クリニックの開業準備において、レントゲン室の設計は最も専門性が高く、やり直しがきかない重要な工程です。建築会社任せにすると、過剰な工事でコストが跳ね上がったり、逆に保健所の検査で不備を指摘され、開院スケジュールが遅れたりするリスクがあります。
本記事では、院長が知っておくべき設計基準、必要な備品、そしてコストを抑えるポイントを実務目線で詳しく解説します。
ここから、レントゲン室の設計に関する様々な情報を紹介します。医療に強い設計・施工会社については、この記事の後半で紹介しています。手っ取り早く、「おすすめの設計・施工会社を知りたい」という方は下記のテキストをクリックしてください。お時間のある方は、ぜひこのままご一読ください。
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レントゲン室(放射線診療室)の設計は、建築基準法だけでなく「医療法施行規則」によって非常に厳格なルールが定められています。これを守らなければ、診療所の開設許可が下りません。
「放射線管理区域」とは、外部と明確に区別し、不要な立ち入りと被ばくを制限するエリアです。設計時には、区域の境界だけでなく、施設全体で以下の法定基準値を満たす必要があります。
| 測定場所 | 法定基準値 |
|---|---|
| 管理区域の境界(壁の外・扉の外) | 1週間につき 1.0mSv(ミリシーベルト) 以下 |
| 病院・診療所内の病室内 | 3ヶ月間につき 1.3mSv 以下 |
| 病院・診療所の敷地境界内 | 3ヶ月間につき 250μSv(マイクロシーベルト) 以下 |
出典:医療法施行規則
管理区域の入り口には、法令で定められた専用の標識(黄色地に黒色の三つ葉マーク)を掲示する義務があります。これは関係者以外の不用意な立ち入りを防ぐとともに、保健所の立ち入り検査時に必ず確認される必須項目です。ドアの目立つ位置へ確実に掲示しましょう。
放射線量を基準値以下に抑えるため、壁・床・天井・扉の内部に放射線を遮る「鉛」を隙間なく組み込みます。放射線はわずかな隙間からも漏れ出すため、専門業者による精密な施工が不可欠です。
レントゲン室の全方位(壁・床・天井・扉・窓)には、放射線を遮る「遮蔽性能」が求められます。設計の肝は、装置の電圧や稼働頻度に基づく「遮蔽計算」です。これにより、X線が直接当たらない面の鉛を薄くするなど、安全性を守りつつ高価な材料費を最適化できます。
また、放射線はわずかな隙間からも漏れ出すため、細部の施工が不可欠です。コンセントボックスの裏側、扉の枠、配管の貫通部などを鉛シートやテープで入念に塞ぎ、「ピンホール漏洩」を完全に防ぐことが、保健所検査をクリアする鍵となります。
限られた面積で効率的な診療を行うための設計ポイントです。
効率的な診療には、患者とスタッフの動線を分けた設計が重要です。患者動線は、診察室からスムーズに入室でき、プライバシーに配慮した更衣スペースを隣接させるのが理想です。
一方、スタッフ動線は、撮影ボタンのある操作室と画像確認を行うPC作業場所を近づけます。これにより、スタッフの移動ロスを減らし、撮影から診察までの待ち時間を大幅に短縮できます。
診療科によって必要な面積の目安が異なります。
| 診療科 | 推奨される広さの目安 | 設置機器の例 |
|---|---|---|
| 歯科 | 1.5畳~2畳 | パノラマ、デンタル |
| 内科 | 3畳~4畳 | 一般撮影(胸部・腹部) |
| 整形外科 | 4.5畳~6畳 | 一般撮影、長尺撮影、場合によりCT |
クリニック向けの内装業者については、おすすめクリニック内装業者を比較|内装のポイントや費用相場までで詳しく解説しています。ぜひこちらもご一読ください。
歯科医院向けの内装業者については、クリニック・歯科の内装業者おすすめ10選|注意点も解説をご覧ください。あわせて参考にしてください。
防護工事はクリニックの内装費の中でも高額な部類に入ります。
放射線を遮るために使用される主要な建材は以下の3点です。それぞれの特徴を理解しておくことで、見積書の妥当性を判断しやすくなります。
石膏ボードに薄い鉛のシートを貼り付けたものです。壁や天井の仕上げ材として最も一般的に普及しており、施工性が高いのが特徴です。
操作室から患者様の様子を確認するための透明な窓です。非常に高価なため、視認性を確保しつつサイズを最小限に抑える設計が一般的です。
木製や鋼製の扉の内部に鉛板をサンドイッチした重厚な扉です。隙間から放射線が漏れないよう、枠部分にも遮蔽処理を施した専用品を使用します。
安全基準を満たしつつ、過剰な投資を防ぐためのポイントは「建物の構造」と「機器の配置」の最適化にあります。
X線が直接当たる壁(主照射方向)には厚い鉛が必要ですが、それ以外の壁(散乱線のみ)は薄い鉛で済む場合があります。装置の向きを調整し、厚い鉛が必要な面積を最小化することで、材料費を大幅に抑制できます。
