働時間制が認められない場合、莫大な未払い賃金の支払いを命じられる可能性もあるでしょう。
そこで注意したいのが、「シフト制と変形労働時間制の組み合わせ方」についてです。
前月にスタッフの希望休などを聞き、まとめてシフト作成するクリニックも多いかと思います。
上記の方法に加えて変形労働時間制を組み合わせた場合、裁判所が求めるルールのもと運用するのは困難です。
どのような運用が適法となるかを判断するのは、専門的な知識がなければできません。
シフト制と1ヶ月単位の変形労働時間制を組み合わせる場合は、必ず社会保険労務士や弁護士に相談するのがおすすめです。
変形労働時間制について正しい認識や管理の仕方で運用し、労務トラブルを避けましょう。
法定労働時間として1日8時間、週40時間が定められています。しかし、法定労働時間を1週44時間にする方法があります。
それは、特例措置対象事業場の適用を受けることです。特例措置対象事業場とは、パートやアルバイトを含むスタッフの数が10人未満の事業所に適用される制度です。
クリニックは保険衛生業に該当するため、この制度が適用されます。特例措置対象事業場に適用されるための手続きは不要です。スタッフの数が10人未満のクリニックであれば、1週44時間制を採用できます。
ただし、1日の所定労働時間は8時間のままです。所定労働時間40時間が44時間に増えるだけで、1日の所定労働時間が増えるわけではないため注意しましょう。
また、求人では不利になる可能性がある点も注意が必要です。「休みが少ない」というイメージがつき、応募者の減少が懸念されます。
ここでは、スタッフの労働時間管理におけるその他の注意点について解説します。
子育て中の方をパートタイムで採用するケースもあるでしょう。その際に、あらかじめ理解しておかなければならないことがあります。
例えば、「急に子どもの体調が悪くなって休む」「学校や保育園の行事で半休を取る」など柔軟な対応が必要です。
また、早い時間からの出勤や夕方遅くまでの勤務が難しい場合もあります。子育て中の方をパートで雇う場合、これらの要望に柔軟に対応しなければなりません。
クリニック内の清掃について、誰が行うか検討していない院長も多いのではないでしょうか。
もちろん院内の清潔を保つうえで、日々の清掃は必須です。しかし、清掃は誰が行うか決めておかなければ、スタッフとの関係がこじれる可能性もあります。
清掃の専門業者に依頼しようとしても、意外と費用がかかります。「手が空いている時に誰かがすればいい」と考える方もいらっしゃいますが、スタッフの中には反発する方も多いです。
清掃は勤務時間内にしてもらい、スタッフが清掃を行うことは当たり前ではないことを理解して依頼しましょう。
東京保険医協会の調査によると、診療時間と時間外労働をあわせた労働時間の合計は「50時間以上60時間未満」が19%、「60時間以上」が17%という結果になっています。
2割弱が過労死ラインで働いているのが現状です。
開業資金を貯めるために通常勤務に加えて非常勤勤務を行う方が多く、開業準備中は多忙になりがちです。
開業後の労働環境は自分で決められるため、労働時間を減らすことができます。そのため、スタッフを育てて権限を移譲し、自立したチーム作りが欠かせません。
信頼できるチームに業務を任せ、院長はしっかりと休暇を取れるクリニックを目指してはいかがでしょうか。
本記事ではクリニックの労働時間管理のポイントをいくつか解説してきました。
クリニックがきちんと労働時間管理を行えば、スタッフからの苦情や訴訟などのトラブルを防ぎ、信頼や満足度の向上につながります。
労働基準法では、1日8時間、週40時間の法定労働時間が定められています。
しかし、1か月単位の変形労働時間制を採用すれば、週40時間以内であれば、労働時間が8時間を超える日があっても残業扱いになりません。
ただし、1か月単位の変形労働時間制を導入するためには、手続きが必須です。勝手に導入すると、違法になるため注意しましょう。
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