2026年度(令和8年度)の診療報酬改定では、人手不足に対応するため、人員配置基準の一部柔軟化が盛り込まれました。なかでも注目されているのが、ICT機器の活用を条件とした「看護配置の1割緩和」です。
この制度は、見守りシステムや記録支援ツールを導入し、残業時間を抑制できている病棟に対し、急な欠員が生じた際でも入院料を維持できるようにするものです。
本記事では、必須となるICT機器の定義や残業時間の管理方法など、届け出にあたって確認しておくべき内容を整理して解説します。
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今回の改定の背景には、医療ニーズの変化と労働力人口の減少があります。2025年度には団塊の世代の全員が75歳以上の後期高齢者となり、医療への需要が高まる一方で、現場を支える現役世代は今後減少の一途をたどります。
こうした状況下では、従来の人員配置基準を維持したくてもスタッフが確保できずに診療報酬を算定できないという事態が起こり得ます。
そこで導入されたのが、ICT活用による業務負担軽減を前提とした緩和措置です。これは、特定のICT機器を導入して看護業務の効率化を図ることで、人員配置基準を1割(9割まで)緩和できる仕組みです。ICTによって物理的な業務量を減らし、少ない人数でも適切な看護提供と労働環境の維持を両立させることを目的としています。
出典:厚生労働省|令和8年度診療報酬改定について【全体概要版】
今回の緩和措置は、急性期から回復期、専門的な医療を提供する病棟まで、幅広い入院料に適用されます。これは、人手不足の課題が医療提供体制の全般に及んでいることを背景としています。
診療報酬の施設基準では、1日に勤務する看護要員の数や、その中での看護師が占める割合(看護師比率)が厳格に定められています。今回の特例では、ICT機器の導入によって業務効率化が図られている場合に限り、これらの基準を本来の基準の9割(1割減少)まで緩和することが認められます。
実務上は、急な欠員や採用難が生じた際でも、ICTによる業務補完が機能していれば、即座に入院基本料の減算(施設基準割れ)となるリスクを回避できるという利点があります。
今回の特例措置が適用される主な施設基準は以下の通りです。
人員配置の緩和を適用するためには、以下に挙げる1から3までのICT機器等を「すべて」導入し、病棟の看護職員が日常的に活用していることが必須要件となります。
カメラ映像やセンサーを通じて、看護職員が遠隔で患者の状況を把握できる機器です。訪室回数を抑えつつ、転倒転落の予防や異常の早期発見、身体的拘束の最小化に寄与することが求められます。導入にあたっては患者や家族への丁寧な説明を行い、書面による同意を得るなどプライバシーへの配慮も必須となります。
音声入力や電子カルテからの自動サマリー生成など、記録業務を効率化する機器を指します。データの入力から保存、活用までを一体的に支援するものであることが条件です。事務作業に費やす時間を物理的に削減することで、本来の看護業務の圧迫を防ぎ、業務時間外の記録作成を減少させることが目的です。
ハンズフリーでの同時通話や、リアルタイムに情報を共有できるスマートフォン等の携帯端末が該当します。対面せずとも多人数で迅速に連携できる環境を整えることで、報告や連絡に要する時間を短縮します。スタッフの無駄な移動や待機時間を減らし、病棟内でのスムーズな情報共有を実現します。
出典:厚生労働省|令和8年度診療報酬改定について【全体概要版】
看護配置の緩和を適用するには、ICTの導入だけでなく、現場の労働環境や安全性が適切に維持されていることを証明する厳格な管理ルールを遵守する必要があります。
対象病棟に勤務する常勤の看護職員について、1人あたりの月平均残業時間が10時間以下であることが必須条件です。この時間はタイムカードやPCのログ記録など、客観的に把握できる電子計算機を用いて算出する必要があります。また、非常勤職員を含めた職場全体の残業時間が、ICT導入前と比較して増加していないことも求められます。
ICT機器の導入前後で、看護職員の業務量や事務作業の負担がどのように変化したかを年1回程度、定量的・定性的に評価しなければなりません。評価結果は院内の職員に周知するだけでなく、労働安全衛生委員会等で確認を行い、必要に応じて適切な改善策を講じることが義務付けられています。
緩和措置を講じても患者の安全が損なわれないよう、転倒・転落の予防や異常の早期発見など、医療安全の質を維持する体制が不可欠です。また、国が実施する「ICT活用状況や看護業務の改善に関する随時調査」に適切に参加し、実効性を検証するためのデータを提供する必要があります。
毎年8月には、見守り機器や情報共有ツールの活用状況について、所定の様式を用いて地方厚生局長等へ届け出る必要があります。あわせて、医療情報システムを取り扱う際は、国が定める安全管理ガイドラインに準拠し、サイバーセキュリティ対策や個人情報保護を徹底していることが前提となります。
今回の改定は、見守りシステムや記録支援ツールを活用し、現場の負担軽減に取り組む病棟を評価する仕組みです。急性期一般入院料1〜6や地域包括医療病棟、緩和ケア病棟などが広く対象となります。
この基準を適用するには、見守りセンサー、音声入力などの記録ソフト、インカムやスマートフォンといった情報共有ツールの3種すべてを導入し、看護職員の月平均残業時間を10時間以下に抑えることが必須条件です。これらのICT活用と労働環境の整備ができていれば、急な欠員などで看護スタッフが本来の基準より1割以内で減ってしまった場合でも、入院料を下げずに算定を継続できます。
本制度は人員削減を推奨するものではなく、ICTの力で看護の質を維持しながら、スタッフの負担を物理的に減らせている組織を支えるためのものです。年に1回は業務の負担が実際に減ったかを評価し、国への報告も必要になるため、病院全体で「質の高い看護と働きやすさ」を維持していくことが求められます。