診療所の建築基準法とは?病院との違いや用途変更の注意点を解説

更新日 2026.01.26
投稿者:豊田 裕史

「理想の物件は見つかったけれど、果たしてここで本当に開業できるのだろうか?」 そんな不安を抱えながら、クリニックの開設準備を進めているドクターは少なくありません。

診療所の建築には、建築基準法をはじめとする複雑な法規制が深く関わっています。特にテナント物件や中古戸建てをリフォームする場合、法律の解釈を一つ間違えるだけで、追加で数百万円の改修コストがかかったり、最悪の場合は保健所の検査が通らず「ここで開業はできない」と言われてしまうリスクもあります。

本記事では、2026年現在の最新ルールに基づき、ドクターが物件選びの段階で絶対に知っておくべきポイントを、医療専門リフォームの視点から整理して解説します。現場でよくある「失敗事例」や、2025年4月の法改正による注意点もまとめました。物件の契約後に後悔しないためのチェックリストとしてご活用ください。

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この記事でわかること
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目次

そもそも「診療所」の定義とは?病院・クリニックとの違い?

先生方には馴染みの深い内容かと思いますが、まずは実務上の混乱を防ぐため、法律上の定義を再確認しておきましょう。

医療法による分類:ポイントは「ベッド(病床)の数」

医療法では、ベッドの数で呼び名が明確に分かれます。この区分は、後の「建てられる場所(用途地域)」の制限にも関わってきます。

診療所 19床以下、または無床(いわゆるクリニック、医院)
病院 20床以上

【重要】診療所に求められる主な建築基準

「特殊建築物」である診療所には、一般的なオフィスより厳しい基準が適用されます。

項目 主な制限・求められる対応
内装制限 壁や天井に燃えにくい素材(不燃材料など)の使用が義務付けられます。
避難・防火 廊下幅の確保、非常灯の設置、火災を防ぐ防火区画の形成が必要です。
構造・荷重 レントゲン車や重い医療機器を置く場合、床の補強(耐荷重検討)が必須です。

居抜き物件やオフィスビルに入る際、これらの基準を満たしていないと、保健所の検査が通らず、追加工事で工期も予算も大幅に膨らむリスクがあります。

診療所はどこでも建てられる?「用途地域」のルール

クリニックの成功を左右する「立地」ですが、実は法律によって「建てられる場所」が細かく決まっています。これを「用途地域」と呼びます。

診療所なら13種類すべての地域で開業が可能

結論から言うと、診療所(19床以下)は、全国どの用途地域であっても開業が可能です。都市計画法で定められた「用途地域」は、静かな住宅街(低層住居専用地域)から騒がしい工業地帯まで13の種類に分けられていますが、診療所はそのすべてにおいて建築・設置が認められています。

「地域住民の利便性のために不可欠な施設」として扱われているため、ドクターが狙ったエリアに柔軟に出店できるのが大きな強みです。

病院(20床以上)は住宅街など建てられない場所がある

一方で、20床以上の「病院」となるとルールが一気に厳しくなります。病院は規模が大きく、救急車の出入りなど周辺環境への影響も考慮されるため、以下の5つの地域では原則として建てることができません。

  • 第一種・第二種 低層住居専用地域(低層住宅の並ぶエリア)
  • 田園住居地域(農地と住宅が調和したエリア)
  • 工業地域・工業専用地域(工場の集中するエリア)

用途地域のルールまとめ

施設種別 開業できる場所
診療所 13地域すべてOK(住宅街、オフィス街、商業地など)
病院 制限あり(主に商業地や中高層住居地域など8地域のみ)

なお、診療所であれば立地の制約はほぼありませんが、「病床を持つ診療所(有床診療所)」の場合は、特殊建築物としてのコスト面から、より慎重な物件選びが求められます。

出典:東京都都市整備局「用途地域による建築物の用途制限の概要 」

知らないと怖い「200㎡ルール」と用途変更の落とし穴

元々オフィスや店舗だった物件を診療所として使う場合、一定の面積を超えると役所への手続きが義務付けられています。これを知らずに物件を契約してしまうと、計画が大幅に狂う可能性があります。

