電子カルテ情報の標準化は、今後の超高齢化社会に向けて早急な対応がすすめられている施策のひとつです。施策を進めることで、患者様はもちろん医療施設やシステム販売会社においても多くのメリットを受けられます。
そもそも電子カルテ情報の標準化とは、どんなものなのでしょうか。今回は、電子カルテ情報の標準化の詳細や実現することのメリットについて解説していきます。
現在、国では医療DX令和ビジョン2030について議論を進めています。その柱のひとつとしてあげられているのが、電子カルテ情報の標準化です。ここでは、医療DX令和ビジョン2030について詳しく解説します。
「医療DX令和ビジョン2030」は、医療におけるITの浸透化促進やDXによる業務効率化などを目的とした施策です。日本における医療分野の情報を抜本的に改善するために、自民党が提言しました。
近年、時代の変化によりさまざまな分野でDX化が進んでいます。そんな中でも、デジタル化が浸透しにくく多くの課題を抱えているのが医療業界です。実際に新型コロナウイルスが流行した際にも、情報共有がうまくいかずいくつもの問題が生じていました。
今後はさらに超高齢化社会が加速するため、早急な対応が望ましい業界です。医療DX令和ビジョン2030には、次の3つを同時進行で進めることを目標としています。
これらを同時並行することで、患者様・医療機関・システム販売者がメリットを受け取れると考えられています。
電子カルテ情報の標準化とは、Webを利用して医療情報を交換する際の手順を定めるための施策です。医療情報交換の規格は、国際的にはHL7 FHIRと定められています。これをもとに、厚生労働省では国単位の標準コードや交換手順の制定を目的としているのです。
対象の情報としては、次の文書が優先的に交換できるようすすめられています。
これらの3文書の共有が整ったら、続いて次の6つの情報が拡大すると想定されています。
現状、日本はシステムの標準化の取り組みに積極的な反面、国際レベルで見ると普及率は低いと言われています。大きな原因としては、標準化の目的が不明確で価値が理解されにくい点です。詳細については、この後の項目で解説します。
各医療機関には患者様ごとの診療データが多く蓄積されています。これらの情報を異なる施設間で共有することで、より質の高い医療を提供できるようになるのです。現在、医療業界のシステム導入は徐々に進んでいます。
しかし、システムメーカーごとに独自の通信方法を持つため施設間の互換性が良いとはいえません。より良い医療を提供するためには、システムの統一が必要です。電子カルテ情報の標準化は、現在の異なるシステムを一本化するための重要なツールといえるでしょう。
また、医療情報システムの標準化は介護サービスの効率化や質の向上にもつなげられます。対象者の方が高齢であるほど、介護と医療施設の密な情報共有が必要です。患者様によっては本人に状況を確認することが困難なので、システムの正確な情報が何よりも大切になります。
超高齢化社会に向かって進んでいる日本にとって、電子カルテ情報の標準化はクリアすべき条件です。
電子カルテ情報の標準化に際して、必ず聞かれるのが「HL7 FHIR」です。ここでは、HL7 FHIRについて詳しく解説します。
HL7 FHIRとは、HL7協会によって作成された医療情報を交換するために定められた次世代の標準規格です。HL7協会はHL7 Internationalとも呼ばれ、医療情報システム間のスムーズな情報共有を目的として活動しています。
診療記録など患者様に関わるデータはもちろん、管理業務や公衆衛生など医療関連全ての情報交換が対象です。
すでに普及しているWeb技術を採用して実装するよう進めているため、多くの施設で懸念されがちな導入がスムーズです。また、HL7 FHIRでは各医療機関が蓄積し続けたデータをそのまま引き継ぐことができます。
多くのデータから必要な部分のみを抽出・活用できるので、新しく情報を収集する手間を省けるのです。
医療DX令和ビジョン2030ではシステムのデータ交換規格を、新たに日本バージョンとして作成する動きもあります。ここで注目すべきポイントとしては、システム自体ではなくデータの共有方法のみを指しているという点です。
その場合、システムメーカーによる新たな開発が必要不可欠となります。いずれにせよ、現在システムを販売している会社同士の協力が重要となってくるでしょう。
前述した通り、日本は国単位でみると電子カルテ情報の標準化に対して積極的に取り組んでいます。しかし、各医療機関単位では浸透しているとは言い難い状況です。以下では、日本で電子カルテ情報の標準化が進まない理由について解説していきます。
厚生労働省では、電子カルテの普及率を数年おきに調査しています。それによると、令和2年の時点で一般病院で57.2%・一般診療所で49.9%と全体の約半数ほどとなっていました。病床規模別でみると、400床以上では91.2%である反面200床未満は48.8%にとどまっています。
現状では大規模病院のシステムは普及している一方で、中小規模病院ではあまり進んでいないといえるでしょう。
電子カルテ情報の標準化を実現させるには、販売元である各メーカーがデータの共有方法をひとつに揃える必要があります。しかし、現状は各メーカー独自の共有方法を採用しており、統一ができていません。
国としては、各メーカーの規格を揃えることが現在の課題です。今後は、各メーカーや医療機関へどの程度働きかけられるかがポイントとなってくるでしょう。
電子カルテ情報を標準化するためには大規模な改革が必要にはなりますが、実施することで多くのメリットが得られます。以下でそれぞれのメリットについて見ていきましょう。
電子カルテ情報が標準化することで、システムの導入や他メーカーへの移行が容易になります。前述した通り、現状はデータ管理がメーカーごと異なるので他システムと連携したい場合に余計なコストや労力が必要です。
システムが標準化されればデータ移行が簡単に行えるので、新たに導入したい方もスムーズに情報を取り込めます。システムを変更する際にも、素早いデータの移し替えが可能です。
電子カルテ情報が標準化されれば、場所を問わずデータ連携を行えます。これにより、急速に高まった地域完結型医療のニーズにも対応できるようにもなるのです。異なる医科だけでなく介護施設とも多くの情報を連携でき、患者様へ高品質なサービスを提供できます。
現在の医療現場では、転院や他の医科へ受診する際に状況を確認するため患者様やご家族に問診を行います。状況によっては前医で説明したことと同じ内容を説明しなければならず、患者様の負担も大きくなってしまうのです。
例え説明ができたとしても、当初とは違った内容を伝えてしまうということもあるでしょう。電子カルテ情報を標準化できれば、すでに他の医療機関で入手したデータを確認することができます。
その上でさらに必要な情報のみを確認すれば良いので、スムーズな診察が可能です。
電子カルテはさまざまなメーカーで取り扱っており、施設のニーズによっても最適な製品は異なります。「電子カルテの選び方が分からない…」「そもそも電子カルテって?」という方には、以下の記事がおすすめです。
医科ごとに最適な電子カルテも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
おすすめの電子カルテについては【2023最新】電子カルテ徹底比較|選び方やおすすめメーカーまででも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
現在進められている医療DX令和ビジョン2030の柱のひとつに、電子カルテ情報の標準化があります。これをもとに医療業界のIT促進や業務効率化をすすめ、患者様への質の高いサービス提供を最終目標としているのです。
電子カルテ情報の標準化は国レベルでは積極的に取り組んでいるものの、各施設単位でみるとまだまだ浸透しきれていません。今後は、医療・介護の各施設はもとより販売メーカーが協力して進めることでサービスの底上げを実現できるでしょう。