エレベーターの法定点検は、年に1回と定められています。エレベーター内に検査済みのステッカーが貼られているのは、法定点検が実施された証です。では、実際にどのような内容の点検が行われているのでしょうか。
今回は、エレベーターに必要な点検の種類について解説します。また、法定点検と保守点検の違いについても触れていきますので、参考にしていただければ幸いです。
エレベーターに必要な点検は「定期検査報告」と「保守点検」の2つに分けられます。また、1トン以上のエレベーターの場合は、別途「性能検査・定期自主検査」の義務が生じるのです。
定期検査報告は、建築基準法第12条3項によって定められた検査制度になります。性能検査を受けるエレベーターと、ホームエレベーターを除く全てのエレベーターが対象です。点検結果は、自治体で指定されている特定行政庁に報告する義務があります。
保守点検については、定期検査報告のように明確な実施義務はありません。しかし、建築物の所有者は建築設備を常時適法な状態に維持するよう建築基準法第8条で定められています。エレベーターは建築設備にあたりますので、点検が必要になるのです。そのため、国土交通省では昇降機に対する指針を定めており、使用頻度に応じた定期検査を推奨しています。
エレベーターに必要な点検は、大きく分けて2種類あると説明してきました。ここからはその中のひとつである定期検査報告(法定点検)について、さらに詳しく解説していきます。
定期検査報告は、前述した通り以下に該当するエレベーター以外は全て対象となります。
ちなみにエレベーター以外でも、これらの昇降機は定期検査報告の対象に含まれています。
定期検査報告は非常に大切な検査なので、実施できる人は限られています。検査できるのは、以下の資格を持つ人のみです。
どちらも取得までに時間を要する資格であるため、管理者自身が保持しているケースは少ないといえます。そのため、点検時には有資格者がいる専門業者に依頼するケースがほとんどでしょう。専門業者に依頼すれば、検査後の報告まで行ってくれます。
定期検査報告は、法律で定められており実施義務がある作業です。検査や報告は専門業者に依頼すれば行ってくれますが、義務を負うべき人間はあくまでも所有者になります。検査報告を怠れば、所有者は罰則を受けなければなりません。建物設備を安全に運用させるためにも、点検時期をしっかりチェックしておきましょう。
定期検査報告は、建築基準法第12条3項によって義務付けられています。以下は、建築基準法の一部を抜粋しています。
出典:建築基準法
なお、この法律には定期検査報告を守らなかった場合の罰則も定められています。以下は、第101条の内容です。
出典:建築基準法
内容からも分かるように検査や報告を怠ったり虚偽報告をした場合、100万円以下の罰金が科せられます。それほど重要な点検なので、建物の管理者は必ず定期検査報告を実施しましょう。
前述した建築基準法の第12条3項には「定期に」という文言で表現されています。具体的な頻度については対象物により異なりますが、エレベーターを含む昇降機の場合は次の通りです。
特定行政庁とは、建築主事が置かれている地方自治体とその長のことです。具体的には下記の地域のことを指しています。
具体的な特定行政庁については、以下で確認できます。
検査内容や判断基準については、国土交通省の告示で定められています。点検項目は非常に細かく多岐にわたっているのです。以下は、その中でも主な検査次項になります。
検査方法も項目ごとに定められており「目視・触診・聴診・測定・機器の動作確認」などです。全ての検査方法については、以下のページに記載されています。
出典:昇降機の定期検査報告における検査及び定期点検における点検の項目、事項、方法及び結果の判定基準並びに検査結果表を定める件
東芝エレベーターや三菱エレベーターなど、大手メーカーも定期検査技術情報を公開しています。
定期検査報告の結果は、「要是正」「要重点点検」「指摘なし」の3種類があります。
結果が「要是正」の場合、修理や部品の交換を行い、すみやかに改善する必要があります。是正を怠った場合、特定行政庁から是正状況の報告聴取や是正命令が行われることがあります。
「要重点点検」と判断された場合、次回の検査で「要是正」となる可能性が高い状態です。日常の保守点検で重点的な点検を行ったうえで、今後要是正となった場合はすみやかに対応する必要があります。
「指摘なし」の場合は良好な状態です。上記のような指摘があった場合は、保守点検業者へ相談しましょう。
