介護の現場において、被介護者の移動や移乗が必要な場面は少なくありません。これまでは介護者が被介護者を抱えて介助を行ってきましたが、人力での介助は介護者・被介護者双方にとって大きな負担となります。
その負担を軽減するための福祉用具が「スタンディングリフト」です。最近では介護施設だけでなく、在宅介護にも用いられるようになりました。当記事では手動スタンディングリフトの特徴や、全3製品の手動スタンディングリフトを徹底比較した結果をご紹介しています。スタンディングリフトの利用を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
スタンディングリフトは被介護者の機能を生かしつつ、安全で安心した移乗介助を行う補助用具です。介護者の負担を減らし、楽に介護を行えるようになります。また、移乗だけでなく、衣服の着脱介助にも最適です。
天井走行リフトとは違って取付工事などが不要なため簡易に使用でき、運搬もしやすいのがスタンディングリフトの特徴といえるでしょう。また、スタンディングリフトの使い方は簡単で、膝の前方への屈曲を押さえて固定しながら、臀部や脇の下を支えて持ち上げるだけで被介護者の移乗を行えます。
スタンディングリフトにはキャスターが付いているため、回転や移乗も容易に行うことが可能です。人力での介助と違い、介助者側の体型や力に依存せず、わずかな力で介助を行うことができます。
スタンディングリフトについてはスタンディングリフト7選徹底比較|使い方や特徴、導入メリットまで解説でも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
スタンディングリフトは手動タイプと電動タイプの2種類があり、被介護者の残存機能や体重によって使い分けられます。ここからは、手動タイプと電動タイプの違いについて解説していきます。
手動タイプ | 電動タイプ | |
---|---|---|
価格帯 | 30~35万円 | 35~88万円 |
負担軽減度 | ボタンを押すだけで立位姿勢を取れるので介助者の負担は大幅に軽減される | |
製品重量 | 電動タイプにくらべて軽く製品を移動させるのが楽 | 手動タイプに比べて重い製品が多い |
最大荷重 | 100kg弱が限界の製品が多い | 最大荷重150kg程度の製品が多い |
上記の表の通り、手動タイプと電動タイプでは「価格帯」「負担軽減度」「製品重量」「最大荷重」に大きな違いがあります。まず価格帯ですが、手動タイプに比べ、電動タイプのスタンディングリフトは価格帯の幅が広い傾向です。35万円で購入できるものから88万円の高額なものまであります。
また、介護者の負担軽減度にも違いがあります。ボタンひとつで立位補助を行える電動タイプの方が、介助者の負担は軽減できるでしょう。ただし、その分電動の方が重くなる傾向にあります。
最大荷重は電動タイプの方が大きくなるため、体重が重く介助負担の大きい被介護者の場合は電動スタンディングリフトがおすすめです。また、手動タイプは電気を使わないので経済的で、停電でも安心して使えるというメリットがあります。
近年、さまざまなメーカーから手動スタンディングリフトが販売されています。その中から介護者・被介護者双方に合った製品を選ぶためには、下記のポイントに注目しましょう。
ここからは、手動スタンディングリフトを選ぶ際に見るべきポイントについて解説していきます。
最初にチェックしたい点は「サイズ」です。スタンディングリフトは屋内の限られたスペース内で介助するケースも多いので、サイズは重要なポイントになります。たとえばサイズが大きすぎて、トイレに入らなければ排泄介助に使うことができません。
できればコンパクトな製品の方が、使いやすく便利でしょう。さまざまな製品のうち、最もコンパクトなスタンディングリフトが株式会社ウィズの「サラステディーコンパクトサイズ」です。小柄な体型の日本人にぴったりのサイズで、トイレなどの狭い空間でも使用できるでしょう。
次のポイントは「重量」です。スタンディングリフト本体が重いと、移動させるために力が必要になります。トイレのたびに移動させるとなると、最低でも一日5~6回はスタンディングリフトを動かす必要があるでしょう。
介助者の負担を軽減するためにも、できるだけ軽い製品を選ぶことをおすすめします。たとえば、株式会社ウェルパートナーズの「スマイルWLシリーズ」のSサイズは重量が約20㎏と、スタンディングリフトの中でも最も軽い仕様となっているため、介助者も楽に運搬できるでしょう。
「価格」も、スタンディングリフトを選ぶうえでは重要なポイントになります。手動タイプや電動タイプに比べると、比較的安価な製品が多い傾向です。とはいえ、30~35万円と数万円の幅があるため、予算と相談しながら決めていくようにしましょう。
手動スタンディングリフトの中でも、リーズナブルに購入できるのがアビリティーズ・ケアネット株式会社の「ささえ手」です。本体価格348,000円ですが、補助ベルトや大径キャスターなどオプションの有無によって価格が変わります。必要な機能を見極めながら、製品を選ぶようにすると不要な出費を抑えられるでしょう。
最後は「製品が対象とする被介護者」が誰かという点です。各製品によって、対象となる使用者が異なります。被介護者の残存機能や身体の大きさに合わせて、適切な製品を選ぶようにしましょう。
たとえば要介護度が高い被介護者の場合、介護者が操作して立位補助ができる「スマイルWLシリーズ」や「ささえ手」がおすすめです。一方で「サラステディー」は、利用者が自力で立ち上がる必要があるため、リハビリ効果も期待できます。残存機能が高い方向けのスタンディングリフトといえるでしょう。
手動タイプのスタンディングリフトのサイズや価格を下記の表にまとめました。
