昨今の少子高齢化に伴い、介護現場の人材不足は、介護施設のみならず社会全体の深刻な問題となっています。限られた人材で質の良い介護サービスを提供するためには、介護施設の業務効率化が最重要であり最優先、という話は何度も耳にしたことがあるかもしれません。しかしながら、具体的に何をどう変えていけば良いのか分からないという施設経営者も多いのではないでしょうか。
より良い介護サービスを提供するためには、利用者さんの利便性を高めることと、職員の負担を軽くすることの両方が実現できるような方法を考えていくことが大切です。
本記事では、介護施設のサービス向上に役立つツールとして、利用者さんの起き上がりや体動などを検知するセンサーの中でも最近特に注目度の高い、「赤外線センサー」について解説します。
介護施設における事故の大半が転倒・転落に関連したものだと言われています。この問題を改善させることができれば、職員の業務負担も軽減し、利用者さんも安心して生活することができるでしょう。
今回解説する赤外線センサーは、数種類ある見守り支援機器の中でも「離床センサー」に分類されるものです。
ナースコールと接続して使うこともできるので、実際の介護現場では、その場で音を鳴らすだけでなく、ナースステーションや職員のPHSにも報知されるようにしておくと、より速やかに対応出来るでしょう。
離床センサーの概要については【2023】離床センサー10選を徹底比較|種類や価格、導入メリットを解説でも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
次に、赤外線センサーをどのように設置し、いつ利用者の動きを検知すると良いのか、介護施設での利用イメージを具体的に説明します。「この方は1人で動くと危険」と一言で言っても、さまざまな身体機能の利用者さんがいらっしゃいます。
例えば、「ベッド上で起き上がるだけでも危険」といった方にはベッドフレームの足元側、もしくはヘッドボードの少し高めの位置に設置しておきます。そうすると、寝返りなどで動いた時にはセンサーは反応せず、起き上がった時にだけ、赤外線の照射範囲に利用者さんが入り、センサーが反応します。
また、「ベッド上での座位は問題ないけれど、ベッドサイドに足を降ろすのは危ない」といった場合には、ベッドの脚に設置しておけば足を降ろした時にだけ報知し、さらに、「居室内の移動は大丈夫だけれど、廊下に出るのは少し危険」という場合には、部屋の出入口に設置すると、廊下に出ようとした時に知らせてくれます。
このように、センサーの設置場所を工夫することによって、利用者さんの身体機能にあった自由度を保ちながら、効果的に安全性を追求することができます。
超音波センサーと呼ぶメーカーもあります。赤外線センサーとは、何が違うのでしょうか。
そもそも「超音波」は、人が聞くことができないほど高い音を指す言葉です。音が物体に反射して跳ね返ってくる時間から、センサーと物体との距離を計測する仕組みです。
一方の赤外線は、あらゆる物質から放出されています。その赤外線を常時感知し、電気信号に変えて検知するのが赤外線センサーです。赤外線の温度や量の変化を捉えます。一般的に導入コストが高くなりがちな点がデメリットです。 なお、株式会社テクノスジャパン「HUI-R」は、超音波と赤外線の両方を使って検知するため、他社製品と比べて検知の精度が高くなっています。
商品化されている赤外線センサーのうち、特に介護施設での利用におすすめのものを4つ紹介します。導入する際の参考にしてみてはいかがでしょうか。
株式会社ホトロンの「置くだけポール君」は、置くだけで設置が可能で、操作もスイッチが2つと非常にシンプルなため、職員の負担もかからず、操作時のミスも防げます。また、抗菌仕様になっているため衛生的であり、利用者さんの感染リスクを軽減できます。さらにナースコール連動型ワイヤレス送信機が内蔵されているため、何かあった際にはナースコールで知らせてくれます。
本体と受信機のセットで¥94,800(税別)と比較的リーズナブルでありながら、ホトロン独自の技術による環境対策機能が搭載されているため、カーテンの揺れや布団のはみ出しなどは検出されにくくなっており、赤外線センサーのデメリットである「人間以外にも反応してしまう」という点から引き起こされる誤報を低減してくれています。
置くだけポール君のポイント
製品情報
価格 | センサー本体:¥59,800(税別) / セット標準価格:¥94,800(税別) |
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種類 | 赤外線センサー |
サイズ | センサー部 W900 × H600 × D5mm / ケーブル 10cm |
竹中エンジニアリング株式会社の「予測型見守りセンサー HC-MR1」は、センサーで動きを感知した際、職員が携帯しているモバイル端末に通知されます。この時、現場の画像も送られるため、職員は「状況がわからないまま慌てて現場に駆けつける」という必要はなく、端末の画像を確認することで訪室の要・不要や優先度の判断が可能です。参考定価が¥600,000(オープン価格)とやや高額ではありますが、職員の負担は大幅に軽減できるでしょう。また、検知されたデータは、「サーバPC」に送られ、保存されます。通知時の前後10秒〜120秒が確認・保存できるので、万が一事故が起こってしまった場合も、職員全体で情報を共有したり、当時の状況を確認しながら事故の要因を特定できるため、再発防止に役立てられます。
