近年、医療現場においてPOCUS(ポイント・オブ・ケア超音波)という手法が広がりを見せています。これは、検査室に予約を入れて実施するような従来の検査とは異なり、診察の過程で聴診器を当てるように、その場で迅速に状態を確認する診察スタイルです。
かつては大型の据え置き型が一般的だった超音波診断装置ですが、現在はスマートフォンやタブレットと連携できるコンパクトなポータブルモデルが登場したことで、クリニックの診察室や訪問診療(在宅医療)といった現場でも有力な選択肢となりました。
これまでの触診や聴診に画像による目視を加えることで、クリニックでの判断の精度を高めるだけでなく、患者さんへ画面を見せながら視覚的に説明できる点もメリットの一つです。
本記事では、POCUSを導入することでクリニックの日々の診療がどう変わるのか、その具体的なメリットや算定できる診療報酬、導入価格について解説します。あわせて、現在活用されている主要なポータブルエコー3選も紹介しますので、自院のスタイルに適した一台を検討する際の参考にしてください。
POCUS(ポーカス)は、「Point-of-Care Ultrasound(ポイント・オブ・ケア超音波)」の略称です。これは検査室に予約を入れて行う精密検査とは異なり、診察室で医師が自らエコーを当てて、その場で状態を確認する手法を指します。
イメージとしては、胸の音を聴くために聴診器を当てる診察スタイルに近いです。触診や聴診で得た情報に「画像による目視」を加えることで、診察の精度を高めることが目的です。特別な検査として構えるのではなく、いつもの診察の流れの中で、気になった部分をその場ですぐに確認するための新しい道具と言えます。
診察室でPOCUS(ポイント・オブ・ケア超音波)を活用することには、診療を補助するためのいくつかの利点があります。
触診や聴診といったいつもの診察に、画像による情報をその場でプラスできます。手で触れた感触や音から得た推測を、視覚的な情報で裏付けることは、判断を支える材料を増やすことにつながります。これは、精密検査が必要か、あるいは専門の医療機関へ紹介すべきかを検討する際の一つの指標として活用されています。
患者さんへの説明を補完するツールとしての側面もあります。口頭だけで伝えるのではなく、実際の画像を一緒に見ながらお話しすることで、現在の状態を共有しやすくなります。医師と患者さんが同じ画像を確認することは、診療内容の理解を助ける一助となり、患者さんの納得感に寄与することが期待されます。
検査室へ依頼して別の日や時間に結果を確認する流れとは異なり、いつもの診察手順の中で画像を確認できます。限られた外来診療の時間において、必要な情報をその場で得られることは、診療を滞りなく進めるための支えとなります。
POCUS(ポイント・オブ・ケア超音波)を日常診療に導入する際は、外来での迅速な確認や訪問診療での携行性など、自院のスタイルに適した一台を選ぶことが重要です。
現在はワイヤレス設計やAIによる支援など、さまざまな機能を持つポータブルエコーが登場しています。ここでは、ポータブルエコーの主要3社の製品を紹介します。
>>>ポータブルエコーについて詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

GEヘルスケア・ジャパンが提供する「Vscan Air」は、プローブと表示画面をワイヤレスで接続するデバイスフリーな設計が特徴です。専用のモニターを必要とせず、手持ちのスマートフォンやタブレットをそのまま活用できるため、診察室での取り回しや往診時の携行性に優れています。
ラインナップには、コンベックスとリニアの機能を1本に集約した「Vscan Air CL」と、セクタとリニアの機能を備えた「Vscan Air SL」の2機種が用意されています。いずれも1本のプローブの両端に異なる2つの振動子を搭載したデュアルプローブ方式を採用しており、プローブを差し替える手間なく1台で幅広い領域の診察に対応できる仕様となっています。
Vscan Air CLで利用可能です。AI技術を活用した自動膀胱容積計測機能で、ガイダンスを参考に2断面を取得することで自動計測が行われます。客観的な評価により、排尿トラブルの実態把握や不要な導尿の回避を支援します。
Vscan Air SLで利用可能です。ガイダンスを参考に2断面を取得することで計測が起動し、膀胱容積を簡便かつ定量的にマニュアル計測できます。客観的な評価に基づき、患者の排尿管理やトラブル把握の一助となります。