メーカー | 株式会社ウェルパートナーズ | 株式会社ウィズ | アビリティーズ・ケアネット株式会社 |
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製品名 | スマイルWLシリーズ | サラステディー | ささえ手 |
価格 | 375,000円(非課税) | 358,000円(非課税) | 348,000円(非課税) |
サイズ | D1070×W446×H920(mm) | D905×W729×H1050(mm) | D760×W400×H1040(mm) |
重量 | 21(kg) | 29.4(kg) | 34(kg) |
それぞれの手動スタンディングリフトの特長について解説していきます。
「スマイルWLシリーズ」は、株式会社ウェルパートナーズから販売されているスタンディングリフトです。吊り上げタイプではないので、スリング着脱の手間がかかりません。手動タイプのスタンディングリフトですが、わずかな力で被介助者を持ち上げることが可能です。
SタイプとMタイプがあり、目安としては160㎝以下の被介助者にはSタイプが適しています。重量はSサイズの方が1㎏ほど軽くなりますが、どちらも小回りがきくコンパクトサイズです。また、わずらわしい組み立て作業が不要で、すぐに使用できるのも「スマイルWLシリーズ」の特長といえます。
スマイルWLシリーズの比較ポイント
製品情報
重量 | 21(kg) |
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サイズ(縦×横×高さ) | D1070×W446×H920(mm) |
価格 | 375,000円(非課税) |
「サラステディー」は、被介護者自身の力を生かした移乗をサポートするためのスタンディングリフトです。自立動作を促すので、被介護者のリハビリ効果も期待できます。使い方は簡単で、被介護者が持ち手を持ちながら立ち上がるだけで、車いすなどに楽に移動できます。
なお、身長が160㎝以下の場合は「サラステディーコンパクト」がおすすめです。従来製品と比べて、重量も約1㎏軽く設計されています。耐荷重はどちらも182㎏なので、大柄な体型の方でも問題なく使用できるでしょう。
サラステディーの比較ポイント
製品情報
重量 | 29.4(kg) |
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サイズ(縦×横×高さ) | D905×W729×H1050(mm) |
価格 | 358,000円(非課税) |
「ささえ手」は、アビリティーズグループから販売されているスタンディングリフトです。自立移動は難しいけれど、端座位や半立位は取れる人が対象となっています。吊り上げ式ではないため、スリングシートが不要です。
キャスターは低床ベッドでも使用可能な高さ6㎝のものと、カーペットやクッションフロアでもスムーズな移動が行える9.2㎝の大径行キャスターの2種類から選ぶことが可能です。オプションで補助ベルトやスリングシートを付けることもできます。
ささえ手の比較ポイント
製品情報
重量 | 34(kg) |
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サイズ(縦×横×高さ) | D760×W400×H1040(mm) |
価格 | 348,000円(非課税) |
先述の通りスタンディングリフトには電動・手動の2つのタイプがあります。それぞれメリット・デメリットがありますので、スタンディングリフトの導入を検討される際は、電動も併せて検討するといいかもしれません。
電動タイプのスタンディングリフトについてはスタンディングリフト7選徹底比較|使い方や特徴、導入メリットまで解説でも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
電動に比べると安価であるとはいえ、手動スタンディングリフトの購入にはまとまった費用が必要になります。そのため予算の関係で、導入に踏み切れないという方も少なくありません。スタンディングリフトは介護保険のレンタル対象種目となっていますので、レンタルの活用も検討してみましょう。
スタンディングリフトのレンタルができるのは、要介護2以上と認められている場合です。ただし、日常的に立ち上がりが困難な人や、移乗に介助を要する人など、一部軽度者に対してもレンタルの適用が例外的に認められるケースもありますので事前に確認しておきましょう。
スタンディングリフトをはじめ、さまざまな福祉用具が利用されるようになりましたが、残念ながら事故の発生報告も上がっています。スタンディングリフトを安全に利用するために、下記の点に注意するようにしましょう。
たとえば、被介護者の機能に合っていない用具を選んでしまうと、転倒の原因になります。また、スタンディングリフトに頼りきってしまい、注意を怠っていると重大な事故につながりかねません。スタンディングリフトを安全に利用するためにも、定期的な講習会の開催や注意喚起をする業務上の工夫を積み重ねることが重要です。
出典:公益財団法人テクノエイド協会「はじめてのスタンディングリフト」
介護現場において、これまでは人力での介助が主流でした。しかしながら、介助者・被介護者双方の負担軽減のために、スタンディングリフトなどの福祉用具を使った介護が普及しつつあります。複数のメーカーがスタンディングリフトをリリースしていますが、それぞれの製品により特長が異なります。導入を検討中の方は、十分に比較・吟味して決めるようにしてください。スタンディングリフトは便利ですが、過去には思わぬ事故も発生しています。導入しただけで満足するのではなく。定期的な講習会や試験対策などでスタッフの注意喚起を行っていきましょう。