新規に保険医療機関を開設された先生方を対象に行われる「新規個別指導」。
保険診療の基本ルールや診療報酬の請求について、指定後おおむね1年以内に行われます。
新規で開業される先生にとって避けられるものではありません。実際にどんな内容が問われるのか不安に感じている先生も多いことでしょう。
今回の記事では、「新規個別指導」について、その目的、指導内容、当日の流れ、そして結果通知後の対応まで、1つずつ順をおって紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
「新規個別指導」とは、新たに保険医療機関として指定された医療機関に対して、原則として指定後おおむね1年以内に行われる個別指導のことです。目的は、保険診療の基本ルールや診療報酬の請求について、医療機関の開設者や管理者に周知し、その適正な運営を促すことです。具体的には、以下のような内容が確認・指導されます。
新規個別指導は、集団指導の後に個別に行われるもので、正当な理由なく拒否すると個別指導の対象となる可能性があります。新規に医療機関を開業した場合、避けて通れない重要なプロセスと認識しておくと良いでしょう。
指導の実施状況と取消処分の状況は下記の通りです。
■指導・監査等の実施件数
新規個別指導 | 1,464件 |
---|---|
個別指導 | 6,576件 |
適時調査 | 2,748件 |
監査 | 46件 |
■取消等の状況
指定取消・登録取消 | 指定取消相当・ 登録取消相当 | |
---|---|---|
保険医療機関等 | 8件 | 13件 |
保険医等 | 13人 | 1人 |
出典:令和5年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について(概況)
保険医療機関に対する個別指導には、主に以下の3つの種類があります。
新たに保険医療機関として指定された医療機関に対し、指定後おおむね1年以内に行われます。保険診療の基本ルールや診療報酬の請求について周知し、適正な運営を促すことが目的です。
既に指定されている保険医療機関に対して行われる指導です。患者や保険者からの情報提供、診療報酬の請求内容などを踏まえ、必要に応じて実施されます。過去の指導で「再指導」とされた医療機関が対象となることもあります。
複数の医療機関を対象に、集団形式で行われる指導です。診療報酬明細書の平均点数が高いなど、一定の基準に該当する医療機関が対象となることが多いです。講習会形式で行われることが一般的です。
新規個別指導は、管轄の地方厚生局によって多少異なる場合がありますが、一般的には以下のような流れで行われます。指導の場所は、通常、各都道府県の厚生局や医師会の会議室などです。
出典:東京都医師会
指導1か月前に医療機関に指導の実施について通知書が届きます。通知書には、実施日、実施時間、指導に用意する資料等が示されています。
クリニックへの新規個別指導は基本的に厚生局の会議室で実施されます。指導は、保険指導医1名ないし2名、書記として事務職員1名ないし2名、場合によっては医師会から派遣される立ち合い医師が参加します。
クリニックへの新規個別指導は基本的に厚生局の会議室で実施されます。指導は、保険指導医1名ないし2名、書記として事務職員1名ないし2名、場合によっては医師会から派遣される立ち合い医師が参加します。
指導員から診療報酬等の内容について質問等が行われ、結果に基づき指導等が行われます。指導する内容に問題がある場合や、新たな資料により指導が必要となる場合は、一旦中断して改めて指導が実施されます。
新規個別指導は概ね1時間程度、個別指導は概ね2時間程度実施されます。
新規個別指導では、保険医療機関として適切に運営されているかを確認するために、多岐にわたる事項が確認・指導されます。具体的には、以下のような内容が対象となります。
病名の記載不備 | 病名が略称で記載されている、ICD-10コードが記載されていない、主病名と症状が一致しないなど。 |
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症状・所見の記載不足 | 初診時や再診時の症状、身体所見、検査結果などの記載が不十分。 |
治療内容の記載不足 | どのような治療を行ったかの記載がない、または曖昧。 |
経過の記載不足 | 治療の経過や患者の状態の変化が記載されていない。 |
