2026年報酬改定|医師事務作業補助体制加算の変更点とAI特例

更新日 2026.03.18
投稿者:豊田 裕史

2026年度の診療報酬改定により、医師事務作業補助体制加算に新たな配置基準の特例(以下、AI特例)が導入される見通しです。

今回の改定は、深刻な人手不足への対応として、生成AIやRPAなどのICTツールを活用している場合にスタッフ1人を1.2倍または1.3倍として換算できる仕組みです。適切なツールの導入と運用体制を整えることで、採用が困難な状況でも上位の加算区分を維持しやすくなり、医師の働き方改革と病院経営の安定化を両立させる効果が期待されています。

この記事では、算定要件となるツールの組み合わせや実務上の注意点、導入による収益への影響について詳しく解説します。

目次

2026年報酬改定:医師事務作業補助体制加算の全体像

2026年度の診療報酬改定では、深刻な人手不足への対策として、ITやAIをどれだけ活用できているかを評価する仕組みへと大きく舵を切りました。

これまでの医師事務作業補助体制加算は、スタッフを何人配置しているかという人数の確保が評価の中心でした。しかし今回の改定では、生成AIなどの導入を条件に、スタッフ1人を最大1.3人分として換算できる配置基準の特例(以下、AI特例)が新設されたことが最大の変更点です。

この仕組みにより、採用が難しい地域や状況でも、ICTの力を借りることで上位の加算区分を維持しやすくなります。デジタル技術を味方につけて、少ない人数でも質の高いサポート体制を築き、病院経営を安定させることが今回の改定の大きな狙いです。

医師事務作業補助体制加算の全体像

出典:厚生労働省|令和8年度診療報酬改定について【全体概要版】
厚生労働省|個別改定項目について

注目!医師事務作業補助体制加算のAI特例

2026年度の改定では、ICT機器の活用度合いに応じて、スタッフ1人を「1.2人」または「1.3人」として算入できる柔軟な配置基準が導入されました。

AI・ICTの活用内容に応じた「みなし換算」

今回の改定では、導入しているICTツールの組み合わせによって、換算率が2段階に設定されています。自院の現在のIT環境や、今後の導入計画と照らし合わせて確認が必要です。

1.2倍換算:生成AIによる文書作成補助がベース

1.2倍の換算を受けるためには、生成AIを活用した文書作成補助システムを組織的に導入していることが基本条件となります。医師の指示のもとで、診断書や退院時サマリーなどの下書きをAIが作成し、それを補助スタッフが日常業務で活用して効率化を図っている実態が求められます。

単なるシステムの導入にとどまらず、現場での常用によって事務負担が実際に軽減されていることが、スタッフ1人を1.2人分として数えるための判断基準となります。

1.3倍換算:複数のICTツールを組み合わせた高度な効率化

1.3倍の手厚い換算を受けるためには、基本となる生成AIの活用に加え、さらに別のICTツールを広く活用している必要があります。具体的には、生成AIと組み合わせて以下の3つのうち、少なくとも1種類以上を日常的に併用していることが条件となります。

  • 用の音声入力システム:医療文書に特化した音声認識ソフト(汎用機能は除く)
  • RPA(自動化ツール):医療データの転記などの定型作業を自動化する仕組み
  • 患者向け説明動画:入退院や検査に関する動画を10種類以上用意し、案内に活用

このように「生成AI + α(音声入力・RPA・動画のいずれか)」という体制が整って初めて、1.3倍の配置人数として算定することが可能になります。

本特例を受けるための運用要件(共通)

システムの導入に加え、組織的な管理体制を整えることが算定の前提となります。以下の4つの要件は、1.2倍・1.3倍のいずれの区分であっても共通して対応が必要です。

2つのガイドライン遵守と安全管理

情報の安全性を担保するため、システムの選定・運用において「AI事業者ガイドライン」および「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」の最新版に対応していることが求められます。

