保険請求を行う上で欠かせないのがレセプトの作成です。レセプト返戻は、このレセプトに不備やミスなどが見つかった際に差し戻されることを指します。
本記事では、レセプト返戻について詳しく解説しつつ、再請求の方法や返戻の理由、返戻されないための対策についても紹介します。
目次
レセプトは、「審査支払機関」「保険者」に対してレセプトを提出し、審査や確認が行われます。この内容に不備や漏れなどが見つかった場合に、提出した保険医療機関に差し戻されることを「返戻」といいます。
返戻された場合は、「返礼付せん」に返戻理由が書かれているため、確認し、修正して再請求することが可能です。
紙レセプトは上記のような手順で行いますが、電子の場合はオンラインでやり取りができます。
前述したように返戻は、審査側が内容に不備があったと判断された場合に、レセプト自体を差し戻すことです。
医療行為の適否の判断が難しい場合に、審査側から一方的に差し戻します。
一方の査定は、医療機関の請求に対して審査側が適当ではないと判断した項目の内容を修正し、減額・減点などで調整された額で支払われることです。
査定は収入が差し引かれるということなので、医療行為の対価が得られないという厳しい制度です。
当月に見込んだ収入が得られないということは、人件費の支払いができなくなるので病院経営にとっては大きな痛手になるでしょう。
返戻 | 査定 | |
---|---|---|
実施時期 | 医療行為の適否の判断が難しい場合 | 請求が不適切と判断された場合 |
内容 | 審査側が請求を差し戻す | 審査側が不適当な項目を修正(減額・減点など)する |
支払い | なし | 減額分が差し引かれて支払われる |
再請求 | 可能 | 不可 |
返戻される理由について知っておくことで、再請求しなくても良いように対策ができます。ここでは、なぜレセプトが返戻されるかについて主な理由を3つ見ていきましょう。
返戻される理由で最も多いのが、事務手続き上の間違いです。
具体的には、
などが挙げられます。
よくあるケースとしては、保険証の給付期間が終了していたり、記号や番号に誤りがあったりなどです。
事務手続きの間違いに繋がるため、保険証は最低でも月1回に提示してもらい、内容に変更がないかを確認しましょう。
施術内容が症状に合っていない場合は、適切な処置として認められず、レセプトが返戻されます。
例としては、皮膚にかゆみがある患者様を「湿疹」と診断して、合成副腎皮質ホルモン剤を処方した際に、「湿疹の症状には合っていない」との理由で返戻されたなどです。
患者様が同じ月に同じ症状で複数の医療機関を受診した場合、医科の請求が優先されます。その結果、他の医療機関では重複請求の扱いになり、レセプト返戻されるケースです。
患者様は医師の管理下にあると判断され、同じ期間に整体を行っても支払いは自費診療の扱いになることがあるため、注意しましょう。
レセプト返済を行う機関は、「社会保険診療報酬支払基金」と「国民健康保険団体連合会」の2つがあります。
レセプト請求または、再請求を行う際の違いにより記入用紙も異なるため、間違った機関に請求しないように注意が必要です。また、それぞれで取り扱っている保険者も異なります。
社会保険診療報酬支払基金では、協会けんぽ・健康組合・共済組合・公費実施機関などの保険者の審査を担当します。
国民健康保険団体連合会は、市区町村や国民保険組合から委託を受けている機関です。
間違った機関に請求しないように、認識しておきましょう。
返戻時に送られる書類は、以下のとおりです。
増減点連絡書は医療機関が請求したレセプトに点検・審査を行い、点数に異動が生じた場合に医療機関などに連絡する増減点数や事由などを説明する連絡書を指します。
返戻内訳書は医療機関が請求したレセプトを点検・審査した結果、内容確認のために医療機関に返戻するレセプトの内訳や事由などを示している内訳書です。
増減点返戻通知書は「請求点数に増減がある」「レセプトの内容に確認が必要」といった場合に、増減点返戻通知書が返戻されます。
オンライン請求の場合は、データをダウンロードすることが可能です。ダウンロードした返戻データを修正し、再請求することができます。
保険医療機関などからの支払基金または、国保連合会へのレセプト請求は、基本的に電子レセプトによって行われます。
令和5年2月処理における点数表別レセプト請求状況を以下の表にまとめました。
点数表 | 電子レセプト/オンライン | 電子レセプト/電子媒体 | 紙媒体 |
---|---|---|---|
医科 | 73,958(78.3%) | 17,633(18.7%) | 2,833(3.0%) |
歯科 | 22,034(32.6%) | 40,198(59.4%) | 5,426(8.0%) |
調剤 | 59,306(98.3%) | 464( 0.8%) | 588(1.0%) |
上記の表を見てもわかる通り、ほとんどの医療機関でオンライン請求が行われています。
厚生労働省は2023年(令和5年)3月請求分から、返戻されたレセプトの再請求に関しても原則オンラインで行う旨を示しています。
