離床センサーは、患者さま(利用者)を転倒・転落から守り、スタッフの業務効率化にも役立つ装置です。センサーパッドを設置するタイプや赤外線センサーが検知するタイプなど、さまざまな種類があります。「見守りシステムの導入は費用がかかるけれど、離床センサーなら導入を考えてもよいかな?」とお考えの方もいることでしょう。
この記事では、離床センサーの目的から効果、種類、使い方まで、基礎から解説します。メーカーの製品も紹介しているので、関心のある分野を読んでいただけたらと思います。
離床センサーは、病院や介護施設の患者さま(利用者)がベッドから転落したり徘徊したりするのを事前に検知するための装置です。病室や居室のベッド近くに設置されることが一般的で、足元に敷いて重さを検知する「マットタイプ」や、ベッドに敷いて利用者が起き上がったことを検知する「ベッドセンサータイプ」など、複数の種類が存在します。
電波環境協議会が2020年に調査した結果によると、対象施設のうち全体の48.5%で離床センサーが導入されていることがわかりました。 多くの場合、ナースコールシステムと離床センサーを接続し、詰所にある親機に通知が届く形を採用しています。
出典:2019年度医療機関等における適正な電波利用推進に関する調査の結果
離床センサーを選ぶ際は、センサー設置を検討している対象者の状況を整理することが大切です。なぜなら、対象者の状況によって通知が鳴るべきタイミングが異なるからです。ここでは対象者の状況ごとに、どのようなセンサーがおすすめなのかを紹介します。
患者さま(利用者)の状況ごとによく使われているセンサーの種類は、下記のとおりです。
なお、メーカーによっては、対象者の状況に応じておすすめの種類を示したフローチャートを作成していることがあります。ただし、メーカーが作成するフローチャートに書かれた分類と下記の分類は必ずしも一致するわけではありません。
患者さま(利用者)の状況 | よく使われているセンサーの種類 |
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ベッドから転落・転倒する可能性が高い | ベッドセンサー、タッチセンサー |
徘徊の可能性が高い | センサーマット(マットセンサー)、赤外線センサー |
体動の回数が多く、動きを予測しづらい | センサーマット、赤外線センサー |
ナースコールを使わずに動く | 車いすセンサー |
上記の表のように、患者さま(利用者)の状況は、いろいろなケースが考えられます。それぞれの状況を見ていきましょう。
ベッドセンサー、タッチセンサーをオススメします。対象者が横になっているベッドの近くにあるセンサーが多く、軽い寝返りをうったり、ベッドわきの柵に手が触れたりした段階で通知が鳴ります。転落、転倒でけがしてしまう前に、職員が居室にかけつけることができます。
自ら歩くことができる利用者は、徘徊してしまう恐れがあります。そんな時は、既に述べたセンサーのほかに、ベッドの昇降箇所に設置するベッドサイドセンサーが有効です。ベッドから転落するリスクは少ないものの、元気であるがゆえに、みずから立ち上がってしまう利用者の動きに対応できます。
既に述べたセンサーの他、目に見えない赤外線を使って動きを検知する方法も有効です。センサーマットなどと異なり、センサーの存在が利用者から分かりづらい点もメリットのひとつです。
居室や病室の外で過ごす時間が長い利用者を対象に、ベッド付近に取りつけないタイプの離床センサーもあります。具体的には、車椅子センサーやトイレコールなどがあります。
「車いすセンサー」は、車いすから立つと通知が鳴るタイプです。本タイプは、車いすから転倒する危険性がある対象者に向いています。
離床センサーの種類については離床センサー7種類の特徴を解説|利用者の状態や予算にあわせた選び方でも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
離床センサー10製品を、メーカー別に紹介します。企業の特徴や製品の概要をお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
ホトロングループは、自動ドアセンサー事業で培ったノウハウをもとに、1990年代から離床センサーも扱っています。
同社の「うーご君」は、患者さまにクリップを付けるだけの離床センサーです。ナースコール連動型ワイヤレスセットとの組み合わせで、ワイヤレス化もできます。
ベッドの横や病室の出入り口に設置する「たためる薄型マッ太君」は、有線セットと無線セットを選べるセンサーマットです。
車いす用体動コールの「あゆみちゃん」は、患者さまが車いすから立ち上がるとメロディーでお知らせします。ナースコールがない部屋で、簡易ナースコールとして活用が可能です。
「置くだけポール君」は、非接触型の赤外線離床センサーです。ベッド周りやトイレなどに設置することで、患者さまがベッドから降りる際やトイレで立ち上がる際に検出できます。
株式会社ホトロンの比較ポイント
体動コール うーご君
価格 | センサー本体:¥11,400(税別) / セット標準価格:¥73,800(税別) |
