介護保健施設および事業所への行政処分と最近の事例

投稿日 2021.12.20 / 更新日 2022.01.07
投稿者:森 章也

みなさんは、インターネットやテレビニュースで、「介護保険施設が行政処分を受けた」というニュースを見たことはありませんか?

介護保険施設・事業所に対する行政処分は、高齢者の尊厳を支えるケアを継続的に提供し、介護保険制度の信頼性を確保するために必要な行為です。この記事では以下のことを紹介します。
・行政処分とは
・調査による傾向
・最近の行政処分の事例

行政処分の例を学び、質の高いケアを継続しましょう!

行政処分

介護施設の人員・運営・設備に関わる違反や、不正請求がおこなわれていることが発覚した場合、介護事業者に対し、改善勧告、改善命令がおこなわれます。改善が見られない場合や悪質な場合は、指定取消処分や指定効力の停止処分を受けることがあるので注意が必要です。


行政処分における法律

介護保険事業所は、介護保険法にのっとり運営されることが定められています。

介護保険法第74条第6項:指定居宅サービス事業者は、要介護者の人格を尊重するとともに、この法律又はこの法律に基づく命令を遵守し、要介護者のため忠実にその職務を遂行しなければならない。

介護保険法第77条第1項:都道府県知事は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該指定居宅サービス事業者に係る第41条第1項本文の指定を取り消し、又は期間を定めてその指定の全部若しくは一部の効力を停止することができる。 第5号:指定居宅サービス事業者が、第74条第6項に規定する義務に違反したと認められるとき。

第6号:居宅介護サービス費の請求に関し不正があったとき。

介護保険事業所としてルールを守っているのか、適切に介護保険サービスを高齢者に提供しているのかを、まず実地指導で確認します。続く監査で不正が発覚した場合は、行政処分を受けなければなりません。

また、老人ホームは、老人福祉法を守ることが必要です。

老人福祉法第29条第15項:都道府県知事は、有料老人ホームの設置者が第6項から第11項までの規定に違反したと認めるとき、入居者の処遇に関し不当な行為をし、又はその運営に関し入居者の利益を害する行為をしたと認めるとき、その他入居者の保護のため必要があると認めるときは、当該設置者に対して、その改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができる。


行政処分における実地指導とは

実地指導とは、行政の実地指導担当者が直接介護事業所を訪問し、作成した資料やヒアリングを通じて、介護保険法にそった運営方法をアドバイスすることです。

通常の実施指導は、おこなわれる2週間前までに事業所に通知が送られます。実地指導の際に不正がある可能性が高いと判断された場合、後日おこなわれるのが監査です。


行政処分による監査とは

監査は、以下の指定された基準に対して違反していないか、違反の疑いがないかを確認します。

  • 人員基準
  • 施設基準
  • 運営基準

保険給付が適切におこなわれているか、事業所システムが適切に維持・運営されているかなども確認されます。

監査の結果、介護保険法に基づき違反があった場合に都道府県または中核市からおこなわれる行政処分は以下です。

  • 報告
  • 改善勧告
  • 改善命令
  • 指定の一部停止
  • 指定の取り消し

実地指導と監査の大きな違いは、実地指導には事前通知がある一方で、監査に事前通知はありません。


最近の行政処分の例

介護サービス事業者に対する行政処分は、都道府県または中核市によっておこなわれます。そのため、厚生労働省などの政府機関のホームページから情報を得ることは難しく、各自治体が発表しているデータを確認しましょう。

具体的には、「事業所のある都道府県・市区町村 介護 行政処分」といったキーワードで検索すると、行政処分の直近の事例を調べることが可能です。また、介護に関わる一部のデータを収集・公開しているホームページも存在します。

2021年に報告された、行政処分を調査しました。


不正請求

大まかな傾向としては不正請求が多く、そのほとんどが指定取り消し処分を受けています。つまり、事業の継続は困難です。

自治体 違反内容 請求額
東京都 虚偽のサービス提供記録
介護職員処遇改善加算の虚偽実績
1165万円
愛知県 訪問介護回数の水増し 3760万円
岡山県 常勤が必要な職員の不在 2186万円
福岡県 虚偽記録作成と、給付費不正受給
人件費の流用
6900万円
岡山県 職員配置の虚偽報告 5030万円
滋賀県 従業員の勤務時間の水増し
虚偽の出勤簿作成
57万円
埼玉県 介護支援専門員の不在
常勤の管理者の不在
5000万円
滋賀県 責任者の不在
虚偽の職員数
10800万円

※上記いずれの事例も指定取消処分、指定取消処分相当の処分となっています。
※上記の東京の事例は事業所廃止のため指定取消処分相当の処分となっています。


不正請求に関しては、金額の大小ではなく、故意性があること、組織性があることが取り消しの基準です。必要な人員が確保されていなかったケースも多く、計画的な組織運営が求められます。


