IoTとは、あらゆるモノをインターネットとつなぐ技術のことです。医療分野でIoTを活用することで、患者様のデータをリアルタイムで取得したり、遠隔地域の患者様をオンラインで診療したり、医療従事者の業務負担を軽減できたりと、さまざまなメリットがあります。
今回のコラムでは、医療分野におけるIoT活用の現状を明らかにし、IoTを活用することのメリットや活用事例、今後の展望について解説します。
IoTとは「Internet of Things」の頭文字を取った言葉です。これまでインターネットに接続されていなかったあらゆるモノが、ネットワークを通じて、サーバーやITシステムと接続できるようになる仕組みです。
さまざまなモノから取得したデータを蓄積・分析したり、離れた場所にいる人と情報をやりとりしたりすることが可能となり、あらゆるサービスの向上に役立つことが期待されている技術です。
IoTは医療分野においても活用されています。医療分野のIoTは、医療を意味する「Medical」が加えられ、IoMT(Internet of Medical Things)と呼ばれています。IoMTの技術により、例えばインターネットと接続された医療機器を通して、患者様のデータを蓄積・分析したり、離れた場所にいる医師と情報共有したりすることが可能になります。
詳しい情報共有が容易にできたり、症状や病状を分析することで適切な治療が選択できるようになったりと、医療サービスの向上が期待されています。
IoTは、医療現場が抱える以下のような課題の解決につながる技術と考えられています。
順番に解説します。
日本では少子高齢化が進み、高齢者が多くなるほど医療サービスの需要は増加していきます。一方で、少子化により医療サービスを供給する働き手が少なくなっていることから、現場への医療従事者の供給は減少するばかりです。医療従事者をめぐる需要と供給のバランスが大きく崩れることが懸念されているのです。
医療機関は人が多く集まる都市部に集中しており、都市部に住んでいる方は比較的容易に医療サービスを受けられます。しかし、離島や地方などの過疎地には、医療機関や専門医が不足しており、十分な医療提供体制が整っていません。都市部と過疎地で医療サービスの質や提供状況に差が生じていることを医療の地域格差といいます。
2019年から世界的に感染が拡大した新型コロナウイルスの影響も、医療現場での大きな課題のひとつです。マスクやガウン、フェイスシールドなど備品に要するコストや、感染症対策の負担が増加しています。同時に、感染症対策として患者様の受診控えが起きており、医療機関の経営を圧迫しています。
製造業や流通業などさまざまな業界で注目されているIoT。医療現場でも例に漏れず注目されています。医療サービスの質の向上と医療現場の課題の解決に効果があるとして、注目されています。
課題のひとつである人手不足に対しては、医療物品や患者様の見守りなどをIoTで管理することで、本来必要だった人手が不要になり、人手不足の解消につながります。過不足なく人的資源や在庫を最適化できるため、コスト削減にもつながるでしょう。
IoTを活用すれば、遠方にいる患者様を遠隔で診療したり、リアルタイムで患者様のデータを取得したりすることが可能です。医師が患者様のいる場所へ行かずとも医療を提供でき、医療の地域格差解消につながるでしょう。
IoTの活用により医療データの蓄積や分析が迅速におこなえるようになり、質の高い医療を提供できます。蓄積された膨大なデータにアクセスすることで、過去の類似した症例や治療方法を確認でき、根拠に基づいた医療を提供できるでしょう。
さらに、患者様のデータを蓄積していくことで、将来的には新たな治療法の発見につながる可能性もあります。IoTの活用は現在における医療の質の向上ばかりではなく、将来における医療の質の向上につながることも期待できます。
IoTは、医療現場においてさまざまな用途で使用されています。この章では、医療福祉施設の課題解決プラットフォーム「2ndLabo」掲載商品のうち、実際に医療・福祉の現場で使用されているIoTの活用事例を紹介します。
①ウェアラブル端末(AP TECH)
②在庫管理システム(スマートショッピング)
③服薬管理システム(リードエンジニアリング)
④排泄予測システム(トリプル・ダブリュー・ジャパン)
ウェアラブル端末とは、身につけられるコンピューターデバイスです。腕時計のように手首につけるスマートウォッチや、メガネのように使用するゴーグルなどがあります。
医療分野で活用されているウェアラブル端末のひとつが、スマートウォッチ「Apple Watch」を使用した遠隔モニタリングツール「Hachi」です。Hachiはモニタリングの対象者にApple Watchを装着して、対象者のバイタルデータを遠隔でモニタリングできます。Apple Watchとその他の測定機器を用いることで、24時間365日、以下のデータの取得が可能です。
体調が悪化した時には、Apple Watchの画面に5秒間触ればSOSを発信できます。さらに、異常な心拍数増加を自動で通知したり、位置情報を確認したりすることが可能であるため、緊急時にも適切な対応ができるでしょう。測定結果はタブレットで管理・閲覧することができます。
在庫管理システムは、在庫がどれだけあるのかを通知したり、必要に応じて自動で発注したりするシステムです。導入すれば、必要以上に発注してしまう過剰在庫や発注忘れによる在庫不足、在庫管理の手間削減につながります。