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種類 | クリップセンサー |
サイズ | W50 × H78.5 × D32mm |
センサーマット たためる薄型マッ太君
価格 | センサー本体:¥66,000(税別) / セット標準価格:¥126,000(税別) |
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種類 | センサーマット |
サイズ | センサー部 W900 × H600 × D5mm / ケーブル 10cm |
置くだけポール君
価格 | センサー本体:¥59,800(税別) / セット標準価格:¥94,800(税別) |
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種類 | 赤外線センサー |
サイズ | W180 × H760 × D180mm |
車椅子用体動コール あゆみちゃん
価格 | センサー本体:¥46,400(税別) / セット標準価格:¥48,800(税別) |
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種類 | 車いすセンサー |
サイズ | W76 × H120 × D37.5mm |
積水化学工業株式会社は、住宅カンパニーや環境・ライフラインカンパニー、メディカル事業などあらゆる産業・分野を手広く手がけている企業です。
同社の「アンシエル(ANSIEL)」は、独自開発の高精度センサーが患者さまの起き上がりと同時に通知を鳴らす離床センサー(ベッドセンサー)です。離床検知とWi-Fi環境があれば、心拍・呼吸・在床状況の一括把握ができます。通知時間は、体動・起動・起上と3段階から選択することが可能です。患者さまの状態をPC・スマートフォンでリアルタイムに確認でき、スタッフの見守り効率化の実現をサポートします。
積水化学工業株式会社の比較ポイント
離床センサー・起き上がりセンサー アンシエル(ANSIEL)
価格 | ー |
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種類 | ベッドセンサー |
サイズ | W230 × H800 × D1mm |
ハカルプラス株式会社は、創業100年を超える老舗企業です。産業用計量システムやメディカルケア機器のシステム開発・製造などを手がけています。
同社の「起き上がりセンサー」は、患者さまがベッドから起き上がると通知が鳴るマットタイプのセンサーです。独自の検知方法により、寝返りでの誤検知を抑えることに成功しました。ケーブルの断線や脱落を知らせてくれる「アラーム機能」も搭載されています。受信方法は3種類で、ペンダントや据置型の親機だけでなく、ナースコールとも連動させることが可能です。患者さまの起き上がり検知から通報までは、わずか1秒です。なお、同製品は介護保険の適用製品となっています。
ハカルプラス株式会社の比較ポイント
起き上がりセンサー
価格 | センサー本体 ¥24,000(税別) / ライトシリーズセット ¥104,000(税別) |
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種類 | ベッドセンサー |
サイズ | W810 × H240 × D2~11mm |
株式会社テクノスジャパンは、福祉機器やマイコン応用機器の開発・販売を手がけている企業です。離床センサーにおいては、ナースコールと連動できる製品や精神科病棟向けの製品など、さまざまな種類を提供しています。
たとえば同社の「スマット」は、対象者を識別できる離床センサーです。対象となる患者さまが踏んだら通知が鳴るものの、スタッフが踏んでも通知は鳴りません。また、同社からは「ポーズリモコン」が別売りされており、同製品を購入すると離れた場所からでもリモコンでセンサーを一時停止できるため、ベッド周りでの作業時に便利です。
株式会社テクノスジャパンの比較ポイント
スマット・コードレス
価格 | [型式]SHC-R:¥121,000(税込) |
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種類 | センサーマット |
サイズ | ー |
株式会社バイオシルバーは、2010年の設立以来、センサーの開発・製造を手がけてきた企業です。
同社の「bionext(バイオネクスト)」は、生体センサーを使用した離床センサーです。患者さまがベッドから起き上がると、ナースコールや専用受信機にお知らせが届きます。受信機タイプでは、中継機を使用することにより広範囲での見守りが可能です。同製品は心拍・呼吸・圧力で離着床を感知し、従来品より誤報を軽減することに成功しました。センサーマットは、マットレスの下に設置します。
株式会社バイオシルバーの比較ポイント
離床センサーbio next(バイオネクスト)
希望小売価格 | ¥128,000 |