テナントの境界壁などがコンクリート製(RC造)であれば、コンクリート自体に高い遮蔽能力があります。計算上、基準を満たしていればその面の鉛工事を省略、または大幅に軽減できるため、物件選びの段階から意識すると有利です。
以前もクリニックだった物件なら、壁内に鉛が残っている可能性があります。放射線測定を行い、十分な遮蔽性能が確認できれば、既存設備を活かして工事費を抑えることが可能です。
内装業者から提示された見積書を精査する際は、以下の項目が含まれているか、内容が適正かを必ず確認しましょう。
単に鉛を貼るだけでなく、法的に根拠のある「遮蔽計算」に基づいた設計が必要です。この計算書がないと、保健所への設置届が受理されません。見積りに作成費用が含まれているか、必ず確認してください。
全方位同じ厚みになっていないかチェックしましょう。主照射方向は $1.5$ mmPb、その他は $1.0$ mmPbといった「使い分け」の記載があれば、計算に基づき材料費や施工費を適切に最適化している証拠です。
「コンセントボックス防護」の項目があるか確認してください。壁をくり抜くスイッチ類や扉枠の隙間は、放射線が漏れやすい弱点です。こうした細部に鉛を当てる精密な作業費が計上されているかが重要です。
確認窓のサイズが不必要に大きくないか精査しましょう。鉛入りガラスは非常に高価な部材です。視認性を保てる最小限のサイズに抑える設計になっていれば、数万〜十数万円単位のコストカットが期待できます。
部屋が完成しても、これらの備品が揃っていなければ運用はできません。
スタッフの被ばく線量を測定する計測器で、医師や放射線技師、看護師など管理区域に立ち入る全員分が必要です。
測定は専門業者に委託し、毎月(または3ヶ月ごと)にバッチを送付して線量を確認します。測定結果の記録は、法令により原則30年間の保存義務があるため、適切に保管・管理できる体制を整えておくことが重要です。
| 項目 | 内容・詳細 |
|---|---|
| 主な目的 | スタッフが業務中に受けた放射線量(外部被ばく線量)を正確に測定・管理するため。 |
| 配布対象者 | 医師、診療放射線技師、看護師、歯科衛生士など、管理区域に立ち入る全スタッフ。 |
| 装着方法 | 原則として胸部(女性は腹部)に装着。防護エプロン着用時はその内側に装着します。 |
| 測定サイクル | 一般的に1ヶ月ごと(または3ヶ月ごと)に、新しいバッチと交換して測定します。 |
| 測定後の流れ | 使用済みバッチを測定業者へ返送し、発行された「線量報告書」を確認します。 |
| 記録の保存期間 | 法令により、測定結果の記録は原則として30年間の保存が義務付けられています。 |
| 異常時の対応 | 万が一、基準値を超える線量が検出された場合は、原因を調査し保健所への報告等が必要です。 |
放射線バッチ以外にも、患者や介助者の安全を守るために以下の準備が必要です。
| 備品名 | 用途・特徴 |
|---|---|
| 防護エプロン | 介助者や患者の非撮影部位を保護します。 |
| ネックガード | 甲状腺への被ばくを低減します。 |
| 専用ハンガー | 【重要】防護服は折ると中の鉛が割れるため、必ず専用ハンガーで吊るして保管します。 |
レントゲン室の設計は、単に「箱」を作るだけでは不十分です。導入する機器の「電源容量」と「通信環境」の仕様を設計段階で確定させないと、後からの追加工事が困難になります。
現代のクリニックでは、フィルム現像を必要としないデジタル撮影が主流です。スムーズな画像診断を実現するために、以下のネットワーク環境を整備しましょう。
導入する機器が一般X線撮影装置かCT装置かによって、必要な電力や床の補強強度が大きく変わります。CT装置は高電圧の専用電源が必要になるケースが多く、重量も重いため、設計初期にメーカー指定の仕様を確認することが必須です。また、装置のサイズに合わせて、患者様が安全に動けるワークスペースを確保したレイアウトを検討しましょう。
X線撮影装置メーカーについては、X線装置の主要メーカーを徹底解説で紹介しています。
CTのメーカーについては、医療用CTメーカー主要5社・製品30選を徹底比較で紹介しています。
撮影に使うデジタルパネル(DR)は、ケーブルのない「無線タイプ」が一般的です。撮影データを瞬時にPCへ転送できるよう、レントゲン室内に専用のWi-Fiアクセスポイントを設置するなど、安定した通信環境の確保が欠かせません。
撮影した画像を診察室のモニターで即座に確認するためには、画像サーバー(PACS)との連携が必要です。壁面の遮蔽工事(鉛入れ)を行う前に、診察室とレントゲン室をつなぐ有線LAN配線をあらかじめ計画しておくことで、通信トラブルを防げます。
PACSメーカーについては、【2025】PACSメーカーを徹底比較|選び方や導入メリットまでで詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