200㎡(約60坪)を超えると「用途変更」が必要

診療所として使用する面積が200㎡(約60坪)を超える場合、役所に「用途変更の確認申請」という手続きをしなければなりません。

この手続きで最も厄介なのが、ビルを建てた時の「検査済証(建物が適法に建てられた証明書)」が必要になる点です。古いビルなどではこの書類を紛失しているケースも多く、その場合は「建物の適合性調査」のために数百万円の追加費用と数ヶ月の期間がかかることがあります。

200㎡以下でも「法律の基準」は守る義務がある

「200㎡以下だから、手続き不要で安く済む」と考えるのは危険です。手続き(確認申請)が不要な面積であっても、「診療所としての構造基準」を守る義務は変わらないからです。

面積 役所への手続き 建築基準法への適合
200㎡超 必要(確認申請) 必須
200㎡以下 不要 必須

【2025年改正】木造クリニックを検討する際の注意点

これまで、小規模な木造住宅などは審査の一部が簡略化されていました。しかし2025年4月からは、木造クリニックの多くが厳格な審査の対象となっています。

出典:国土交通省|4号特例が変わります

小規模な建物でも「構造の審査」が必須に

これまでは設計士に一任されていた「構造の安全性確認」を、役所や検査機関が直接チェックするようになりました。

工期への影響

審査工程が増えるため、着工までに1〜2ヶ月程度の追加期間が必要です。

費用への影響

専門的な構造計算が必要になり、数十万円のコストアップが見込まれます。

古い戸建てをリフォームする際のリスク

中古の住宅を買い取ってクリニックに作り変える場合、思わぬ出費が発生しやすくなっています。

今のルールに合わせる工事

昔の基準で建てられた家をクリニックにする際、今の厳しい「地震への強さ(耐震基準)」を満たすための大掛かりな工事を求められることがあります。

床が抜けないための補強

一般的な家庭の床は、重い医療機器や大量のカルテを置くようには作られていません。重さに耐えられるよう床を強くする工事が必要になり、リフォーム代が予想以上に膨らむ原因になります。

【ポイント】木造の戸建ては安く済みそうに見えますが、新しいルールによって「審査の手間」と「補強にかかるお金」が以前よりも増えています。その物件が、高い工事費を払ってまでクリニックにする価値があるのか、契約前にしっかり見極める必要があります。

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建築基準法以外にもある「守るべきルール」

建築基準法をクリアしても、まだ安心はできません。診療所の建築には「消防法」や「自治体独自の条例」も深く関わってきます。これらは物件の広さや地域によって、求められる設備が大きく変わるため注意が必要です。

消防法:命を守るための防火対策

消防法は、火災を防ぎ、被害を最小限にするための法律です。診療所では、建物の広さや階数に応じて以下の設備が必要です。

対策の種類 具体的な内容
火を消す設備 消火器はもちろん、建物の規模や構造によってはスプリンクラーの設置が求められます。
火災を知らせる設備 火災報知器や、火災を館内に知らせるための放送設備などが含まれます。
逃げるための設備 非常口を示す「誘導灯」や、高い場所から逃げるための「はしご」などの設置が必要です。

特にスプリンクラーは、後から設置すると配管工事などで数百万円単位の追加費用がかかることもあるため、設計の初期段階で消防署との確認が欠かせません。

地域の条例:場所によって異なる「バリアフリー化」

建築基準法などの全国共通のルールとは別に、各自治体が独自に決めている「条例」にも従う必要があります。特に、車椅子の方などが利用しやすくする「バリアフリー」の基準は地域差が大きいです。

地域 バリアフリー化の主なルール
東京都 全国でも特に基準が厳しく、比較的小さな診療所でも、車椅子対応トイレや段差のない通路などが義務付けられています。
その他の地域 原則として大規模な建物が対象ですが、自治体によっては診療所向けに独自の努力義務や規定を設けている場合があります。

「以前のテナントもクリニックだったから大丈夫」と思い込むのは危険です。最新の条例や、建物全体の面積によっては、新しい設備を求められるケースが多々あります。

出典:国土交通省「バリアフリー法の概要について」

現場でよくある「ヒヤッとする失敗」3つの事例

クリニックの設計や工事が始まってから「こんなはずじゃなかった」と後悔するケースは、実は少なくありません。

多くの場合、こうしたトラブルは物件を契約した後に発覚します。たとえドクターに非がなくても、法律の基準を満たせなければ工事は止まり、追加の費用が発生してしまいます。ここでは、特に相談が多い3つの失敗事例を紹介します。