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種類 | ベッドセンサー |
サイズ | W800×H10~30×D140(mm) |
株式会社プラッツは、医療・介護用ベッドやマットレスなどベッド周辺機器の製造販売を手がけている企業です。1992年の創業以降ベッドの製造が中心でしたが、2016年に「徘徊感知器・離床センサー」の販売を開始しました。
同製品は、マットレスの下に設置する非接触タイプの離床センサーです。「AC電源タイプ」と「DC電源タイプ」があります。DC電源タイプでは、ベッドの電力を使用するため、別のコンセントや電池が不要です。ベッド周りの配線を削減することにもつながり、転倒リスクを減らせます。オプションの人感センサーを活用すると、Wセンサーで素早く確実な離床予測が可能です。センサーマットでの入床・離床の判定は、呼吸による振動や荷重を感知する仕組みになっています。
株式会社プラッツの比較ポイント
離床センサー
価格 | 人感センサー付離床センサー(1×9タイプ)¥112,000(税別) 離床センサー(ナースコール連動タイプ)+有線分岐ボックスセット¥82,000(税別) |
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種類 | ベッドセンサー |
サイズ | ー |
シーネホンス株式会社は、医療施設・介護施設・在宅介護向けベッドのメーカーとして活躍している企業です。今では療養ベッドのみならず医療福祉用具を開発研究しており、離床センサーも販売しています。
同社の見守り介護ロボット「安心ひつじα」は、遠隔地にお住まいの家族も患者さまの状態をスマートフォンやPCから確認できます。睡眠中の体動、心拍、呼吸、離床の4つを一度に計測できるため、患者さまの状態悪化や変化に対して迅速に対応することが可能です。患者さまの状態を見える化できる本製品の活用は、介護スタッフの負担軽減にもつながります。
シーホネンス株式会社の比較ポイント
安心ひつじα
価格 | オープン価格 |
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種類 | ベッドセンサー |
サイズ | W800 × H17 × D150mm |
株式会社エクセルエンジニアリングは、創業当初、通信機器の開発製造・販売を会社の基本としていた企業です。2000年に日本での介護保険制度が始まったことをきっかけに、介護機器分野に軸足を移しました。
たとえば同社の「かんたん」は、赤外線ダブルセンサーで患者さまの動作を感知します。ベッドボード上に設置すれば、非接触で患者さまをモニタリングできる見守りセンサーです。「ひとセンサー(赤外線エリアセンサー)」は患者さまの温度変化を、「距離センサー(反射型赤外線ビームセンサー)」は患者さまの動きを感知します。2種類のセンサーの組み合わせにより検知ミスを防ぎ、効率的な介護を実現することが可能です。具体的には、患者さまの起床・ズリ落ち・不在・離床を感知します。
株式会社エクセルエンジニアリングの比較ポイント
赤外線センサー「かんたん」
価格 |
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種類 | ベッドセンサー・赤外線センサー |
サイズ | W155 x H110 x D40mm |
トクソー技研株式会社は、医療機器事業や介護保険事業を手がけている企業です。介護機器事業も展開しており、離床センサーやコール通報機器などを販売しています。
同社の「おきナールTW2」は、マットレスの上下に置くだけで簡単にセットできます。患者さまが起き上がると通知が鳴る、いわゆるセンサーマットタイプです。「1回出力」「断続出力」でコール出力の回数を切り替えたり、0〜9秒の間で通報するまでの時間を設定したりできます。
徘徊感知機器離床センサーの「ふむナールLW」も、ベッドの横に置くだけで簡単にセットできます。折り畳み可能で、持ち運びや収納に便利な構造です。また防水構造であるため、水がかかっても安心です。
トクソー技研株式会社の比較ポイント
おきナールTW2
価格 | ¥50,000(税別) |
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種類 | ベッドセンサー |
サイズ | W220 × H800 × D5mm |
ふむナールLW
価格 | ¥35,000(税別) |
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種類 | センサーマット |
サイズ | W500 × H900 × D5mm |
トーテックアメニティ株式会社は、1971年の創業以来、東海圏IT企業の先駆者として、ソリューションサービスを提供しています。現在は、ITソリューション事業とエンジニアリングソリューション事業を手がけている企業です。
同社の離床センサーは、ベッド上の荷重分布を測定する方式により「離床につながる先行動作」の検出とその通知タイミングの患者さまごとの設定を実現しました。同製品の通知タイミングは、以下のとおりです。
