病院やクリニックを開業するにあたって、医師会に入るべきか悩む方は多いでしょう。
医師会への入会を検討する際、自院の診療内容や診療方針に合った選択をすることが大切です。
本記事では、医師会加入のメリット・デメリットを中心に解説していきます。
また、医師会に加入しない開業医が考える理由や、加入時の注意点についても記載していますので参考にしてください。
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日本医師会とは、国民の健康と医療を支援するために設立された学術専門団体です。医師の資格を持っていれば誰でも加入でき、その会員総数は令和4年12月時点で17万3千人を超えます。医師会が行う事業全体の主な目的は、「医道の高揚、医学及び医術の発達並びに公衆衛生の向上を図り、社会福祉を増進すること」です。
では、 具体的に医師会ではどのような活動が行われているのでしょうか。以下で加入率や会員区分について併せて解説していきます。
医師会の活動例としては、以下のようなものが挙げられます。
また、日本医師会には国や地方自治体に対し、国民医療の立場から提言を行うという重要な役割があります。つまり、日本医師会は以上のような地域の医療・保健・福祉に関する活動のみならず、行政の施策にも関わっているのです。
医師であれば誰にでも医師会加入資格がありますが、加入は任意です。日本の医師数は約34万人(令和2年12月現在)で、そのうち日本医師会会員数は約17万3千人(令和4年12月現在)なので、日本医師会の加入率は約51%となっています。ちなみに医師会会員総数のうち、約84%は診療所の開業医です。
日本医師会は、都道府県医師会の会員から構成されており、さらに都道府県医師会は、群市区等医師会の会員で成り立っています。これら3つの組織は、それぞれ独立した法人組織です。日本医師会に入会するためには、群市区等医師会と都道府県医師会の両方の会員になる必要があります。
都道府県医師会と群市区等医師会には、以下のような役割があります。
このように日本医師会は、都道府県医師会や群市区等医師会と緊密に連携を取りながら、国・都道府県・市区町村のそれぞれで役割分担を行っているのです。
日本医師会は、以下の表のとおり5つの会員区分に分けることができます。
A① | 病院・診療所の開設者、管理者およびそれに準ずる会員(医賠責保険付帯) |
---|---|
A②(B) | A①およびA②(C)以外の会員(医賠責保険付帯) |
A②(C) | 医師法に基づく研修医(医賠責保険付帯) |
B | A②(B)のうち、医賠責保険加入の除外を申請した会員 |
C | A②(C)のうち、医賠責保険加入の除外を申請した会員 |
「医賠責保険」とは、「医師賠償責任保険」のことで、万が一医療事故が起こってしまった場合に年間で1事故につき1億円まで補償される保険です。
ここでは、開業医が医師会に加入するメリットにはどのようなものがあるか、4つ紹介します。
医師会に入ることで、他の医師との交流を深めて密な情報交換が可能になるのは、開業医にとって大きなメリットです。大きな病院で働いていれば、自分以外の医師は身近にたくさんいます。しかし、独立すると他の医師から医療情報を入手することは難しくなる可能性があります。
そのような時に、医師会という共通のコミュニティで築いた医師同士のネットワークがあれば、たとえば自分が参加していない講習会での情報や、経営に関する情報も得られます。
さらに、ひとつの診療所で医療が完結しない場合には、近隣の医師との医療連携も可能です。
医師会に加入すると、各種健診や予防接種といった受託事業に参加できます。たとえば、小学校で生徒が受ける健康診断は、自治体から受託を受けた医師会会員が行う場合が多いです。
もちろん、これは自分の収入になるだけでなく、地域住民にクリニックの存在を知ってもらうことで患者を増やすきっかけにもなります。
医師会会員が受けられる福利厚生には、以下のようなものがあります。
大病院に属さない開業医にとって、以上の制度は大きな支えになるでしょう。
医師会の業務として、行政から受託される以下のような医療業務があります。
これらの事業に参加することで、地域の患者との交流機会が増え、より地域医療に貢献できるでしょう。
次に、開業医が医師会に入会するデメリットを2つ紹介します。
医師会加入のデメリットとして、入会金や会費が高いことが挙げられます。たとえば、新規開業する医師が「大阪市北区医師会」に入ると仮定した場合の、入会費と年会費を試算すると以下の通りです。
合計すると300万円近い費用がかかることになります。さらに、ここから「大阪府医師会」と「日本医師会」に加入すると、それぞれに入会金と会費が必要になることも忘れてはいけません。