事例1:「検査済証」が見つからず、計画がストップ

200㎡(約60坪)を超える物件で用途変更の手続きをしようとした際、ビルを建てた時の完了証明書である「検査済証」が手元にないことが判明しました。

この書類がないと、基本的には役所への手続きが進められません。代わりとなる適合調査を専門機関に依頼したところ、調査費用だけで数百万円かかったうえ、開院までのスケジュールが3ヶ月も遅れてしまいました。

事例2:消防署の指摘でスプリンクラーの設置が必須に

当初の予算には入っていなかったのですが、消防署との打ち合わせでスプリンクラーの設置を命じられるケースがあります。

自分のクリニックの面積だけでなく、ビル全体の広さや階数、他のテナントの状況によって義務化されるかどうかが決まります。後から天井を剥がして配管を通す工事が必要になり、予想外の追加コストに頭を抱えるドクターは少なくありません。

事例3:床の強度が足りず、レントゲン室が作れない

オフィス用のビルを借りたものの、床の耐荷重(重さに耐えられる力)がレントゲン機器や防護用の鉛の重さに耐えられないことが分かりました。

そのまま設置すると床が歪んだり、建物全体に悪影響を与えたりする恐れがあるため、鉄骨で床を補強する大掛かりな工事が必要になります。機器の重さと建物の強度の計算を甘く見ていたことで、工期の遅れと費用の増加を招いてしまった事例です。

なぜ「医療専門」のパートナーが必要か

診療所の建築は、一般的な住宅やオフィスとは全く異なるルールで動いています。ドクターの理想を安全に、かつ予算内で形にするためには、医療現場の法規と実務の両方に精通したパートナーが欠かせません。

保健所・消防署との「事前交渉」がトラブルを防ぐ

最も大きなメリットは、工事が始まる前に行政機関との調整を済ませられることです。

交渉の相手 専門家が行うこと
保健所 平面図の段階で「構造設備基準」を満たしているか確認し、開設許可がスムーズに下りるよう調整します。
消防署 建物全体の状況を踏まえ、スプリンクラー等の設備が本当に必要か、代替案はないかなどを事前に協議します。

こうした「事前のすり合わせ」を丁寧に行うことで、完成後の検査で手直しを命じられたり、開院スケジュールが遅れたりするリスクをゼロに近づけることができます。

医療特有の動線設計とコストの最適化

医療専門のパートナーは、ドクターの診察スタイルやスタッフの動き、患者さんのプライバシーに配慮した「無駄のない設計」を熟知しています。

たとえば、法律で求められる不燃材料の使用や床の補強が必要な範囲を正確に判断できるため、過剰な工事を抑えてコストを最適化することが可能です。また、電子カルテの配線やレントゲン室の防護、大型機器の搬入経路など、後からの修正が難しいポイントをあらかじめ設計に盛り込み、スムーズな診療環境を実現します。

まとめ

診療所の建築やリフォームを成功させるためには、医療法だけでなく建築基準法や消防法といった、多岐にわたる法規制への理解が欠かせません。

特に「特殊建築物」としての厳しい基準や、2025年4月からの改正、さらには地域独自のバリアフリー条例など、物件選びの段階で確認すべきポイントは非常に多くあります。これらを個人で把握し、判断するのは決して簡単ではありません。

まずは、契約しようとしている物件が診療所として適しているのか、無理のないコストで理想の診療環境が作れるのか、プロの視点を入れて確認することから始めてみてください。法律の壁を正しく乗り越えることが、スムーズな開院と、その後の安定したクリニック経営への第一歩となります。

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中小企業診断士
セカンドラボ株式会社 PR Solution Div.
URL:https://note.com/2ndlabo/n/n949eaa3e9d69

北海道大学を卒業後、医療機器の営業として6年間勤務。外科、整形外科、泌尿器科領域を中心に民間・国公立の病院を担当。2020年よりセカンドラボ株式会社に入社。医療福祉施設の課題解決プラットフォーム「2ndLabo」にて各種ITツール、医療機器の導入支援、クリニック開業支援に従事。

2ndLaboのサービスを通じて、これまで1,000件を超えるサービス導入支援・開業支援を担当。得意分野は、電子カルテ、介護ソフト、各種医療機器。

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