通知はPCやタブレット、スマートフォンアプリで受信できます。
見守りライフについてはトーテックアメニティの「見守りライフ」の評判は?価格や特徴を解説でも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
トーテックアメニティ株式会社の比較ポイント
見守りライフ
価格 | ー |
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種類 | ベッドセンサー |
サイズ | キャスター用:245×160×42(mm) 固定脚用:245×160×42(mm) |
離床センサーの価格は、メーカーや製品ごとにさまざまです。医療機関や介護施設に導入する場合、1つだけ購入するわけではないでしょう。また、新設する際は使い方の説明なども必要になります。
参考までに、価格比較サイトの「価格.com」で離床センサーを検索すると、これまで紹介してきた各種類のセンサーが表示されます。メーカーや種類ごとに差はあるものの、2万円〜10万円程度の商品が多いです。
特別養護老人ホームや介護老人保健施設などを対象に、離床センサーの購入時にも活用できる補助金を交付している自治体があります。たとえば千葉県では、令和3年度中に介護ロボットを導入する民間の介護サービス事業者を対象に「千葉県介護ロボット導入支援事業費補助金」の募集をおこないました。本補助金では、見守り機器の導入に伴う通信環境整備の補助として、1事業所あたり150万円が上限額です。
また、離床センサーを開発しているハカルプラス株式会社では、公式サイト内で「平成30年度岩手県介護ロボット導入支援事業費補助金」を活用し、岩手県の施設へ離床センサーを導入した事例を紹介しています。
自治体によっては補助金を交付していることがあります。離床センサーの購入を検討している方は、対象となる自治体へ確認してみましょう。
出典:介護ロボット導入支援事業費補助金の募集について|千葉県
出典:介護ロボット補助金を活用し離床センサーを導入しました。|ハカルプラス株式会社
離床センサーの価格については、「離床センサーの価格を比較|実績十分で安価に導入できるセンサーは?」でも詳しく取り上げています。参考にしてください。
離床センサーを導入する効果は、大きく分けて以下の2点です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
離床センサーは、各種学会などでも「患者さま(利用者)がベッドから転落したり転倒したりすることの予防に効果的である」と報告されています。たとえば筋力低下した患者さまのベッドに「ベッドセンサー」を敷き、離床センサーが反応してすぐ病室に向かえば、患者さまがベッドから降りる前に対応が可能です。また、もし転倒・転落が発生してしまった場合でも、離床センサーが通知を届けることで早期発見につながります。
出典:離床センサー使用と看護師のストレスおよび看護管理・看護業務に関わる職務満足度との関連
2つ目は、スタッフの業務効率化です。利用者の行動に対応できるよう離床センサーを設置しておくことで、スタッフが巡回する回数を減らせます。また、センサーが捉えた情報をPCやタブレットでモニタリングすることにより、部屋に行かなくても利用者の状態を把握することが可能です。高齢化や人材不足が叫ばれるなか、介護現場におけるICT技術の活用は必須といえます。
離床センサーは、利用者を転倒・転落から守り、スタッフの業務効率化にも役立つ便利な装置です。一方で、少しの動きで通知を鳴らす離床センサーには「身体拘束行為にあたるのではないか」という議論がつきまといます。離床センサーと倫理についての正解はないものの、事業者として注意すべき点を確認しておきましょう。
平成12年の介護保険制度の施行時から「生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、入所者の行動を制限する行為を行ってはならない」とされています。ひとつの捉え方として「離床センサーの利用は『行動を制限』に該当するのではないか」という議論があることも、事業者は認識しておくとよいでしょう。
身体抑制に関しては日本看護協会も見解を示しており、同協会の看護実践情報「安全確保と倫理」には、以下の内容が記されています。
ただし、事業者が「楽をしたい」という目的だけで患者さま(利用者)に離床センサーを使用した場合、身体拘束行為に当たると指摘されても仕方ないので注意が必要です。
この記事では、離床センサーの概要や選び方、具体的メーカーなどを解説しました。離床センサーは、患者さまの転倒・転落を予防するだけでなく、スタッフの業務効率化にも役立つ装置です。マットレスの下に置くだけで設置できる簡易的なタイプや、呼吸数・心拍数も正確に検知できる高精度なタイプなど、さまざまな種類が存在します。離床センサーを選ぶ際は患者さまの状況を十分に整理して、ふさわしいタイプを選択することが重要です。本記事の内容も参考にして、自施設や患者さまに最適な離床センサーを選んでください。