虐待

職員による虐待も報告されており、新規の入居者受け入れ制限が課せられています。取り消し処分となっている事例はありませんでした。

自治体 内容 処分内容
愛知県 入居者への暴行 新規利用者の受け入れ3ヶ月停止
再発防止策の報告義務
北海道 入居者の飲み物への下剤混入 新規利用者の受け入れ3ヶ月停止
神奈川県 入居者への暴行
入居者への過剰な身体拘束
新規利用者の受け入れ3ヶ月停止
1ヵ月の介護報酬の減額(請求額の半分)
神奈川県 入居者への過剰な身体拘束 すべての介護業務の停止6か月

愛知県の事例では、入居者の方が最終的に亡くなっており、虐待をおこなった職員は傷害罪で逮捕・起訴され、実刑が下っています。また、いずれの処分例も内部からの通報によって事例が発覚しました。

一概には言えませんが、内部通報による発覚や、組織としての故意性が低い点などが、不正請求との処分の差につながった可能性があります。


行政処分の傾向

平成28年に発表された「介護保険法に基づく介護サービス事業者に対する行政処分等の実態及び処分基準例の案に関する調査研究事業 報告書」では、106事業者の222ヵ所の事業所・施設のうち、約半数の事業者が指定取り消し処分を受けています。

指定取り消しの特徴として、訪問介護・訪問看護の事業者では取り消し処分が7割を超えるのに対し、入所施設では取り消し処分がありません。

理由として考えられるのは、訪問介護や居宅介護支援事業所は施設数が多いため、指定が取り消されても別の施設がサービスを提供できるという点です。対し、入所施設の取り消し処分がない理由は、指定が取り消された場合に代替施設を探すことが困難だという理由であると考えられます。


行政処分の理由

行政処分の理由内訳


行政処分の理由で最も多かったのは不正請求で、32.3%を占めています。次いで、運営基準違反、人事基準違反がそれぞれ約13%です。

不正請求の内容としては、サービスを提供していない、いわゆる架空請求が最も多い傾向です。次いで、減算規定を適用しているのに減算されていないケース、加算要件を満たしていないのに加算されているケースなどがあげられています。


処分の基準

では、どのような基準で事業者は処分されるのでしょうか。

介護保険法第七十七条にもあるように、処分をおこなうのは都道府県・または中核市です。そのため、行政処分の基準は自治体によって多少変わります。自治体自身が作成・もしくは他の自治体が作成した基準を用いているケースが全体の約半分です。基準がない自治体も3割程度存在しているので注意しましょう。

処分に当たって重視する点は、おもに以下の順です。

  • 利用者の権利侵害
  • 故意性
  • 保険者や被保険者に対する公益侵害
  • 反復性
  • 監査時の対処姿勢
  • 組織的関与

社会的に大きな事件かどうか、反省の色が見られるかどうか、不正請求の金額が少ない、といったことがらは、あまり判断材料にはなりません。

また、証拠の隠ぺいなどの悪質性が高かったり、生活保護法や障害者総合支援法などの介護保険以外の法令に対する違反もあったりする場合は、処分が厳重となる傾向があるようです。一方で、事業者からの不正申告があった場合や、監査後に改善策が実施される・される可能性が高い場合は、処分が軽減される可能性が高いとされています。

問題が生じた場合には、故意ではなかったとしても速やかに報告し、サービスの改善につなげましょう。


法律を守り適切な介護保険サービスを

この記事では、介護施設に関わる行政処分の種類と、直近の傾向について解説しました。介護保険制度の信頼性を確保するために、行政処分は必要な行為です。実地指導で指摘があった行為に対しては適切に修正し、継続的に事業所を運営しましょう。



都圏の病院

泌尿器科専門医、性機能専門医、性感染症専門医、医学博士。15年以上にわたる大学・基幹病院での臨床・研究経験を生かし、一般向けのわかりやすい医療記事の執筆が得意。趣味が高じてファイナンシャルプランナー2級・福祉住環境コーディネーター3級を取得。医師向けに家計アドバイスも行っており、医師を対象とした情報発信にも自信あり。子育て奮闘中。


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URL:https://twitter.com/dr_shinpaku

呼吸器専門医、指導医、総合内科専門医、研修医指導医、医学博士。総合病院勤務医として臨床または研究に従事し、若手指導にあたりながら、これまで培った経験を生かして医師ライターとしても大手医療メディアなどで多数の記事作成を行っている。また専門知識を生かして監修や編集、Webディレクターとしても活動している。
最近は予防医学、デジタルヘルス、遠隔医療、AI、美容、健康、睡眠などに関心を広げデジタルヘルス企業に関する記事の連載も行っている。
正しい医療知識の普及や啓蒙のために日本語又は英語で発信を行いながら様々な企業との連携やコンサルティングも経験し、幅広い分野での貢献に努めている。
複数の学会に所属し、論文執筆、国内・国際学会発表による研鑽を積んでいる。

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