患者情報の学習流用を防ぐ契約の締結や、ネットワークセキュリティの確保、システム障害への備えなど、安全な運用体制の構築が必須です。

全補助者への研修(操作方法・AI利用)

対象となる全ての医師事務作業補助者に対し、導入したICT機器の操作方法や、生成AIを適切に利用するための情報リテラシー研修を定期的に実施する必要があります。全ての補助者が、常時これらの機器を用いて業務を遂行できる習熟度を維持していることが、体制整備の条件となります。

届け出前に必要な3ヶ月の実績

本特例を用いた新たな届け出を行うには、事前の準備期間が必要です。具体的には、対象のツールを活用して業務効率化を図った実績が「直近3ヶ月以上」認められる必要があります。この期間、特例を使わずに該当する配置区分を実際に維持していることが、データとしての裏付けになります。

年1回程度の評価・確認(負担感等)

算定を開始した後は、少なくとも年1回、医師や事務作業補助者の業務時間や心理的な負担感について評価・確認を行う必要があります。この評価結果に基づき、必要に応じて運用の見直しや追加の対策を講じるなど、継続的な業務改善のサイクルを回すことが求められます。

本特例の算定要件一覧(1.2倍・1.3倍の比較)

本特例を適用して人員配置を「1.2倍」または「1.3倍」に換算するには、基盤となる生成AIの導入に加え、後述する運用面での共通ルールをすべて満たす必要があります。自院が目指す算定区分に応じて、必要なICTツールの組み合わせを以下の表でご確認ください。

算定条件・ICTツール 1.2倍算入 1.3倍算入
①生成AIによる文書作成補助システム 必須 必須
②〜④ 選択ツール(音声入力・RPA・動画) 1つ以上必須
ガイドライン遵守(安全管理・AI事業者) 必須 必須
全補助者への研修(操作方法・AI利用) 必須 必須
直近3ヶ月以上の継続算定実績 必須 必須
年1回程度の評価・確認(負担感等) 必須 必須

AI特例の対象となる職種と施設基準の範囲

「1.2倍・1.3倍」という特別な計算ルールが適用されるのは、病院内のすべての職種ではありません。医師事務作業補助体制加算の届け出に関わるスタッフのみに適用されます。

職種 特例(1.2 / 1.3倍) 判定のポイント
医師事務作業補助者 ◯ 対象 医師の事務を代行する専用スタッフ
看護師・准看護師 × 対象外 7対1などの看護基準には適用不可
医療事務(受付・会計) × 対象外 レセプト業務や窓口担当は含まない

【注意】 看護師やクラークが書類作成を手伝っていても、この加算の対象スタッフ(専従・専任)として正式に届け出ていなければ、人数換算の対象にはなりません。

AI特例が適用される「医師事務作業補助体制加算」一覧

今回の人数換算(1.2倍・1.3倍)は、以下のすべての区分に適用可能です。自院が届け出ている、あるいは目標とする区分を確認してください。

正式名称(施設基準の区分) 加算1(点数) 加算2(点数)
15対1補助体制加算 1,070点 995点
20対1補助体制加算 855点 790点
25対1補助体制加算 725点 665点
30対1補助体制加算 630点 580点
40対1補助体制加算 530点 495点
50対1補助体制加算 450点 415点
75対1補助体制加算 370点 335点
100対1補助体制加算 320点 285点

今回の人数換算ルールは、医師事務作業補助体制加算を対象とした仕組みです。看護配置基準(7対1等)や看護補助者の配置基準(15対1等)とは、別の施設基準として扱われる点に注意が必要です。

この仕組みを活用することで、点数の高い上位区分を維持しやすくなります。ICTの導入によって実人数が不足している状況でも、15対1や20対1といった区分への移行や継続算定が可能になることが、大きな利点といえます。

出典:今日の臨床サポート|A207-2 医師事務作業補助体制加算(入院初日)

医師事務作業補助者は何人必要?(配置シミュレーション)

本特例(1.2倍・1.3倍換算)を活用することで、医師事務作業補助者の採用が予定通りに進まない場合でも、AIの補助によって施設基準の維持や上位区分の算定が可能になります。