上記で定められた定期検査を実施した後は、結果を特定行政庁に報告します。自身が管理している建物がある特定行政庁については、以下で確認可能です。
報告を怠った場合、100万円以下の罰金が課せられる恐れがあるので注意が必要です。検査後の報告書類の作成や提出については検査業者が代行してくれるので、忘れず依頼しましょう。
ここまでエレベーターの法定点検(定期検査報告)について深掘りしてきました。ここからは、保守点検について詳しく解説していきます。保守点検は定期検査報告のように明確な義務はありませんが、非常に大切な点検に位置づけられているのです。
保守点検の頻度については、国土交通省が定める指針の中に記載されています。具体的な内容については次の通りです。
上にもあるように「昇降機の使用頻度に応じて、定期的に」行うことが推奨されています。これだけでは具体的な頻度は分かりませんが、おおむね月に1回程度実施しているケースが多いようです。その理由は、国土交通省が出した指針の前に普及していたガイドラインの影響といえるでしょう。旧ガイドラインは、一般財団法人日本建築設備・昇降機センターにより策定されていました。その中に、おおむね1月以内ごとに点検や必要に応じた整備を行うよう記載されているのです。
現在は実地点検ではなく、コンピューターを利用して遠隔点検を行う業者も出てきました。遠隔点検は、実地点検に比べて安価での実施が可能です。そのため、実地点検と遠隔点検を組み合わせることで費用を抑える管理者も増えています。
エレベーターの保守費用は業者の種類によって異なります。種類としては大きく分けると「メーカー系」「独立系」の2つです。以下でそれぞれ解説していきます。
独立系とは、エレベーターの5大メーカーの系列に属していない点検業者のことです。点検内容としては、独立系・メーカー系問わずPOG契約とフルメンテナンス契約が主流となっています。
POGとは、Parts(パーツ)・Oil(オイル)・Grease(グリス)の略です。消耗品の交換やオイルの補給・潤滑油の塗布などを意味します。点検内容や消耗品交換は費用の中に含まれますが、部品の修理・交換が必要な場合は別途費用が必要です。フルメンテナンス契約は、点検費用の中に消耗品交換だけでなく部品の修理代なども含まれています。そのため、POG契約より高額な場合が多いです。ただし、昇降かごや扉などの交換・地震時管制装置などの改造工事は別途料金が発生します。
費用相場としてはフルメンテナンス契約では1台につき月額3万円〜4万円、POG契約では月額2万円〜3万円です。
エレベーターは、三菱・日立・東芝・日本オーチス・フジテックが5大メーカーと呼ばれています。その系列の保守点検業者をメーカー系と呼ぶのです。メーカー系は独立系と比べて高額になります。フルメンテナンス契約では月額4万円〜6万円、POG契約では月額3万円〜5万円程度が1台あたりの相場です。
独立系は、メーカー系と比べると料金を安く済ませられます。しかし、5大メーカー系列の業者ではないため万が一の時に安全が保証されるのか心配になるでしょう。実際、独立系に委託する際には注意すべき点があります。代表的な例を挙げるとすれば、緊急時に現場に到着するまでの時間です。近年独立系業者の営業所は増加していますが、それでもメーカー系よりは劣ります。そのため、エリアによってはメーカー系と比べると倍以上の時間がかかってしまう可能性もあるのです。医療・福祉施設など業種によっては、その時間差が許されない状況が出てくる可能性があります。いざという時のために、緊急時に到着できる時間については必ず確認しておきましょう。
とはいえ、独立系の安心感は年々増しているため、大規模病院やホテル・庁舎などでも広く採用されています。近年事故も発生しておらず、以前よりも独立系に対する抵抗感がない方が増えているのです。反対に、特別仕様はメーカー系でしかできないため、独立系とメーカー系のそれぞれにメリットがあります。不安な場合は、相見積もりをとって比較すると良いでしょう。
ここからは、保守費用を削減する方法について紹介します。
コスト面を重視する場合は、やはり独立系がおすすめです。特に近年では、独立系大手業者の業績はこぞって右肩上がりとなっています。独立系を全て合わせてもシェア率を伸ばしており、以前に比べて抵抗感がない管理者が増えているといえます。