Vscan Air SLで利用可能な、心臓領域のPOCUSにおける画像取得支援AIツールです。リアルタイムのガイドで診断に適した画像を短時間で取得でき、Auto EFによる左室駆出率の推定など、定量的な評価をサポートします。
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| 製品名 | Vscan Air CL | Vscan Air SL |
| 導入費用 | 798,000円~ | 1,100,000円~ |
| プローブ | デュアルプローブ (コンベックス・リニア) |
デュアルプローブ (セクタ・リニア) |
| 詳細ページ |
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富士フイルムメディカルの「iViz air」は、診察スタイルに合わせて「コンベックス」と「リニア」の2つの機種から選択できます。コンベックスは胆のう、膀胱、腎臓、直腸などの腹部領域に適しており、リニアは運動器や血管などの表在部位の確認や穿刺のサポートに対応します。
用途に合わせて選択できるアプリケーションには、AI技術を活用して開発された機能が含まれます。具体的には、尿量を自動算出する「膀胱尿量自動計測」や、便の検出をサポートする「直腸観察ガイドPlus」、動静脈の判別と血管径の計測を行う「PV穿刺モードPlus」、走査手順を視覚的に表示する「肺エコーガイド」などが可能です。
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| 製品名 | iViz air Ver.5 コンベックス | iViz air Ver.5 リニア |
| 導入費用 | 977,200円 | 要お問合せ |
| プローブ | コンベックス | リニア |
| 詳細ページ |
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フィリップスの「Lumify」は、専用のトランスデューサとタブレット端末を組み合わせて使用するポータブル超音波診断装置です。
トランスデューサは「コンベックス」「リニア」「セクタ」の3種類がラインアップされており、用途に合わせて選択可能です。腹部、血管、運動器、心臓などの幅広い臨床画像に対応し、産婦人科領域での胎児診断などにも用いられます。
機能面では、さまざまな自動化技術が搭載されています。2D画像を自動で最適化する「AutoSCAN機能」や、肺エコーで最大B-line数を自動計測する機能により、直感的でシンプルな操作性を実現します。表示器となるタブレットは、11インチ前後のサイズが用意されており、視認性とポータビリティの両立が図られています。
| 製品名 | Lumify(ルミファイ) |
|---|---|
| 導入費用 | 要お問合せ |
| プローブ | コンベックス、リニア、セクタ |
紹介した3社の製品は、それぞれプローブの構造や、目的に応じて選択できる機能、操作システムに違いがあります。診察室での活用や訪問診療など、自院の運用スタイルに適した一台を検討するための比較材料として活用してください。
| 製品名/会社名 | 特徴 |
|---|---|
| Vscan Air GEヘルスケア・ジャパン |
1本のプローブで2役をこなすデュアルプローブ方式。完全ワイヤレスかつデバイスフリーで、スマホやタブレットをそのまま表示器として活用できる高い携行性が特徴。 |
| iViz air 富士フイルムメディカル |
目的に応じて、膀胱尿量計測や肺エコーガイドなどのAI技術を活用したアプリケーションを選択可能。本体は清掃しやすいフラットな設計で、臨床現場での衛生面にも配慮。 |
| Lumify(ルミファイ) フィリップス・ジャパン |
画像を自動最適化する「AutoSCAN機能」や肺エコーの自動計測機能を搭載。専用トランスデューサを接続するシンプルな構成で、領域を問わず直感的な操作と描出に対応。 |
主要な製品を見てきたところで、次に検討のポイントとなるのが導入費用です。POCUS(ポイント・オブ・ケア超音波)を支えるポータブルエコーは、据え置き型と比較して導入しやすい価格帯ですが、構成によって費用は変動します。