患者様の安全確保とスムーズな検査実施のため、以下の付帯設備が必要です。これらは保健所の検査対象にもなるため、設置場所や配線を事前に計画しましょう。
撮影中に連動して点灯する「X線使用中」ランプを、ドアの外の目立つ位置に設置します。これにより、第三者の不用意な入室による誤被ばくを未然に防ぎます。
操作室から鉛ガラス越しに患者様の全身が目視できない場合(死角がある場合)に必要です。特に、高齢の患者様や介助が必要な方の動きをリアルタイムで確認し、転倒などの事故を防止します。
遮蔽された操作室から「大きく息を吸って、止めてください」といった指示を伝えるために必須です。クリアに聞き取れる音声環境を整えることで、撮影のやり直し(再被ばく)を防ぐことにもつながります。
レントゲン室の運用には行政への届出と検査が必須です。手続きに不備があると開院延期のリスクがあるため、以下のフローに沿って計画的に進めましょう。
設計から開設までの一般的な流れは以下の通りです。特に「事前相談」がスムーズな開設の鍵となります。
内装設計と並行して、専門業者に「遮蔽計算書」を作成してもらいます。これが全ての工事の根拠となります。
着工前に、計算書と図面を持って保健所へ相談に行きます。この段階で修正指示を受ければ、追加工事のコストを回避できます。
工事が終わったら、実際に放射線が漏れていないか第三者機関に測定を依頼し、結果報告書を受け取ります。
装置を設置してから10日以内に、必要書類を揃えて保健所へ届け出ます。
保健所の検査官は、書類だけでなく現場の「管理区域の標識(シール)」が正しく貼られているか、スタッフ用の「個人線量計(バッチ)」が人数分揃っているかといった点も厳しくチェックします。
保健所の立ち入り検査(構造設備検査)で、特によく見られるポイントをまとめました。
| カテゴリ | チェック項目 |
|---|---|
| 標識・掲示 |
|
| 施錠・安全 |
|
| 設備・備品 |
|
| 通信・視認 |
|
新規開業にあたっては、保健所対策などの「ハード面」だけでなく、患者様への安心感という「ソフト面」の配慮も欠かせません。特に放射線への不安を抱く患者様(妊婦の方や小さなお子様の保護者など)に向けて、検査の安全性を正しく伝えるポスターの掲示をおすすめします。
ここまでの内容で分かるように、クリニックの設計・施工には、医療法への適合性や高度な動線設計が不可欠です。ここでは、医療機関の実績が豊富な3社を紹介します。

ミサワホームグループの技術力を活かし、年間数多くのクリニック改装・開業支援を手掛けています。特筆すべきは、戸建住宅で培った高耐久な構造技術と、医療現場のストレスを軽減する「デザイン力」の融合です。レントゲン室の遮蔽工事はもちろん、将来的な機器の入れ替えを見据えた柔軟な設計提案に定評があります。全国のネットワークを活かした迅速なアフターフォローも、新規開業の先生にとって大きな安心材料となります。

「ドクターズ・レント」をはじめとする、開業医向けのトータルサポートが充実している大手ハウスメーカーです。木造建築の温かみを活かした「患者に選ばれる空間づくり」を得意とする一方で、大規模病院の施工で培った厳格な医療基準をクリニック設計にも適用しています。遮蔽計算から保健所検査の立ち会いサポートまで、大手ならではの組織力でバックアップ。高断熱・高気密な建物構造は、精密機器であるX線装置の安定稼働にも寄与します。

「クリニック内装のスペシャリスト」として、歯科から一般科目まで幅広い施工実績を持つ企業です。現場目線の動線設計に強く、限られたスペースの中で患者のプライバシーとスタッフの作業効率を最大化するレイアウト提案を得意としています。また、複雑な医療機器の電源計画やLAN配線にも精通しており、レントゲン室を含むテクニカルなエリアの施工精度が非常に高いのが特徴です。コストパフォーマンスと質のバランスを重視する先生に選ばれています。
レントゲン撮影は医師自らが行うことも可能ですが、撮影枚数が多い場合や、より高度な撮影技術・安全管理を求める場合は、診療放射線技師の採用が有力な選択肢となります。技師は遮蔽管理や法定記録の運用、患者様への専門的な安全説明を担うため、院長の負担を大きく軽減できます。
診療放射線技師の採用を検討される際は、ぜひ当社の「コメディカルドットコム」にご相談ください。低コストかつ効率的に有資格者へアプローチできますので、技師採用をお考えの際はぜひご相談ください。
放射線技師・看護師・医療事務の採用は、コメディカルドットコムにご相談ください!
レントゲン室の設計は、法規制・コスト・動線のすべてを満たす必要があります。一度工事が完了すると修正は極めて困難なため、設計段階から「遮蔽計算」に基づいた適正な予算配分と、デジタル化を見据えた通信・電源の計画を徹底しましょう。
最も重要なのは、着工前に保健所へ事前相談を行い、検査基準を確実にクリアしておくことです。本記事のチェックリストを活用し、専門知識を持つパートナーと共に、患者様とスタッフ双方が安心して過ごせる、効率的な診療環境を整えてください。