社会保険診療報酬支払基金とは、保険診療を行う医療機関と健康保険組合のやり取りをスムーズにする役割を担っています。支払基金の存在によって、現在の適正な医療が守られているといっても過言ではありません。
では、支払基金とは具体的にどのような役割を果たしているのでしょうか。今回の記事では、支払基金の役割や医療機関へ診察料が支払われる流れを解説します。支払基金のチェック項目や医療機関が注意すべきポイントについても触れていますので、最後までご覧ください。
社会保険診療報酬支払基金とは、短く「支払基金」とも呼ばれています。健康保険制度に関わる診療報酬が正しく行われているのかを審査し、健康保険組合へ請求・各医療機関へ支払いをする専門機関です。
多くの場合、従業員は会社が加入する協会けんぽや健康保険組合などの保険者が発行する健康保険証を利用します。従業員である被保険者やその家族(被扶養者)が医療機関で保険診療を受けると、支払額は満額の一部のみです。
残りの診察料については、被保険者が加入している健康保険組合が支払うことになります。しかし、この手続きは医療機関と健康保険組合が直接やり取りをしているわけではありません。
医療機関は健康保険組合へ請求するため、ひと月ごとのレセプトを一旦支払基金に提出するのが通常の流れです。支払基金はこのレセプトが適正であるかを審査した後、健康保険組合に金額を請求します。
ここでようやく健康保険組合は請求を確認し、事業主や被保険者から預かった保険料から支払基金への支払いが行われるのです。請求した金額を受け取った支払基金は、毎月定められた期日までに医療機関へ支払うことで診察料の請求が完結します。
このように、医療機関と健康保険組合の仲介役を行っているのが支払基金の役目です。
ちなみに整骨院は保険の判定が難しいため一旦被保険者が全額負担し、被保険者自ら健康保険組合に請求を行います。しかし、このやり方ではいくら返金されるとしても窓口負担が高額となり通いづらいのがデメリットです。
デメリットを解消するため、多くの整骨院では被保険者からの委任を受けたうえで健康保険組合に代理請求を行っています。そうすることで、被保険者の窓口負担は3割に抑えることができるのです。
代理請求をしてもらうには、整骨院が提示する支給申請書に署名を行う必要があります。請求書に不備がないか確認し、手続きを行いましょう。
診療報酬については診療報酬制度とは?仕組みから加算まで簡単にわかりやすく解説!でも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
ここでは被保険者が医療機関に受診した後、健康保険組合から医療費が支払われるまでのスケジュールを表にまとめています。さらに、それぞれの流れについても詳しく見ていきましょう。
流れ | プレーヤー | スケジュール(締切) |
---|---|---|
診療報酬の請求 | 医療機関⇒支払基金 | 診療翌月の10日 |
診療報酬の審査 | 支払基金 | 診療翌月の10~25日 |
診療報酬の請求 | 支払基金⇒保険者 | 診療翌々月の10日 |
診療報酬の支払い | 保険者⇒支払基金 | 診療翌々月の20日 |
診療報酬の支払い | 支払基金⇒医療機関 | 診療翌々月の21日 |
被保険者が医療機関の診察を受けたら、自己負担分以外の診療代は支払基金に請求することになります。診療の頻度は患者様によって違うので、医療機関は1カ月分をまとめて請求するのが通常です。
請求時には内容審査のために、レセプトを提出します。支払基金への提出期限も診療翌月の10日と定められており、期日を過ぎるとスムーズな手続きが行われません。
支払基金は、各医療機関からのレセプトが到着したら内容の審査に入ります。審査期間は診療翌月の10日〜25日です。審査の結果内容に不備があった場合は、医療機関への返戻や査定判定を下されます。
いずれの場合も医療機関にとってデメリットとなってしまうので、レセプト提出の際には十分注意しましょう。
レセプトを審査した結果、不備がなければ支払基金から各健康保険組合に診療報酬の請求を行います。請求手続きは診療翌々月の10日です。この日までに請求手続きが行われた分に関しては、同じ月の20日に診療報酬が支払基金へ支払われます。
支払基金が診療報酬を受け取ると、翌日には各医療機関へ振り分け・支払いが行われます。医療機関への支払いが完了するのは、診療翌々月の21日です。
支払基金は、不備を見逃さないようさまざまな角度からレセプトを審査します。では、具体的にどんな審査が行われているのでしょうか。以下で詳しく解説します。
レセプトに記載されている内容に不備がないかを確認します。
診療行為が適正だったかを確認します。
処方された医薬品についても詳細に確認していきます。
診療の際に用いられる医療材料も支払基金の確認対象です。
審査は全国47都道府県に設置されており、医療業界の専門集団である「審査委員会」が行います。審査委員は次の三者構成となるよう定められていて、全ての立場に公正な審査が約束されているのです。
審査委員は全国で約4,700人も在籍し「人でなければできない審査」を集中的に行っています。審査委員のおかげで患者様や状況ごとに異なる診療にも柔軟に対応でき、システムだけでは判断しにくい部分も審査が可能です。
前述した通り、審査の結果返戻や査定の判定が下りてしまうと医療機関にとってデメリットが生じてしまいます。ここでは、2つの特徴を表にまとめました。
返戻 | 査定 | |
---|---|---|
判定条件 | 医療行為の適否が判断し難い場合 | 審査側が請求を不適当と判断した場合 |
判定後 | 対象レセプトが医療機関に差し戻される。再提出されるまで支払いも延長となる。 | 支払基金が不適当な項目を修正し、支払われる。 |
再請求 | 可 | 不可 |
行われた診療内容の適否が支払基金では判断しづらい場合に、レセプトが医療機関へ差し戻されることです。改めてレセプトを提出できる点はメリットですが、予定していた期日に報酬を受け取れないのはデメリットでしょう。
レセプトと医療機関の請求を精査した結果、内容が不適当と判断した場合に支払基金が調整した金額が支払われることです。医療機関が見込んでいた収入が減額されるので、運営していくにあたって打撃となってしまいます。
以下では、社会保険診療報酬支払基金に関するよくある質問をまとめています。
支払基金と国保連は一見すると同じように感じますが、対象の保険者や組織体制が異なります。2つの違いについて、下の表にまとめました。
支払基金 | 国保連 | |
---|---|---|
保険者 | 会社で加入している健康保険組合や全国健康保険協会 | 市町村国保 |
組織体制 | 全国で1組織のみ(各都道府県に支部あり) | 各都道府県ごとに組織がある |
都道府県ごとの点検基準においては、医療現場から「地方独自ルールが存在する」との批判があります。例をあげると、通常は「回復期リハビリ病棟の入院患者は1日につき9単位まで疾患別リハビリ科の算定が可能」です。
しかし、ある県の国保連は「一律に6単位を上限として、超過分は査定」とされていることなどが指摘されています。国保連については都道府県ごとに組織が独立しており、どうしても地域差が生じてしまう点がデメリットです。
現在、国民健康保険中央会では国保連の地域差をならすよう取り組みが進められています。そのうえで支払基金との審査基準統一も視野に入れ、審査システムに反映させていくのが最終的な狙いです。
社会保険診療報酬支払基金は「支払基金」とも言われ、保険診療について重大な役割を果たしています。支払基金のチェックによって、患者様に最適・安心な医療を提供することができるのです。
支払基金は全国にたった1つの組織が運営しており、さまざまな立場の人が公平に扱われるよう人員配置しています。チェック項目も詳細なので、返戻や査定にならないよう医療機関側も対策しておくことが必要です。