事務長制導入バイブル前編:クリニック事務長の役割や仕事内容を解説

投稿日 2021.11.16 / 更新日 2022.01.04
投稿者:渡邉 志明

クリニックの院長として医療・経営に尽力されている先生は、経営・管理業務の負担を減らしたいとお考えではないでしょうか?

クリニックの院長は、通常の医師としての業務に加えて、さまざまな事務作業の負担が多く、勤務医時代よりもさらに忙しくされている方が多いです。
クリニック開業当初は、経費負担も考えて、多くの先生がご自身で事務作業を担うことが多いでしょう。しかし、クリニックの経営が安定したあとは、事務作業の負担を減らして、開業当初に目指した理想の医師像の追求や、理想の医療の提供に集中したい、という思いが湧いてくるはずです。

その解決策のひとつが、事務長制の導入です。

この記事では、以下のことを説明します。


事務長の役割を学び、ご自身のクリニックに必要な人材をイメージすることで、クリニックに適した事務長を採用しましょう。


事務長の重要性

多くのクリニックでは、事務長と呼ばれる人物を定めず、院長が経営・人事などの業務を担っています。人件費等のコスト負担や、仕事内容について詳しく把握できていないため、事務長を導入していないというケースが多いようです。しかし、事務長制度を導入することで、クリニックが抱えるトラブルの多くは、解決されます。


院長の負担は大きい

医師は、患者さんに対して医療技術を提供するという点においてはプロフェッショナルです。しかし開業医となると医療提供に加えて、経営や人事などについてもご自身で対応しなければなりません。

開業医となった場合、物品の購入ひとつを取っても決定が必要です。事務機器や消耗品であれば、事務員さんや別のスタッフに頼むことも可能ですが、人事や経営に関わることはどうでしょうか。スタッフ間の人間関係、クレーム対応、勤怠管理などに苦戦することで、理想の医療を実現するための開業だったはずが、医療以外の部分にばかり気を取られることに。心労が重なった結果、診療に影響が出てしまったというケースもあります。


事務長制の導入は院長の負担を軽減する

院長の負担となっている業務をすべて引き受けてサポートしてくれる事務長がいたら、院長は医療に集中することが可能です。長年の経験や技術にもとづいて、勤務医であるときにはなしえなかった、理想の医療を目指せるでしょう。どれだけ負担が軽減されるかはクリニックによって異なりますが、院長の負担が1日あたり数時間減るのであれば、事務長の採用を検討する価値があります。


事務長制の導入で、経営にさらなるメリットも

医療に関連する法令は多岐にわたり、診療報酬の算定条件も複雑で理解しにくいため、適切な判断力が必要です。また、国の財政悪化による診療報酬の抑制策により、効率的な経営・管理をしなければクリニックの経営が難しくなりました。

一方で、医療の高度化・専門化、患者さんや社会が求めるニーズの多様化に伴い、求められる医療的な配慮は増え続けています。

こういった背景のなか、院長が担当している業務の経営面を事務長が担当できれば、事業を拡大・加速させ、経営を安定させることも可能でしょう。


事務長の役割

事務長の役割は、院長が望んでいることを、望ましい方向に進めるために動くことだと言えます。言い換えれば、クリニックの数だけ事務長の役割があるということかもしれません。


経営戦略のプロとして

経営判断をくだすのは院長ですが、判断のための情報提供や、経営判断の進捗状況の計画・実行・管理・調整をおこなうのが事務長です。

時にはクリニックの成長や存続のために、院長に代わってシビアな決断をスタッフに迫ったり、院長に対しても誤った方向に進むことを食い止めたりといった、客観的な役割が求められます。


クリニック内の調整役として

事務長は第三者的な立場として、院長とスタッフの間の橋渡し的な役割も必要です。労使の関係になってしまいがちな院長とスタッフの関係ですが、スタッフの不満や意見、院長の希望、それぞれの思いをくみ取り自分の言葉で伝えてくれる存在として、事務長が果たす役割は大きいでしょう。


情報の収集・発信役として

院長の情報発信力を強化することも事務長の重要な役割です。また、外部機関や自治体、保健所だけでなく、求職者やメディアに対しても、PRや広報などの情報を発信する役割を担うことが可能です。


事務長の具体的な仕事内容

事務長の仕事内容

クリニックで事務長が担うべき仕事には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

病院では、資材課・広報・人事課といった部門に業務が分かれていますが、クリニックでは、場合によってすべてが事務長の担当です。具体例を以下に示します。


人事・労務

面接・採用手続き、入退職の手続き、勤怠管理など

経理・財務

日々の処理から決算、予算や資金管理、補助金の手続きなど

広報・マーケティング

チラシ・看板の検討、webサイトの作成、SNSへの情報発信など

総務

院長のスケジュール管理、施設管理、物品管理全般など


あくまで事務長の業務は、院長の業務の負担を軽くするのが目的です。そのため、必ずしもすべての業務を担う必要はなく、院長やスタッフと分担することも可能です。

効率的に業務をおこなうためにも、どの業務は事務長がおこない、どの業務は他のスタッフがおこなうかを明確にしておくことが必要でしょう。


事務長制導入にあたり気を付けるべきこと

事務長を導入するにあたっての注意点はあるのでしょうか。

スタッフの目には、クリニックに直接収入をもたらさない事務長は、非生産的に映る場合もあります。そうなると、現場のスタッフから事務長が軽視されてしまうというケースも。こうした背景から、スタッフ達に事務長の存在感を示すことが重要であるといわれています。ここでは、2つの留意すべき点を紹介します。