医師事務作業補助者1人を「1.2〜1.3人分」とカウント

判定の仕組みはシンプルです。スタッフ1人の数え方を、AIの活用度合いに応じて以下のように増やして計算します。

  • 生成AIのみ導入: 1人 = 1.2人 とみなす
  • 生成AI + α(RPA等): 1人 = 1.3人 とみなす

【早見表】施設基準ごとの必要人数(実人数)の比較

入院患者100名の病院において、各施設基準をクリアするために実際に雇用が必要な人数(実人数)を算出しました。特例を使うことで、本来の基準よりも少ない人数で算定が可能になります。

施設基準の区分 本来の必要人数
(特例なし)
1.2倍カウント時 1.3倍カウント時
15対1補助体制加算 6.7人 5.6人 5.2人
20対1補助体制加算 5.0人 4.2人 3.9人
25対1補助体制加算 4.0人 3.4人 3.1人
30対1補助体制加算 3.4人 2.8人 2.6人
40対1補助体制加算 2.5人 2.1人 2.0人

収支はいくら変わる?(収支シミュレーション)

システム利用料等のコストは発生しますが、人員不足による加算のランクダウン(減収)を防ぎ、採用コストを抑制できるメリットは非常に大きなものとなります。

ツール利用料を差し引いた実質収益

入院患者200名の病院で、現在8名のスタッフで「25対1補助体制加算」を算定している病院の試算です。1.3倍換算を用いることで、人数を変えずに「20対1補助体制加算」へ移行した場合、本来必要だった2名の追加採用なしで収益を改善できます。

項目(入院患者200名) 金額(月換算) 備考
① 上位区分への移行による増収 +78.0万円 130点増 × 200名 × 30日
② システム利用料(推定) ▲15.0万円 生成AI・音声入力等の運用費
実質的な収支(①ー②) +63.0万円 年間 約756万円のプラス

※システム料金はメーカーや導入規模により異なるため、上記はあくまで参考値です。

このように、システム運用費という新たな支出が発生しても、追加採用による人件費増を抑えつつ、施設基準の維持や上位移行による収益で十分に補うことが可能です。

採用・人件費の抑制によるメリット

深刻な採用難のなかで、不足するスタッフを無理に確保するコストを回避できます。AIの運用費は、スタッフを増員する場合の人件費や社会保険料に比べて低く抑えられることが多く、欠員リスクへの備えとしても有効です。

項目 回避できるコスト(概算)
新規採用費用 50万〜100万円(求人広告・紹介手数料)
年間人件費 約800万円(2名分の給与・法定福利費)

医師事務作業補助者の業務削減効果(AI・ICT導入事例)

厚生労働省の資料では、AI等の活用により医師事務作業補助者の業務時間が短縮された事例が紹介されています。

1,000床規模の病院では、退院時サマリー作成が「1時間から20分」へ短縮されました。また民間病院においても、補助者が手作業で行っていた下書き工程をAIが代替することで、作業時間が大幅に削減された例や、作成時間が半減した例が報告されています。

本特例(1.2倍・1.3倍換算)の適用にあたっては、こうしたICTツールの活用による実務上の負担軽減効果が期待されています。

医師事務作業の業務削減効果

出典:厚生労働省|(令和7年度第13回)入院医療等の調査・評価分科会 【別添】資料編③

AI特例をスムーズに導入するためのポイント

AI特例の算定を開始するためには、単にツールを導入するだけでなく、実務での活用実績と適切な事務手続きを組み合わせる必要があります。

3ヶ月間の活用実績

AI特例を適用するためには、届け出を行う前の直近3ヶ月間において、対象となるICTツールを継続的に活用している実績が求められます。どの業務でどのようにAIを用いたかを客観的に示せる状態にしておくことが重要であり、導入しただけで終わらせず、医師事務作業補助者の日常業務に定着させることが不可欠です。