画像分析が非常に正確なので、夜間の薄暗いところでも性能の低下がなく、また、身体の立体形状を認識して人の動きを正確に判断することができるため、誤報がほとんどありません。
予測型見守りセンサーHC-MR1のポイント
製品情報
価格 | 参考価格¥600,000(オープン価格) |
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種類 | 赤外線センサー |
サイズ | ー |
株式会社テクノスジャパンの「HUI-R」の特徴は、1台で、赤外線センサーだけでなく超音波センサーも備わっていて高性能ということが挙げられます。さらに、コードレスであったり、検知距離を3段階に設定できたり、置き型ではなく設置型なので、ベッドの脚などのパイプ部分にも設置ができ、オプションで固定スタンドもありますので、さまざまな場所での使用が可能です。
購入価格はセンサー本体と設置器具、無線中継ボックスの標準セットで¥98,000 (税別)で、デモ機の2週間無料貸し出しも行っています。また、1台あたり¥58,000 (税別)で、センサーだけを増設することも可能です。
HUI-Rのポイント
製品情報
価格 | ¥98,000(税別) |
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種類 | 超音波・赤外線センサー |
サイズ | ー |
株式会社イデアクエストの「非接触・無拘束ベッド見守りシステムOWLSIGHT福祉用」は、販売価格¥350,000(税別)とやや高額ではありますが人工知能を搭載しており、起き上がりや立ち上がりなどの大きな動作だけではなく、苦痛に悶えたり、震えたりといった小さな動きも検出することができます。さらに、動きだけではなく生体情報も検出出来るので、ベッド上に布団などがあっても、利用者さんの不在を認識することが可能です。
異変を察知すると、職員のスマートフォンに画像とともに通知されますが、画像は可視光を排除した状態で送られます。そのため、利用者さんの姿勢や動作は確認できても、顔や服装などの個人情報はわからないようになっており、利用者さんのプライバシーに配慮した見守りが可能です。
さらに、危険度や姿勢画像の履歴を3か月分記録してくれるので、この情報を解析することで、利用者さんごとの危険動作を分析することができます。
OWLSIGHT(アウルサイト)福祉用のポイント
製品情報
価格 | ¥350,000(税別) |
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種類 | 赤外線センサー |
サイズ | W1000 × H70 × D100 |
ここまで赤外線センサーの導入事例を紹介してきましたが、続いて、介護施設に赤外線センサーを導入するメリットとデメリットを解説します。
赤外線センサーは、他の離床センサーと比較して、以下のようなメリットがあります。
一方で、赤外線センサーを導入する際には、以下のような点に注意が必要です。
赤外線センサーは主に介護施設で使われることが多いですが、医療機関においても「安心で信頼できる見守り支援機器」として注目されています。実際に導入を検討している医療法人新光会の生田病院では、これまではセンサーマットを踏むと体重を感知して反応する「フットマットセンサー」を採用していましたが、足を降ろして座った時点で知らせてくれる赤外線センサーをデモンストレーションとして導入してみたところ、「マットセンサーとは別の観点で使用できる」「転倒防止の効果が高く、職員の業務軽減に役立つ機器となるため注目している」と、高い評価が得られました。
赤外線で感知、というと、何か人体に影響があるのでは?ペースメーカーなどは大丈夫?と心配になるかもしれませんが、赤外線は、テレビのリモコンやサーモグラフィーなど、私たちの生活の中で幅広く使われている安全性の高い技術です。どんな利用者さんに対しても安心して利用でき、ほかの電子機器や通信機器に影響を与えることもありません。
参考ブログ:生田病院にてセンサーのデモを行いました。 | 本部スタッフブログ | 医療法人 新光会
さらに、赤外線センサーは、介護施設や医療機関だけでなく、一般家庭でも使われています。例えば、自宅で生活している認知症の方が自宅外に徘徊してしまわないようにする際、外から鍵をかけるなどの対応策がありますが、やや自由度が低く、また火災など、万が一の事態に自分で逃げられなくなってしまう点も心配です。こんな場合も、赤外線センサーを玄関に設置しておけば、認知症の方も「動きを制限されている」と感じることなく、徘徊を未然に防ぐことができます。
竹中エンジニアリングの「徘徊お知らせ感知くん」という商品は、自宅の玄関付近に設置したセンサーで、認知症の方の動きをすばやくキャッチし、メロディーとフラッシュで受信機に知らせます。受信機は、100m以内という広範囲で使用できるので、同居のご家族のみならず、2世帯住宅や近居の場合でも使用でき、ご家族の負担を軽減します。
質の高い介護サービスを提供するための提案として、「赤外線センサー」について解説しました。
設置も簡単で、利用者さんにストレスを与えることなく徘徊の予防を可能にする赤外線センサーは、職員の業務負担や施設内の事故なども大幅に減らすことができる非常に優れたツールです。
赤外線は身体への影響もなく、また設置場所を変えることで、さまざまな身体機能の利用者さんに対応することができるため、多くの利用者さんを抱える介護施設では、応用価値が非常に高いといえます。
導入に際しては、価格や設置方法、異常時の検出の仕方や報知方法などを十分に検討し、施設に合った製品を選ぶことが大切です。