①事務長の業務範囲を明確にする

スタッフ間に事務長の存在感を示すためには、事務長の業務範囲を明確にすることが重要です。「この仕事に関しては事務長」「この相談は事務長」というように仕事の内容を明確にし、決定権を事務長にゆだねることで、事務長に相談すれば物事が解決するという空気が生まれ、信頼につながります。


②スタッフが事務長を軽視しないように印象付けをする

また、事務長が実務面のトップであり、尊重されるべき人材であるという姿勢を、院長自らが示す必要があるでしょう。対等な立場で会話する、みんなの前で注意せず、伝えたいことは1対1の場で伝えるなど、事務長が力を発揮できる環境づくりも重要です。


どういった人物が事務長になるのか

事務長を募集・選定するにあたって、院長はどのような人物を採用すべきなのでしょうか。事務長の業務に必要なスキルや資格などに関しても解説します。


事務長に求められる人物像

かつては、銀行などの金融機関で定年まで勤め上げた人が事務長になるケースが多く、財務・会計の専門家が任命されるイメージがありました。

クリニックを取り巻く環境は変化し、改定された診療報酬の内容や地域のニーズに応じて、病院経営の舵取りを迅速かつ大きくおこなわなければ、クリニックは生き残れない時代になりました。そのため今では、変化に柔軟に対応し、前向きにクリニックの経営を考えられる、「軍師」のような人物が必要です。


事務長に求められる能力

医師である院長が医療に専念するためには、医療以外のすべてのことを自分の仕事だと考えなければなりません。現場の管理から運営までを統括し、問題を素早く把握して解決できることが重要です。

事務長に求められる能力として、以下のようなものがあげられます。

  • 幅広い知識
  • 医療事務や病院経営の専門知識
  • 企画力
  • 組織運営力
  • 院長の代理としてのコミュニケーション能力
  • エリアのマーケティング
  • 競合他社の調査・分析
  • 効果的な集客戦略の組み立て など

医療の知識以外にも付加的な知識を持った、多様な人材が必要です。


特別な資格はいらないことが多い

事務長に必要な資格は存在しません。経理・労務・診療報酬に精通していることに越したことはありませんが、資格がなくても事務長としての勤務が可能です。事務長のかわりに、奥さまがドクターをサポートしているケースや、スタッフ内に「クリニックリーダー」を定めているケースも多いでしょう。

一方で、医療業界に対してまったくの素人というのは考えものです。診療報酬の仕組みや保険制度についての知識は経営戦略を考える際に必要です。他にも、違う業種や他院と情報交換する場合にも知識が求められます。

積極的に知識を吸収していくような、向上心を持った方であれば問題ないでしょう。


他業種からの採用も選択肢の一つ

クリニック内の優秀で、熱意のある人材を、事務長に抜擢するのがベストです。しかし、どのクリニックもそのような人材に恵まれているわけではありません。

そこで、製薬会社や医療機器メーカーで「もっと医療の現場で役に立ちたい」と考えている人や、一般企業の財務・経理・総務部門で教育を受けてきた人など、高いモチベーションで新しい視点やアイデアを持ち込むことが可能な異業種の優秀な人材を募集し、まずは事務長候補として採用して育てていくという方法もあります。


非常勤での採用を考えてみる

求める人物像と一致する人材がなかなか見つからなかったり、人件費が気になったりする場合は、非常勤という勤務体制から始めるのも選択肢です。仕事量との兼ね合いですが、経営や労務など、院長が負担に思う作業を中心に業務を受けもってもらう契約です。

非常勤の事務長ならば人件費の負担を最小限に抑えられるほか、事務長制の導入がクリニックに向いているかどうか、試すことが可能です。


事務長は院長のパートナー

事務長は院長のパートナー

この記事は、事務長制度の導入に関して解説しました。

事務長制を導入する目的は、”より良いクリニック運営の実現”です。どのようなクリニックを目指していきたいか、どのような医療を提供していきたいのか、まずはご自身の理念やクリニックの目標を確認することが重要です。

この記事を参考に、院長の考えに共感し、二人三脚でクリニックを盛り上げてくれるような事務長を探してみましょう。



都圏の病院

泌尿器科専門医、性機能専門医、性感染症専門医、医学博士。15年以上にわたる大学・基幹病院での臨床・研究経験を生かし、一般向けのわかりやすい医療記事の執筆が得意。趣味が高じてファイナンシャルプランナー2級・福祉住環境コーディネーター3級を取得。医師向けに家計アドバイスも行っており、医師を対象とした情報発信にも自信あり。子育て奮闘中。

薬剤師として日本、シンガポールで従事。国際医療ボランティアとしてインドやボツワナ、タイに派遣される。現在は医療ライターとして執筆、コンテンツディレクター、編集長、ライティング講師、Webデザイナーとして活動。


総合病院

呼吸器専門医、指導医、総合内科専門医、研修医指導医、医学博士。総合病院勤務医として臨床または研究に従事し、若手指導にあたりながら、これまで培った経験を生かして医師ライターとしても大手医療メディアなどで多数の記事作成を行っている。また専門知識を生かして監修や編集、Webディレクターとしても活動している。
最近は予防医学、デジタルヘルス、遠隔医療、AI、美容、健康、睡眠などに関心を広げデジタルヘルス企業に関する記事の連載も行っている。
正しい医療知識の普及や啓蒙のために日本語又は英語で発信を行いながら様々な企業との連携やコンサルティングも経験し、幅広い分野での貢献に努めている。
複数の学会に所属し、論文執筆、国内・国際学会発表による研鑽を積んでいる。