クリニックを分院化するメリットを解説!大きな節税メリットが期待できる!

投稿日 2022.01.27 / 更新日 2022.03.28
投稿者:横山 洋介

経営が軌道に乗ってくると、事業を拡大するために分院の開設を検討しているクリニックもあるのではないでしょうか。
分院展開には医療法人化が必須となりますが、法人化することで節税や社会的信用などの面で大きなメリットが得られます。また、分院展開により診療圏を拡大することで、売り上げアップの効果も期待できるでしょう。

本記事では、分院展開に欠かせない医療法人制度や分院展開のメリット、法人化・分院展開を考えるタイミングなどについて解説します。分院展開をお考えの方は、ぜひご覧ください。

分院展開に欠かせない法人化

分院展開は、すぐに始めようと思ってできるものではありません。さまざまな書類手続きや分院の開設物件、職員の確保など検討事項はもりだくさん。また、前提としてクリニックの医療法人化が必須です。

医療法人とは、医療法の規定に基づいて設立される法人のことを意味します。法人化していない個人クリニックでは、1つのクリニックしか運営することができません。厚生労働省によると、2021年(令和3年)3月末時点で全国の医療法人数は56,303法人と報告されています。


分院展開までの流れ

法人化しているクリニックが分院展開する場合、一般的には次の流れでおこなわれます。
※既存の医療法人と同一都道府県内に分院を開設する際には各都道府県の担当部署、別の都道府県に分院を展開するには各地方厚生局が担当部署になります。

  1. 定款変更についての事前相談
  2. 定款変更認可申請・審査・認可(管轄の都道府県・または厚生局の担当窓口)
  3. 法人変更登記申請の手続き(法務局)
  4. 診療所開設許可申請・審査(保健所)
  5. 保険医療機関指定申請の手続き(厚生労働省)
  6. その他関係官署等への各種届出、申請の手続き
  7. 新たに病院・診療所をスタート

以上が、大まかなクリニックの分院展開の流れです。具体的に必要な書類や申請手続きなどについては、管轄の行政機関ごとに指定されているため、担当部署に確認しましょう。
分院を開設するまでには、書類申請などの手続きが多く、数ヶ月程度かかります。開設までには期間がかかることを想定しておき、余裕を持ったスケジュールで分院展開を進めるとよいでしょう。


大きな節税効果!医療法人化のメリット

医療法人化メリット

個人クリニックが医療法人化するには、各種手続きがあり面倒に感じるかもしれません。しかし、医療法人化には次のメリットがあります。

①売上に対する税率を下げられる
②給与所得控除を受けられる
③退職金で節税できる


①売上に対する税率を下げられる

個人事業では所得にかかる税金は所得税です。一方、法人化すると所得税ではなく、法人税がかかるようになります。

所得税は累進課税制度をとっており、所得が上がるにつれて税率も高くなってくることが特徴です。その結果、個人事業にかかる所得税率は、最大45%にもなります(課税される所得金額が4000万円以上の場合)。

法人化すると所得税は適用されず、法人税が課されます。医療法人に適用される法人税は以下の通りです。

特定の医療法人

年800万円以下の部分:15%
年800万円超の部分:19%

個人事業主で年間800万円の売上がある場合、所得税は23%かかります。税率だけに注目すれば、法人化することで大きな節税効果を得られます。


②給与所得控除を受けられる

法人化すると、法人からの役員報酬という形でクリニック経営者は給与を得ることになります。

給与所得者には給与所得控除が適用されますが、個人事業の所得では控除を受けることができません。


③退職金で節税できる

法人化することで、退職金を経費として支払うことができます。退職金は給与などに比べて税制上優遇されています。退職金を保険などで積み立てて自身や従業員に支払うことで、個人事業主として収入を得るよりも、大きな節税メリットを受けることができます。個人事業主に退職金は認められません。


分院展開のメリット

法人化や分院展開によって、次のようなメリットがあります。

①売り上げ増を見込める
②スケールメリットが得られる


①売り上げ増を見込める

分院展開すると、診療圏を広げることができ、より多くの患者様を診られるようになるため、売上増加を見込めるでしょう。1つのクリニックだけでは、1日当たりに診られる患者数は限られます。規模を大きくすれば、1日に受け入れられる患者数を増やすことが可能です。

しかし、地域の患者数には上限があるため、規模を大きくすれば売り上げが増えるわけではありません。分院を本院と離れた地域に開設したり、本院とは異なる診療機能を持たせたりすることで、売り上げ増を見込めます。


②スケールメリットが得られる

分院を展開して規模が大きくなると、スケールメリットを得られるようになるでしょう。スケールメリットとは、規模の拡大によって得られるメリットのことです。分院展開をするクリニックにおけるスケールメリットとしては、本院と分院とで使用する消耗品や医薬品などを一括購入することで、合計価格を安く抑えられる点が挙げられます。他には単体の求人広告で複数事業所への求人を募集できるなど、人材確保の面でもスケールメリットを出すことができます。


