入所施設や病院では、備えを万全にしていても一定の割合で事故は発生します。中でも施設内での入所者の転倒やベッドからの転落は、最も発生頻度が高い事故の一つです。少しでも事故の発生を未然に防ごうと、近年では離床や立ち上がりなどの動きを検知できるセンサーを導入する施設が増えています。
スミリンフィルケア株式会社が運営する有料老人ホーム「グランフォレスト目白」もそのひとつ。同社は積水化学工業株式会社が2020年5月に発売した介護施設向け見守りセンサー「アンシエル」を導入しています。
同社がアンシエルを選んだ理由や、ここまで使用して感じた変化を、営業本部長の向井昭一さんとホーム長の堀内友貴さんに伺いました。
ベッドのマット下に設置するタイプの見守りセンサー。内蔵された高精度センサーが利用者の動きを検知・解析し、介護者に平均5秒程度で結果を通知する。これにより、夜間の1人歩きや立ち上がり時のリスクを軽減できる。Wi-Fi環境下であれば、呼吸や心拍も確認・記録できる。専用のスマートフォンアプリ、パソコンアプリで外部機器と連携する。
——グランフォレスト目白の施設概要を教えてください。
堀内さん
30室の個室を備える介護付き有料老人ホームです。ユニット型の小規模施設で、ご自宅のように穏やかに過ごしていただくことをコンセプトにしています。当施設ではICTを導入して業務を効率化し、職員がご利用者様と接する時間を多く確保できるように工夫しています。
——グランフォレスト目白の魅力はどんなところでしょうか。
堀内さん
住友林業グループならではの、木の温もりを大切にしています。ほっと落ち着きくつろげるような、温かみを感じていただきたいとの思いから、木をふんだんに使った内装になっています。
利用者様やそのご家族からはスタッフが優しい、あたたかいとのお褒めのお言葉をいただいています。「家族のように親身になってもらえる」と言っていただけることが多いですね。
※アンシエル導入について話す堀内さん(左)と向井さん
——多くの施設や病院で離床センサーが重宝されています。その点は、どう考えていますか。
向井さん
医療や介護の現場では、離床センサーは必要不可欠だと思っています。認知症のご利用者様は、自分で歩けると思って、転倒してしまう。かといってすべての患者様をマンツーマンで見守ることはできません。
昔からベッドの手前に設置するマットセンサーは存在していました。センサーにつまずいてしまう、介護者への通知に時間がかかるといった課題を克服しようと、様々なメーカーが、多機能のセンサーを発表しています。
——もともとグランフォレスト目白では離床センサーを使用していましたか?
堀内さん
アンシエル導入前は別のセンサーを使用していました。そのセンサーは多機能で便利ではあったのですが、インターフェースや操作が複雑で、理解に時間がかかってしまいました。
当施設ではさまざまな年齢のスタッフが働いています。パッと見て理解できないシステムを難しく感じてしまう職員も一定数いました。ひとつのシステムに多くの機能を盛り込むのは良いですが、スタッフが使いこなせる製品が好ましいです。
——アンシエルを選んだ理由を教えてください。
向井さん
アンシエルを知ったきっかけは取引先からの紹介でした。導入を決定づけたのは、機能のシンプルさと使いやすさです。先ほどお話ししたように、スタッフ全員が簡単に使えるツールが求められていました。アンシエルはわかりやすい。そして積水化学はセンサーを自社開発しているだけあって、離床や体動に対する反応速度も抜群でした。
——アンシエルの設置作業は、大がかりなものでしたか?
堀内さん
見ていただくとわかるのですが、非常に薄いんです。ファイルの表紙ほどの厚さで、取り外しも非常に簡単。全30床への導入も、驚くほど簡単でした。Wi-Fi環境と電源さえあれば、すぐに設置できます。
※堀内さんも驚くシートの厚みは、わずか1mm(公式HPより)
——アンシエルはアプリで利用者の記録を管理します。どなたでも使いやすいインターフェースだと感じますか?
堀内さん
分かりやすく、使い方の説明はほとんど必要ありません。アンシエルはご利用者様が起き上がったり、体動が続いたりしたときにアラートが鳴る仕組みです。スタッフが持っているiPhoneのアプリが通知を受け取ります。
アプリには利用者様の一覧が表示されており、在床状況を一目で確認できます。導入時にスタッフから「わかりにくい」といった声もありませんでした。
——アンシエルを導入して、スタッフ様の業務負担に変化はありましたか?
堀内さん
起き上がりや離床といった事故につながるリスクの高い行動をアプリで把握でき、スタッフの精神的ストレスが大きく減少しました。アプリで利用者様の行動履歴もチェックできているのも便利です。
また、入床・体動・起き始め・起き上がりの4つの動作の中から、アプリに通知する動作を自由に選択することができます。当施設では起き上がりの際にアラートが鳴る仕組みを採用しました。利用者様が寝返りを打っただけでは通知を鳴らさない設定にしており、スタッフが通知に翻弄されることもありません。
以前導入していたシステムでは、多機能であるが故に、一部分が故障すると各所に影響が出てしまうといった使いにくさがありました。アンシエルはシンプルだからこそ、そういった不具合がなく安心して使用できます。
——アラートが鳴った際、対応するスタッフがバッティングすることはありますか?
堀内さん
まったくありません。アンシエルのアプリには、通知が鳴った利用者に対しスタッフが対応したかどうかをチェックする項目があります。対応したスタッフがアプリにチェックを入れれば、他のスタッフもどの利用者に対応したかを確認することができます。
アンシエルとは別で、スタッフはインカムを着用しているため、アラートが鳴った瞬間にすべてのスタッフが駆けつけるといった非効率な動作も発生しません。
向井さん
Wi-Fi環境下でアンシエルを設置すると、離床や起き上がりといった挙動だけでなく、心拍や呼吸といった情報も確認できます。スタッフルームにいながらご利用者様の様子を確認できるため、夜間巡回の回数が減少しました。スタッフの精神的、肉体的な負担が軽減したと思います。
※利用者の在床状況が一覧できるアプリの画面
——アンシエル導入時、運用時のサポートはいかがですか?
向井さん
導入前から今に至るまで、担当の谷さんが大変熱心に対応してくださっているので、安心して任せられています。
どんなシステムやツールもそうですが、導入してからしばらくはトラブルがつきものです。そういったときもその都度対応していただいています。アンシエル自体の魅力はもちろんですが、谷さんの熱心な姿にも感心しています。
機能面でのアップデートも予定されているとのことで、今後も期待したいですね。
——アンシエルへの要望はありますか?
堀内さん
コンセントに接続するプラグ(コード)の長さを選べればよいなと思っています。今の長さでは、ベッドの近くにコンセントがない場合にアンシエルを利用することができません。一方でプラグが長すぎると、利用者様の足がコードに絡まってしまう恐れがあります。利用者様の安全と、施設側の使いやすさの両側面から、改良を重ねてくれると思います。
※取材に対応いただいた(左から)向井さん、積水化学工業の営業担当・谷直樹さん、堀内さん