個人事業主として医院・クリニックを開業し、経営することは、想像以上に孤独と不安がつきまとうもの。経営していて困ったときや迷ったとき、一番心の頼りになるのはパートナーである「妻」です。
開業医の妻として、医院・クリニックの仕事を手伝う、一緒に経営するなどしてサポートをする方が多くいます。しかし、家事や育児と両立しながら、仕事を手伝うのはとても大変です。また、経営を円滑に行うために、他のスタッフと良好な関係性を築いておかなければなりません。
今回は、開業医の夫を仕事でも家庭でも支える一番のサポーターである、開業医の妻の役割について紹介します。
この記事を読んで、開業医の妻としての具体的なサポート方法や必要なスキル、一緒に経営する際の心得を学んでいきましょう。
院長である夫のサポートをするために、どんなことが必要でしょうか。
開業医の妻としての役割は以下の3つです。
①事務長としての役割
②人事部長としての役割
③妻としての役割
具体例をあげながら、説明します。
クリニック経営では、開業医の妻が事務長として関わることに多くのメリットがあります。
診療報酬に関する業務は、クリニック経営に直結するので重要です。
収益面は2年に1度行われる診療報酬の改定により、低下することがあります。算定可能な加算を探す、必要な機器を購入する、費用対効果を考えるなど、これまでの収益を保つための戦略を考えるのは、身近で院長を支える妻だからこそできる役目です。
新たな加算算定のために施設基準の届け出をするとき、膨大な書類作成をします。必要書類の準備など、院長である夫がスムーズに仕事がおこなえるようなサポートが必要です。
また、事務長職を外部から雇用することなく妻がその役割を担うことで、その分の給与を経費化できることがメリットになります。
開業医の妻が一緒にクリニックで働く場合、節税対策が可能です。院長である夫と妻とで所得を分散しておくことで、相続を見据えた節税ができます。
個人開業のクリニックの場合、妻に給料を支払う際には、青色事業専従者給与、もしくは概算経費の特例を検討します。青色事業専従者給与は、個人事業主が家族従業員に支払う給与。概算経費は、その年の社会保険診療報酬が5000万円以下の開業医が、かかった経費をおおよその金額で算定できる制度を指します。ケースによって、青色事業専従者給与と概算経費の特例、どちらが有利なのか変わりますので、計算をして有利な方を選択しましょう。
また、課税所得の高いクリニックは税務調査の頻度が高くなることが多いようです。普段からタイムカードや業務日報など客観的な資料を残しておくようにしましょう。
経営管理のひとつに人事管理があります。事務的な役割もあれば、人間関係を構築する役割も重要です。
スタッフの採用や処遇の決定など、労務管理業務を院長のサポート役である妻が分担することで、院長である夫の安心につながります。
他にも人事管理に重要な役割があります。みていきましょう。
同じクリニックで働くスタッフとは、良好な関係性を築いていけるように心がけたいところです。医療業界、特に医科・歯科クリニックは、看護師やスタッフの離職率が高く、定着しにくいことが大きな課題になっています。雰囲気の良いクリニックづくりを心掛けることが大切です。
具体的に、以下のことを気を付けましょう。
院長・院長夫人だからといって強権を振るうようなことは、スタッフの離職を助長します。院長とともにスタッフやクリニック内に目を配り、雰囲気のいい職場環境を作っていきましょう。
医療業界は女性が多い職場ですので、同じ女性である院長の妻としての立場から共感することが大切です。
「いつもお仕事頑張ってくれてありがとう」と声を掛ける、「先生はちょっと厳しい言い方をすることもあるけど、あなたに期待しているからね」と言うなど、ささいな声掛けがスタッフのモチベーション維持につながります。
人材育成には、緩衝材の役割をする人がとても重要です。院長夫人である妻がこの役割を担うと、スタッフは経営者側の人が意見を聞いてくれたと感じます。
「ここの経営者は、スタッフの私にも気を配ってくれる」とわかると、職場に貢献しようという気持ちが生まれ、より一層仕事に励んでくれます。
職場では院長の右腕として活躍する一方で、帰宅したら妻としての役割があります。家事や育児といった家庭の仕事は、妻の負担が大きくなりがちです。
仕事のパートナーとして、また妻として、役割をどう両立していったらいいでしょうか。
両立は、院長である夫とどれだけ家事や育児を分担できるかによります。一般的に、院長は激務なことも。開業医となると、医師としての仕事だけでなく、経営者としての仕事もあるからです。
そのため、妻の家事や育児の負担がどうしても大きくなる傾向があります。特に育児については、ワンオペかそれに近い状態で育児に奮闘する開業医の妻が多いといいます。状況によっては、クリニックの手伝いが難しくなることもあるかもしれません。