メーカー系に依頼するメリットとしては、対応の早さやサポート力が高い点が挙げられます。メーカー系は全国に拠点を持ち、対応エリアが非常に幅広いです。そのため、万が一の時もすぐに現地まで駆けつけてくれます。また、メーカー系は同グループで製造したエレベーターに対応しているので、部品の調達も早いです。エレベーターが動かなくなることで支障をきたす建物である場合は、メーカー系の点検が最適でしょう。
保守点検においては、POG契約とフルメンテナンス契約のどちらにするのかでも費用は変わってきます。どちらの契約が良いのかを、ケース別に見ていきましょう。
POG契約はフルメンテナンスに比べて費用が安い分、サポート内容を少なく設定しています。築浅物件であれば、修理のリスクも少ないためPOG契約の方ががおすすめです。また、築年数に限らず純粋に費用を抑えたいという場合にも良い方法でしょう。点検の結果修理が発生したとしても、別途業者と交渉していくことも可能です。交渉する時間と手間は必要ですが、結果的に維持管理費を安く済ませられるでしょう。
1棟当たりの利用者数が多く、エレベーターの使用頻度が高い物件におすすめです。修理が必要になる確率も自然と増えるため、結果的にフルメンテナンス契約の方が安く済む場合もあります。管理者が複数ビルを所有しており、管理に手が回らない場合にもフルメンテナンス契約の方が良いでしょう。築古物件は、エレベーターも設置から年数が経っていることが多いです。修理が発生するリスクが高まっているため、フルメンテナンス契約をおすすめします。
積載量1トン以上のエレベーターは定期検査報告の義務はないものの、性能検査を受ける必要があります。ここからは、性能検査・定期自主検査について確認していきましょう。
性能検査の対象は、積載量が1トン以上のエレベーターになります。これについては、労働安全衛生法施行令で定められています。
出典:労働安全衛生法施行令
性能検査と定期自主検査を行える人は、それぞれ以下のように定められています。
性能検査・定期自主検査を行うことができる登録性能検査機関には以下の企業が挙げられます。
出典:登録製造時検査機関、登録性能検査機関、登録個別検定機関及び登録型式検定機関の登録の告示|安全衛生情報センター
各事務所や所在地については参考サイトに記載されていますので、ご確認ください。
性能検査については、労働安全衛生法で製造時に検査を受けて「検査証」を受け取るよう定められています。検査証には有効期限があるため、エレベーターを使用し続けるためには定期的な検査が必須なのです。
性能検査が義務付けられているエレベーターは、クレーン等安全規則で定期自主点検の実施も定められています。それによると設置後1カ月以内ごとに1回、定期自主点検の実施が必要となっているのです。つまり、積載量1トン以上のエレベーターには次の2つの義務が生じることになります。
検査を行わなかった場合、罰則規定により6カ月以下の懲役・または50万円以下の罰金が生じる恐れがあります。
前の項でも触れましたが、性能検査と定期自主検査の頻度はそれぞれ明記されています。性能検査は1年以内ごとに1回(検査証の有効期限内)、定期自主検査は1カ月以内ごとに1回です。
性能検査では、各部分の構造及び機能についての検査に加えて荷重試験が行われます。荷重試験とは、実際に積載荷重相当の荷を乗せた上で昇降動作を確認する方法です。また、定期自主検査についてはクレーン等安全規則で次のように明記されています。
出典:クレーン等安全規則
検査の流れは業者により異なります。大まかな流れは以下のようになりますが、詳しくは依頼先の登録性能検査機関に確認しましょう。
ちなみに、性能検査・定期自主検査には定期検査報告のような報告義務はありません。
定期検査報告(法定点検) | 性能検査を受けるエレベーターと、ホームエレベーターを除く全てのエレベーターが対象。結果は特定行政庁に報告。 |
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保守点検 | 明確な実施義務はないが、常時適法な状態にするよう法律で定められている。「昇降機の使用頻度に応じて、定期的に」行う。 |
エレベーターは、多くの人が利用する非常に便利な機器です。その安全性を確立させるために、定期的な点検が義務付けられています。規定通りに点検が実施されているエレベーターには検査済みのステッカーが貼られており、一目瞭然です。点検は誰でも行えるわけではなく、専門の業者が存在します。また、点検によっては契約内容も変わってくるので確認は重要です。点検を怠ると罰則が科される可能性もあるため、必ず実施していきましょう。