医療法人化・分院のデメリット

医療法人化・分院のデメリット

医療法人化や分院展開には、デメリットがあることも知っておきましょう。

①煩雑な事務作業
②社会保険の加入が必須
③経営悪化リスク


①煩雑な事務作業

個人事業のときと比べて、医療法人化した後は書類作成や各種手続きなど事務作業が増えてしまいます。医療法人は毎年、管轄の都道府県知事宛に事業報告書を提出しなければなりません。事業報告書には事業内容の報告や、資金の調達・運用方法を記載した貸借対照表、収益・費用等が記載された損益計算書などが必要です。

これらはほんの一例で、他にも専門的な知識を必要とする手続きが発生します。税理士や司法書士、行政書士などに作成を依頼することも可能ですが、依頼にはもちろん費用がかかります。

事務作業に要する時間と、費用を天秤にかけて判断することになるとおもいます。専門家や知人に依頼しているクリニックがほとんどです。


②社会保険の強制加入

医療法人化すると、従業員の人数や法人の規模にかかわらず、常勤の役員と従業員は強制的に社会保険に加入しなければなりません。(個人事業主でも、常勤職員が5人以上いる場合は強制加入)

社会保険料の支払いは、従業員と法人でそれぞれ1/2ずつを負担します(労使折半)。雇用する従業員が多ければ多いほど、社会保険料の負担額が大きくなります。

雇用される職員からみれば、国民健康保険や労災保険など社会保険の恩恵を受けられます。法人の費用として社会保険料の負担額は発生しますが、従業員が定着しやすくなる可能性があります。


③経営悪化リスク

分院展開することで、本院ともども経営が悪化してしまうリスクが考えられます。

本院が軌道に乗って安定して黒字を生み出していたとしても、新しく開設された分院がはじめから利益を生み出すのは困難です。開設したばかりの分院は、知名度も低く、評判もわからない状態。なかなか最初から安定した患者数が見込めません。

本院で黒字を生み出していても、分院が軌道に乗るまでは赤字を補填しなければならない状況が考えられます。分院を展開しても補填できる状況であれば、運営していくことは可能です。しかし、赤字が上回ってしまうと本院の運営も困難になります。継続して売上を立てなければ、分院展開時に投じた医療機器などへの資金を回収できなくなるリスクもあります。


分院展開を考えるタイミング

分院展開を考えるタイミングは、大きく次の2つです。以下のいずれかの要件にあてはまった場合、分院を検討する良いタイミングかもしれません。

①分院長候補を見つけたとき
②安定した運営ができたとき


①分院長候補を見つけたとき

法人化や分院展開を考えるタイミングは、クリニックの現状や将来設計によって異なります。最優先すべきタイミングは、良い分院長候補を見つけたときです。

院長は本院と分院を掛け持つことができないため、分院を任せられる優秀な分院長候補が必要です。分院長の選定を見誤ると、分院長と従業員との人間関係がうまくいかなかったり、結果的に経営が安定しなかったりといったトラブルが生じてしまうかもしれません。
そのため、分院展開のタイミングとしては、分院長候補を見つけたタイミングが適切といえるでしょう。分院長候補の見つけ方は、知人や大学医局経由の人脈をたどる他にも、医師の人材紹介会社を使う方法があります。


②安定した運営ができたとき

分院長候補以外で分院展開を考える要素としては、本院の運営が安定し、継続的に黒字を生み出せている場合です。

黒字で安定していれば、分院が軌道に乗るまでしばらく赤字でも、赤字を補填して運営できます。経営面がうまくいかない場合には、税理士や医療コンサルタントなどの経営の専門家に相談してみましょう。


クリニックの経営が軌道に乗ったら、分院展開も選択肢に!

本記事では、クリニックの分院展開の流れやメリット・デメリット、展開するタイミングなどについて解説しました。

分院を展開するには、まずクリニックを法人化する必要があります。法人化して、分院を展開することで、個人事業の本院だけではできなかった取り組みができたり、税制の優遇を受けられたりするメリットがあります。

ただし、不用意に分院展開してしまうと経営悪化といったリスクがあります。クリニックの経営が軌道に乗っており、事業の拡大を検討している方は、本記事を参考に分院展開も選択肢にいれてみてはいかがでしょうか。



株式会社こゆ記|代表取締役

大学時代は中世日本史を専攻し、史料の解析・分析を学ぶ。
商社と損害保険会社で働いた後、2012年にライターとして独立。現在は書籍や雑誌、webサイトに掲載する記事などを執筆している。

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