医師会に加入すると、クリニックで行う診療以外の医療業務を任される場合があるため、業務量の多さが負担になる可能性があります。
メリットとして紹介した通り、医師会では受託事業を行う機会が多いです。収入の増大は期待できますが、日々の診療が忙しい医師は手放しに喜べないでしょう。
ここでは、医師会に入会しないと決めた開業医が考える主な理由を5つ紹介します。
医師ならすべての人が加入できる医師会ですが、無料で会員になれるわけではありません。デメリットの項目でも述べましたが、高い入会金は医師にとって大きな負担となります。新規開業にあたっての初期費用も考慮すると、かなりの額が必要になるでしょう。
医師会に入会しただけでは、患者数や年収は大きく変わらないことが予想されるため、特にメリットがないと考える医師も多いです。
先述した「大阪市北区医師会」の例のように、初年度会費として300万円前後を支払い、さらに年会費を毎年払い続けても年収が大して増えないのであれば、金銭面で大きなメリットにはなりません。
医師間の交流が増えることはメリットとも言えますが、人付き合いが苦手な医師にとってはかえって煩わしいかもしれません。精神的負担が大きいと業務に支障が出る可能性があるので、注意が必要です。
また、地域ごとに雰囲気も異なるため、加入前には各医師会のホームページや資料は必ず確認しましょう。
初めての開院で業務に不慣れであったり、急患やオペが多かったりと、毎日の仕事に追われている場合は、診療所外での活動が難しい可能性があります。
また、プライベートの時間を大切にしたい人であれば、仕事と両立できるかという点も重要です。
場合によっては、診療時間内に医師会の会議や業務に参加しなければいけないこともあるため、診療を休まなければならないのが負担になる可能性があります。
上記と同じ理由で、医師会について調べるより自分の業務で手一杯だという人もなかにはいるでしょう。医師会加入にそれほどメリットを感じていなければ、目の前の仕事に集中することを優先する医師も少なくありません。
医師会に加入するにあたっての注意点には以下の2つがあります。
新規に開院する場合、医療機器の購入費用はもちろんのこと、クリニック建設や職員の採用にかかる費用など、初めは多額の資金が必要です。
いざ医師会への高い入会金や年会費を支払おうとしたときに困らないよう、最初から医師会会費を開業資金に組み込んでおくといいでしょう。
地域によっては、書類を提出してお金を払っただけでは医師会に加入できない場合があります。たとえば、ある地域では開業前にその地域の医師会長に挨拶をしなければいけないというローカルルールが存在します。
その後の人間関係にも影響する可能性がありますので、事前にきちんと確認しておきましょう。
では医師会に加入しない場合の注意点にはどのようなものがあるでしょうか。ここでは、以下の3つを紹介していきます。
医師賠償責任保険や医師共済制度は、医師会会員だけが受けられる特権です。
最近では、医療の発達により「治療がうまくいって当たり前」という風潮が強く、医療事故が起きた際にクリニックだけでなく医師個人に対して患者が訴訟を起こすケースも増えています。そのため、万が一の時に備えて保険があると安心です。
また、医師年金は自分で積み立てた分が、そのまま将来返ってくる私的年金なので、個人事業主である開業医にとってはメリットでしょう。
一般的に、医師会会員ではない開業医は市町村国保に加入しますが、その保険料は前年度の所得によって決まるため高額になりがちです。しかし、医師会会員のみが入ることのできる医師国保は、保険料が収入に関わらず一定であるため割安になります。
医師会に入会すれば、医師会が主催する研修会や懇親会に参加することができ、医療情報をアップデートする機会が必然的に増えます。
しかし、医師会に加入しない場合、近くに医師の仲間がおらず最新の医療情報を得るのが難しいかもしれません。自身のスキルアップのためにも、意識的に常に情報を取りに行く習慣を身に付けることが重要です。
開業医が医師会に加入を検討する際には、今回解説したいくつかのメリットやデメリット、注意点を明確にしておく必要があります。近隣医師とのネットワーク作りや受託事業を通して、自己研鑽の機会や収入の増大が見込めるというのは、医師会に加入する大きな利点です。
一方で、受託事業に参加することで診療の時間が減ってしまったり、他医師との交流が面倒臭くなってしまったりすれば、「せっかく高いお金を払って入会したのに…」と後悔する可能性もあります。
多少のデメリットを我慢してでも、メリットをしっかりと享受できるかどうかという観点で、医師会への入会を検討してみてください。
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