しかし、同じ場所で働いているため、夫婦間の仕事の調整はしやすいことがメリットです。
「この期間は主に私が育児をするから、仕事を減らしてね」
「事務仕事は自分がやるから、家事・育児を分担しましょう」
など、夫である院長と具体的に話し合って決めましょう。
夫婦ともに毎日出勤ではなく、週に数回勤務する、院長夫人は必要に応じて勤務するなどフレキシブルな対応をするといいでしょう。
勤務時間の調整については自分達だけを優遇するのではなく、他のスタッフも同じような待遇を用意しましょう。クリニック全体で、仕事と家庭の両立に柔軟に対応できる勤務体制を整えると、スタッフの離職率の低下につながります。優秀で気遣いのできるスタッフが長く勤務してくれることで、クリニックの雰囲気がよくなり、ますますクリニック経営がスムーズになっていくはずです。
では、開業医の妻として、どんなスキルや資格があると便利でしょうか。
妻も医師の場合、患者さんをたくさん診療できるのでメリットになります。しかし、自分も診療を行いながら経営することになるので、院長である夫を助けるのはなかなか大変かもしれません。
医師でなくて便利な、院長のサポートにつながる資格やスキルについて、具体例をあげながら説明していきます。
院長である夫の診療のサポート役となると、以下の資格が役に立ちます。
看護師免許を持っていれば、来院した患者さんの具体的な問診、採血や注射が可能。スタッフが少ないとき、戦力になれることが最大のメリットです。
医療事務の資格があれば、クリニックの売上に関わる診療報酬明細の作成について関わることができます。クリニック経営に直結するので、重要な業務です。診療報酬の細かいところは、専門的な知識のある医療事務としてサポートしましょう。
また、経営の要となる診療報酬の業務を他のスタッフに任せきりにするのも良くありません。実際に作成に関わらずとも、一番のサポーターである開業医の妻が診療報酬について理解していると非常にメリットがあります。
開業した診療科目によって、クリニックで役立つ資格があります。 例として以下のような資格です。
診療科目に関連する資格を持っていると、夫である院長の力になることができます。また、別職種で働いて給与をもらうと、クリニックの節税にも役立ちます。
この章では、開業医の妻としてうまくやっていくための方法を具体例をあげながら紹介します。
開業する場合、家族の意見が貴重です。医師以外の医療職や一般企業に勤めている家族であれば、医師である院長より客観的な視点での判断ができます。
医院やクリニックを開業すると、経理や人事などの課題が出てきます。勤務医では経験しない課題です。特に準備期間は、開業地の選定や設計、建築、資金調達、スタッフの面接・研修など、決めなければならないことが多々あります。コンサルタントや先に開業している医師仲間に相談することも大切ですが、「医療について何も知らない妻・夫の意見が、一番患者の目線に近くて役に立った」という声はよくあることです。
開業に向けて準備している時期、院長は目の前のことに集中しがちになので、患者視点で客観的で中立な意見を話してみましょう。
妻がクリニックで事務長や人事部長としての役割を担うことが、クリニック経営戦略のひとつです。妻という最も信頼できるスタッフが事務方にいれば、院長の夫は医師の本務である診療に集中できます。
また、開業医という職業柄、学会や関係者同士の食事会に夫婦で出席するような機会もあるかもしれません。ここでも院長夫人としての立場だけでなく、クリニックの事務長の立場としてのふるまいを求められます。ある程度の品格とマナーを持ち、公の場でも堂々と振る舞いましょう。相手に気持ちよく話してもらえるよう聞き上手でいると好印象を持たれます。
同じ職場で働き、経営にも関わるため、何か困ったことがあったらすぐに家族に相談しましょう。
同じ職場だからこそ、臨機応変に対応ができます。家事・育児で困ったことも、すぐに夫である院長に相談して、早めに対策することが重要。家族の理解と協力は、開業の大前提です。夫婦二人三脚で歩んでいけるような関係を築きましょう。
開業医の妻として、夫のクリニックで一緒に経営する場合の役割や心得について解説しました。
院長である夫の手が回らないようなことを、開業医の妻がサポートすることが理想の形です。スタッフとのトラブルを回避し、優秀なスタッフが長く勤められる環境づくりを心がけるとクリニックの雰囲気が良くなります。そうすれば患者さんからもスタッフからも信頼されるクリニックになるでしょう。
家事や育児との両立で悩むことも出てきますが、院長である夫とよく相談して、勤務時間を調整するなどしましょう。
事務長、人事部長、そして妻としてサポートし、公私ともに良きパートナーとして夫から信頼される妻を目指しましょう。