過去のレセプト再請求でも、原則4月以降はオンラインで行わなければなりません。例えば、2023年1月にレセプト請求を行い、返戻されたものを4月以降に再請求を行う場合はオンラインで行わなければならないということです。
また、オンライン化を推進するために、令和6年中には紙での返戻も廃止することを目指すと示しています。
政府がオンライン請求を推進するには、何かメリットがあるはずです。ここでは、オンライン請求のメリットについて4つ解説していきます。
オンライン請求を行うことで、受付時間が延長されます。
具体的には、毎月休日を含めて5日〜7日は8時〜21時まで。8日〜10日は8時から24時まで請求が可能です。
紙での返戻では実現できなかったエラーチェックが可能となる、ASPサービスがあります。
ASPサービスは、返戻になる事務的な記録ミスを事前にチェックすることができるシステムです。
当月(12日まで)であれば、エラーを修正し、再請求することができます。
オンライン請求のメリットは、振込額明細データなどをダウンロードでき、データで管理することが可能な点です。
原則、請求月の翌月15日以降からの3か月間、以下のデータをダウンロードできます。
各種情報をデータで管理できるのは、大きなメリットといえるでしょう。
電子レセプトの返戻は、オンラインで受け取ることができます。
そのため、返戻再請求レセプトに関しても電子レセプトとして、一元管理できるのがメリットです。
基本的には、以下のような流れです。
具体例を挙げると、1月にレセプトを請求した場合、2月に審査され3月初旬頃に返戻されます。
3月10日までに月遅れレセプトとして再請求し、内容に間違いがなければ4月に診療報酬が支払われるという流れです。
返戻レセプト再請求の方法には、
があります。それぞれの方法について見ていきましょう。
ダウンロードしたデータをレセコンに登録してからオンラインで再請求します。
オンラインで提出できない場合は、以下の提出も認められています。
上記のラベル記載方法や送付書のテンプレートは、各機関のWebサイトに公開されているのでチェックしてみてください。
紙レセプトの場合は、返戻された写しをそのまま使用します。修正箇所を確認して追記・修正を行い、新しく作り直す場合は元のレセプトの添付が必要です。
レセプトの再請求には期限があります。
健康保険法第193条には以下のように定義されています。
「保険料等を徴収し、またはその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から2年を経過したときは、時効によって消滅する」
つまり、患者様が受診して料金の支払いを行ってから2年以内に再請求しなければなりません。
支払日の例を挙げると、4月分の請求であれば5月に審査支払機関に確認され、7月初旬頃に返戻されます。
そのあとは7月10日までに再請求の手続きを完了させることで、8月に診療報酬が支払われるのです。
再請求の場合、支払いが1ヶ月遅れてしまうため、注意してレセプトを作成しなければなりません。
出典:e-GOV|健康保険法(大正十一年法律第七十号)」第百九十三条
レセプト返戻されると、手間と時間がかかるため何としても防ぎたいところです。レセプト返戻されないためには、レセプトをしっかりチェックすることが大切です。
ここでは、レセプト返戻されないための対策を解説します。
レセプトチェックソフトとは、レセプトの記載が正しく行われているかどうかを点検できるソフトのことです。
レセプトの記載が正しく行われているかがわかれば、レセプトチェックにかかる時間を短縮し、返戻率を下げることができます。
その結果、スタッフの残業の削減などにつながり、働き方改革を実現できるでしょう。
レセプトチェックソフトについては【2023最新】おすすめレセプトチェックソフト7選比較|価格や選び方まででも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
診療報酬は、各医療行為に対して設定されている点数により決定し、点数をカウントしていない診療行為であれば、レセプト返戻につながります。
そのため、診療行為がカウントしているかの確認は重要です。
病名と施術内容が不適正だった場合は、返戻されます。誤申告のケースも返戻の対象となるでしょう。
入力データのミスや間違いは、医療事務でも確認できます。最終的には、ドクターの確認が必要となるでしょう。
上記で説明したようにドクターの最終確認が行われ、必要であれば修正します。修正した後は、再度確認してもらいましょう。
レセプト点検にはかなりの数のデータを確認しなければならないため、繁忙期などは残業が多くなることもあります。
連日の残業は負担になるので、レセプト点検業者に依頼するのも一つの手です。
本記事では、レセプト返戻について、再請求の方法や返戻される理由、返戻対策などを解説してきました。
返戻とは、提出したレセプトに不備や誤りなどが見つかった際に差し戻されることをいいます。
レセプト返戻時の対応も大切ですが、請求時点でミスが起こらないことも意識しなければなりません。
そのためには、本記事で紹介した対策を取ることが大切です。
本記事で解説した内容を参考に、返戻が行われた際はしっかり対応できるようにしておきましょう。