今回紹介した3製品の公表されている価格(税込)は以下の通りです。
| 製品名 | 価格 | 備考 |
|---|---|---|
| Vscan Air CL | 798,000円〜 | デュアルプローブ(コンベックス・リニア) |
| Vscan Air SL | 1,100,000円〜 | デュアルプローブ(セクタ・リニア) |
| iViz air Ver.5 | 977,200円〜 | コンベックスモデルの場合 |
| Lumify | 要お問合せ | プローブの種類や契約形態により変動 |
実際の導入総額は、本体代金に加えて「プローブ構成」「表示デバイス」「保守・オプション」の組み合わせによって変動します。腹部や心臓、表在など、診察領域に合わせて必要なプローブを選定しますが、モデルによっては1本で複数の領域をカバーできるタイプもあり、用途に応じた選択が可能です。また、メーカー専用の端末を使用するか、汎用タブレット等を利用するかによっても初期費用が異なります。
導入後は、故障時の修理対応や代替機貸出を含む保守費用、AI機能などのアプリケーション利用に伴うランニングコストが発生する場合もあります。詳細な予算については、こうした具体的な運用スタイルに基づいた個別見積りでの確認が重要です。
ポータブルエコーの価格については、ポータブルエコーの価格はどれくらい?主要製品の価格比較までで詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
POCUS(ポイント・オブ・ケア超音波)を診療に取り入れた際、一般的に検討される診療報酬(点数)について解説します。クリニックの外来において、断層撮影法(心臓超音波検査を除く)を実施した場合、一般的には以下のような点数が設定されています。
これらは、診察室で医師がポータブルエコーを用いて画像を確認し、その結果を適切に診療録(カルテ)に記載・保存することで、要件を満たす場合に算定が可能となります。なお、訪問診療時に実施した場合は、部位にかかわらず「月1回に限り400点」となるなど、状況によってルールが異なります。
ポータブルエコー使用時の保険点数については、ポータブルエコーの保険点数は?価格相場やおすすめ製品もでも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
POCUS(ポイント・オブ・ケア超音波)を実診療に導入するにあたって、医師から寄せられることの多い疑問をまとめました。導入後の運用イメージを具体化し、自院の診察スタイルに合致するかを検討する際の参考にしてください。
A. 医師免許があれば、どなたでも診療に取り入れることが可能です。ただし、適切に画像を評価するためには、学会やセミナーなどが主催するハンズオン(実技講習)への参加や、日常的なトレーニングが推奨されます。
A. 大きな違いは、設置スペースと移動のしやすさにあります。据置型は、主に検査室などの決まった場所に設置して使用されますが、ポータブルエコーはコンパクトで持ち運びが容易な点が特徴です。
診察室の限られたスペースを有効に活用できるほか、処置室や往診先など、必要な場所へ自由に持ち運んでその場で画像を確認できる機動力を持っています。
A. POCUSの定義や活用に関する考え方は、日本ポイントオブケア超音波学会(J-POCUS)や日本超音波医学会など、関連する各学会のホームページ等で情報が発信されています。
専門領域ごとにPOCUSの捉え方や推奨される運用が異なる場合があるため、最新の動向や詳細については各学会の公式情報をご確認ください。
出典:一般社団法人 日本ポイントオブケア超音波学会(J-POCUS)
公益社団法人 日本超音波医学会
POCUS(ポイント・オブ・ケア超音波)は、診察室や往診先などで医師が自らエコーを当て、その場で状態を確認する手法です。聴診器のように日常的な診察の流れの中で活用することで、身体診察で得た情報の裏付けや、患者さんへの視覚的な説明、迅速な意思決定に役立ちます。
導入にあたっては、実施部位に応じた診療報酬の算定が可能なほか、近年では1本で広範囲をカバーできるデュアルプローブや、AI技術による計測支援機能を備えたモデルなど、選択肢が広がっています。
ポータブルエコーには、メーカーごとに接続方式や搭載アプリ、操作性などに違いがあります。自院の診療ニーズや運用スタイルに適した機種を選ぶことが、スムーズな導入と活用につながります。