在庫管理システム「スマートマットクラウド」は、在庫を重さで検知して管理するシステムです。一定の頻度で残量を計測して、インターネット経由でクラウドにデータを保存します。Webの管理画面で、在庫の残量を簡単に把握でき、設定しておいた在庫量を下回るとアラートで通知してくれます。在庫切れの許されない医療機関では医薬品や医療材料、事務用品などに、介護施設では紙オムツやリネンなどの備品や消耗品などに対して利用することができます。発注切れを予防できるだけでなく、常に適正在庫が保たれるという、画期的なシステムです。
また、自動発注機能があり、メールやFAX、Webでの発注に対応しています。管理したい在庫の下にマットを敷くだけなので、簡単に導入可能です。在庫管理システムを活用すれば、業務の効率化や在庫不足による医療事故の防止になるでしょう。
服薬管理システムは、患者様が適切に処方された薬を飲めるようにサポートするシステムです。薬の飲み間違いや飲み忘れをなくし、処方された通りの薬を飲むことで、治療効果を最大化することにつながります。
服薬サポートシステムeお薬カレンダー「かれん」は、ITを活用した服薬サポートシステムです。薬の取出しを感知する見守りセンサー「かれんボード」と、通信機能がついたお薬カレンダーが一体となっています。利用者はホルダに薬を入れ、時間になったら薬を取り出して飲みます。すると、薬が取り出されたことに反応し、その時刻がサーバーへと送信される仕組みとなっています。
「今日はわすれず薬を飲んでくれたかな?」病院の担当者や家族などが、薬を飲んだかどうかを確認することができるので、安心できます。
設置された薬の有無はリアルタイムでサーバーに送られるため、患者様が飲み間違えたり、飲み忘れたりした時はすぐに把握可能です。飲み間違いや飲み忘れが生じた時には、担当者に自動でメールを送信して知らせてくれます。
この他にも、以下の機能を自由に設定して利用可能です。
データに基づいた服薬サポートにより、患者様が適切に服薬できるようになることはもちろん、職員の業務負担の軽減にもなるでしょう。
排泄予測システムは、患者様に装着したデバイスにより排尿するタイミングを予測するシステムです。排泄するタイミングを予測することで、適切なトイレ誘導やトイレでの自立排泄をサポートします。
排泄予測デバイス「DFree」は、膀胱の尿の溜まり具合をリアルタイムで検知して、排尿するタイミングを予測するデバイスです。センサーを腹部に直接貼り付け、超音波センサーで膀胱の尿の溜まり具合を検知します。尿の溜まり具合は10段階で表示されるため、排尿のタイミングを把握でき、余裕を持ってトイレに行けるようになるでしょう。
トイレ誘導やおむつ交換を適切なタイミングでおこなうことにより、自立排泄の実現やおむつ交換回数の削減、おむつ交換の遅れによる皮膚トラブルの軽減が期待できます。尿の溜まり具合や排尿の時間は記録され、グラフで表示されるため、視覚的に簡単に排尿傾向を把握できるでしょう。
IoTはさまざまな形で医療業界において導入され始めていますが、導入に関して以下のような点が懸念されています。
①セキュリティ面
②患者様の心的抵抗
③機器の破損
IoTはあらゆるものをインターネットとつなぐ技術であるため、大きく懸念される事項としてセキュリティ面があります。特に医療業界は患者様の個人的なデータを取り扱うため、情報が漏れてしまえば、患者様に不利益を生じさせる恐れがあります。
また、インターネットを経由してデータにアクセスできることから、悪意のあるハッカーによって情報を抜き取られたり、改ざんされたりしてしまうリスクもあります。対策は日々進められていますが、セキュリティ面のリスクがあり、なかなか導入に踏み切れていない施設もあるでしょう。
IoTを活用することで医療データのやりとりが簡単になり、より質の高い医療を提供できるようになります。しかし、患者様によっては複数の医療機関や医師の間で自分のデータがやりとりされることに、心理的な抵抗感を持つ方もいます。
心理的な抵抗感があれば、患者様と医療従事者との間で信頼関係が構築できず、より良い医療サービスの提供が難しくなります。IoTの活用に関する事前説明を尽くし、患者様の同意を得たうえでデータを取り扱うことで、患者様の抵抗感を最小限に抑えられるようにしましょう。
医療福祉におけるIoTには、ウェアラブル端末のように身につけるタイプの機器が多いため、破損や故障、紛失のリスクがあります。破損してしまえば、適切に患者様のデータを取得できないだけでなく、修理費や新たに購入するコストがかかってしまうでしょう。
さらに、患者様の容体悪化を検知する目的でIoTを使用している場合であれば、導入したシステムが適切に動作しないことで重大な医療事故につながるリスクもあります。
IoTは、まだまだ導入され始めたばかりです。医療業界への影響は大きく、今後の医療の姿を大きく様変わりさせる可能性を秘めている技術です。具体的には、離島や過疎地、被災地など医療提供が不十分な環境において、IoTの導入により医療現場の人手不足問題を解消する手段となります。
また、難病の治療も複数の医師と情報共有をしたり、過去のデータにアクセスしたりすることで、最適な治療を実現することができるでしょう。
IoTは、今後ますます医療の現場で活用が進められていくと予想されます。遠い未来の話ではなく、すでに活用されている技術もあり、多くの人の命を救う可能性を持っているのです。医療の質の向上以外にも、医師の業務負担の軽減にもつながり、経済的なメリットもあります。
今後発展していくことが予測されるIoT。ぜひその動向に注目してください。