日付の記載漏れや誤り | 診療日、処方日、検査日などの記載がない、または誤っている。 |
算定要件の誤解 | 特定の診療行為や薬剤の算定要件を満たしていないのに請求している。 |
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重複請求 | 同一の診療行為や薬剤を複数回請求している。 |
過剰請求 | 実際に行った医療行為よりも高い点数を請求している。 |
摘要欄の記載不備 | 必要な摘要が記載されていない。 |
保険適用外の請求 | 保険適用とならないものを保険請求している。 |
掲示義務の不履行 | 保険医療機関の標榜、診療時間、休診日などが適切に掲示されていない。 |
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医療安全管理体制の不備 | 医療安全に関する指針や体制が整備されていない。 |
院内感染対策の不備 | 院内感染対策に関する指針や体制が整備されていない。 |
個人情報保護の不備 | 患者の個人情報の取り扱いが適切でない。 |
新規個別指導の結果は、原則として1~2ヶ月以内に、文書(郵送)で医療機関に通知されます。指導の結果は4パターンあります。
指摘事項が軽微で、改善を求められるものの、全体として問題がないと判断された場合。
指摘事項があり、改善状況を一定期間後に確認する必要があると判断された場合。改善報告書の提出を求められることがあります。
指摘事項が多く、改善が見られない場合や、再度指導を行う必要があると判断された場合。
不正または不当な診療報酬請求などが疑われ、より詳細な調査(監査)が必要と判断された場合。
指導の結果は約7割が「経過観察」となると言われています。新規個別指導の結果が「経過観察」となった場合、それは指摘事項があり、その改善状況を一定期間後に確認する必要があると判断されたことを意味します。ここでは、指導の結果が「経過観察」となった場合の流れについて紹介します。
出典:長野保険医新聞|2021年度 個別指導の実施結果が開示
指導の結果通知書に、具体的にどのような点が指摘され、改善を求められているかが記載されます。
地方厚生局から、指摘された事項に対する改善計画書の提出を求められることがあります。いつまでに、どのように改善を行うのかを具体的に記述する必要があります。
一定期間後(通常は数ヶ月以内)、指摘された事項がどのように改善されたかを報告する「改善報告書」の提出が求められます。この報告書には、具体的な改善策とその実施状況などを記載します。必要に応じて、改善を示す資料(例:見直し後のカルテ記載例、研修資料など)の添付を求められることもあります。
提出された改善報告書は、地方厚生局によって確認されます。
改善が認められた場合は、これで経過観察は終了となることが多いです。改善が不十分と判断された場合は、再度、改善を求められたり、状況によっては「再指導」に移行したりする可能性があります。
個別指導後の「再指導」は、過去の個別指導で指摘された事項が改善されていない、または新たな問題点が認められた場合に実施されます。これは、「経過観察」よりもさらに改善の必要性が高いと判断された状況と言えます。
再指導では、初回の個別指導で指摘された内容が再度確認されるとともに、その後の改善状況や新たな問題点について、より重点的に指導が行われます。
「再指導」後も改善が不十分と判断された場合、「要監査」へと移行する可能性があります。「要監査」となると、不正または不当な診療報酬請求などが疑われ、より詳細な調査(監査)が行われ、最悪の場合、保険医療機関の指定取り消しなどの行政処分につながることもあります。
ここまで、新規個別指導の内容について順を追って解説してきました。新規個別指導の内容は理解していても、この先訪れる個別指導のことを考えると不安になりますよね。そんな方は、事前に第三者の指導を受けておくといいでしょう。株式会社メディカルタクトでは、開業医の先生向けに個別指導対策のサービスを提供しています。
>>株式会社メディカルタクトHP今回は新規個別指導の内容を解説しました。個別指導は新規で開業する先生にとっては、さけられないものです。いざ、通知書が届いてから慌てるのでなく、開業後には個別指導というものがあるのだということを知っておくといいでしょう。
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