施設基準の変更届

導入しているシステム構成が「1.2倍」または「1.3倍」のどちらの要件に合致するかを明確にした上で、管轄の厚生局へ施設基準の変更届出書を提出します。この際、ICT活用の詳細やシステムの構成図など、算定要件を満たしていることを証明する資料をあわせて準備しておくことで、受理までの流れがスムーズになります。

運用のルール化

特定のスタッフだけでなく誰もがAIを活用して下書き作成等を行えるよう、操作の定型化やプロンプトの共有を進めることが、算定を安定して継続させるための鍵となります。同時に、患者の個人情報保護に配慮した利用ルールの徹底など、安全な運用体制を組織として整えておくことも極めて重要です。

医師事務作業補助体制加算「AI特例」に関するFAQ

実務上の細かなルールや、算定を維持するための注意点について解説します。

1.2倍と1.3倍の具体的な違いは何ですか?

基本となる「1.2倍」は、生成AIなどのICTツールを導入し、医師事務作業補助者の業務負担を軽減している場合に適用されます。さらに「1.3倍」を算定するには、生成AIに加えて、RPA(定型業務の自動化)や音声入力システムなど、複数のICTツールを組み合わせて高度に効率化を図っている実態が必要です。

3ヶ月の実績期間中にスタッフが辞めた場合は?

実績期間中に退職者が出ても、残ったスタッフでツールを活用し続けていれば実績は継続されます。ただし、特例を適用してもなお「実人数×換算倍率」が施設基準に届かなくなった場合は、算定区分の変更(ランクダウン)が必要になるため注意が必要です。

どの生成AIを使っても加算の対象になりますか?

特定の製品指定はありませんが、医療機関として「適切なセキュリティ対策」が講じられていることが前提です。個人情報がAIの学習に利用されない設定であることや、院内の情報セキュリティポリシーに合致していることを証明できるツールを選定する必要があります。

以前から導入しているツールでも実績になりますか?

はい、既に生成AIやICTツールを導入して運用している場合、その期間を「直近3ヶ月の実績」としてカウントすることが可能です。要件を満たしていることが確認できれば、速やかに届け出の準備を進めることができます。

監査(適時調査)では何をチェックされますか?

主に「ツールの導入証明(契約書等)」「具体的な活用記録」「業務フローの変化」などが確認の対象となります。単にソフトをインストールしているだけでなく、実際に医師事務作業補助者がそのツールを使って業務を行っているエビデンスを日頃から残しておくことが重要です。

まとめ

2026年度の診療報酬改定で新設された配置基準の特例は、深刻な人手不足をICTの活用によって補完し、現場の体制を維持するための新たな評価指標です。スタッフ1人を1.2倍または1.3倍として換算できるこの制度は、生成AIやRPAの導入によって事務作業を効率化し、医師の負担軽減を実効性のあるものにすることを目的としています。

算定を継続する上では、システムの導入実績にとどまらず、スタッフ全員が操作に習熟し、実際に業務時間が短縮されているという実態が重要です。適切な安全管理を行いながら、業務改善のプロセスを日頃から記録に残しておくことが、安定した体制維持につながります。

デジタル技術を適切に組み合わせ、限られた人員でも質の高いサポートを継続できる環境を整えていくことが、今後の病院経営における実務的な視点となります。

中小企業診断士
セカンドラボ株式会社 PR Solution Div.
URL:https://note.com/2ndlabo/n/n949eaa3e9d69

北海道大学を卒業後、医療機器の営業として6年間勤務。外科、整形外科、泌尿器科領域を中心に民間・国公立の病院を担当。2020年よりセカンドラボ株式会社に入社。医療福祉施設の課題解決プラットフォーム「2ndLabo」にて各種ITツール、医療機器の導入支援、クリニック開業支援に従事。

2ndLaboのサービスを通じて、これまで1,000件を超えるサービス導入支援・開業支援を担当。得意分野は、電子カルテ、介護ソフト、各種医療機器。

関連記事

PAGE TOP