近年では、さまざまな病院やクリニックにおいて電子カルテの導入が進んでいます。電子カルテを導入することで、情報をデジタル化し迅速にデータの閲覧や検索、医療情報の共有ができるようになるからです。
とはいえ、電子カルテの保存期間について疑問を抱く方も少なくありません。電子カルテと紙カルテで診療記録の保存期間に違いはあるのでしょうか。当記事では、電子カルテの具体的な保存期間や事前に定められている規定について、詳しく解説していきます。
目次
まずは電子カルテの保存期間について、分かりやすく説明していきますので参考にしてください。
電子カルテは、紙カルテと同じく一定の期間は保存するように定められています。万が一、カルテを紛失してしまうと法律違反とみなされるので注意しましょう。保存義務のある書類にもかかわらず、処分してしまうと罰則が発生するケースもあります。
それどころか、もし医療ミスを訴えられた際にカルテが残っていないことで、自院の正当性を主張できなくなる場合もあるでしょう。裁判などで不利になってしまうリスクも高いので、電子カルテは規定の期間中はしっかり保存しておく必要があります。
電子カルテの保存期間は、紙カルテと同じく5年間です。カルテ以外の診療に関わる諸記録(処方箋や手術記録、レントゲンなど)は3年間の保存が必要です。医師法第24条では、下記のように定められています。
医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
前項の診療録であつて、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、五年間これを保存しなければならない。
5年間と定められている保存期間ですが、期間の数え方について注意しましょう。保存期間の起算日は診療を開始した日からではなく、診療がすべて終わった日からとなります。上記の医師法第24条では、いつから5年間を計算すべきかどうかについての細かな記載はありません。しかしながら、健康保険法第9条は下記のようになっています。
(帳簿等の保存)第九条
保険医療機関は、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から三年間保存しなければならない。ただし、患者の診療録にあつては、その完結の日から五年間とする。
紙カルテから電子カルテに切り替える場合以外では、閉院時にも紙カルテを廃棄して良いかを考えることになります。医師法第24条では、カルテの保管義務を負うのは医院の「管理者」とされています。3つのケースをあげ、対応を説明します。
事業承継などで別の医院にカルテを継承した場合、継承先の医療機関でカルテの保管義務が発生します。医療機関の管理者に、カルテの保管義務があるためです。
カルテを継承せずに閉院した場合、閉院した医療機関でカルテを保管する義務があります。上述の通り、診療が完結した日から5年はカルテを保管する義務があります。閉院したからといって、すぐにカルテを廃棄してはいけません。
管理者が死亡した後は、カルテの保管義務が遺族に引き継がれることはありません。
昭和47年の厚労省の通達では、管理者が死亡した際のカルテは行政機関で保存することが適当とされています。ただ、実際は保健所と管理者の遺族で相談し、保管の方法を決めている運用が多いようです。遺族も一定期間はカルテを保管するのが望ましいですが、ルールを知らずカルテを廃棄しているケースもみられます。
電子カルテに移行する際に紙カルテをデータ化して保存する方法について解説します。
紙カルテ情報をスキャンし、PDFなどの形で電子データ化することができます。ここでは主要なデータ化の方法を3種類ご紹介します。
コピー機のように原稿をガラス面に置いて読み取る方式です。原稿が固定されるため精度は高いですが一枚ずつスキャンするため手間がかかります。
自動給紙装置がついており、複数枚を順番にスキャンできます。近年、フラットベッド式と比べても画質や読み取りの精度が向上しているため、人気の方式です。
上から撮影するようにスキャンできる自立式のスキャナを使う方式です。安価で手軽に使用できるのがメリットですが、ページをめくってスキャンしていく必要があります。
紙カルテの枚数が限られている場合は自院のスタッフで対応できるかもしれませんが、大量の紙カルテがある場合、専門業者を利用するのもおすすめです。
注意すべきなのは、単に紙カルテをスキャンしただけではカルテの原紙と認められないことです。
カルテを記載した医師のサインである「電子署名」と、書類が改ざんされていないことを電子的に証明する技術である「タイムスタンプ」が付与された電子データが、正式な「カルテ」の原紙と認められます。タイムスタンプは物理的なスタンプとは異なり、公的に認められたものを使用する必要があります。
電子署名・タイムスタンプを用いてスキャンした後の紙カルテは不要となりますが、情報の真正性や保存性の確保の観点から見ると保存しておくことが望ましいです。ここでは旧カルテの扱いについて解説します。
施設内でこれまでの紙カルテを保存する運用です。電子カルテ導入前と状況は変わらないので、カルテの保管スペースが不足しているとの課題を抱える医療機関の選択肢には入りません。
院内に紙カルテを置いておくだけのスペースが確保できない場合、外部業者の力を頼る方法もあります。使わなくなったとしても、紙カルテには患者の診療情報や個人情報が詰まっています。セキュリティ対策を徹底している専門業者を探して依頼すると良いでしょう。
保存期間は5年間と定められていますが、日本医師会ではカルテの永久保存を推奨しています。紙カルテの場合は患者様全員分のカルテを保存するために広大な場所が必要になります。その点、電子カルテは保存に場所を必要としません。
そのため、日本医師会においても永久保存に移行することが推奨されているのです。日本医師会が発行している医師の職業倫理指針では、下記のように記載されています。
記録保存形式の主流が紙媒体から電子媒体に移行しつつある状況において、診療諸記録の保存期間は診療録の保存期間と同じになるべきである。わが国では法律上 5 年という期間が定められているが、電子媒体化に伴い永久保存とするべきである。
「電子保存の三原則」とは、電子カルテを運用するうえで守らなければならない3つの基準のことを指します。「電子保存の三原則」では、真正性、見読性、保存性が下記のように定められています。
出典:厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5版」
電子保存の三原則については電子保存の三原則とは?|真正性、見読性、保存性をそれぞれ解説でも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
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紙カルテだけでなく、電子カルテから電子カルテへ乗り換える場合もデータ移行が必要です。電子カルテはメーカーによって保存形式が異なるため、必ずデータ移行できるというわけではありません。
もし導入を検討している電子カルテがある場合はデータ移行の対応可否や、データ移行にかかる費用を確認しておきましょう。必ずしもデータ移行が必要というわけではなく、これまで使っていた電子カルテを残しておき、必要な時だけ使うというのもひとつの方法です。
カルテ以外にも、医療機関で保存が義務付けられている診療録や文書があります。保存期間ごとに主要な文書をまとめたので、参考にしてください。
電子カルテの保存期間は、紙媒体のカルテと同様5年間となっています。5年間が過ぎた後は、破棄してしまっても問題はありません。とはいえ、医療過誤などが起こった場合に正当性を主張できなくなりますので、保存期間が過ぎた後もできる限り保存しておくようにしましょう。
近年ではカルテが紙媒体から電子媒体に移行しつつあることから、日本医師会でも永久的に保存することを推奨しています。電子カルテであれば保存にも場所を取りませんので、容易に保存しておくことができるでしょう。
電子カルテについては【目的別】電子カルテ53製品|おすすめ製品、規模別の選び方まででも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。