近年では、精神疾患を持つ患者数が増加しています。SNSの影響などで、周りの人の状況が簡単に確認できてしまうことなども、こうした患者が増えている要因かもしれません。本記事では、精神疾患患者の増加に伴ってニーズが増えている精神科の医院開業について解説していきます。
目次
精神科を標榜するクリニックは近年増加傾向にあります。2011年に精神科を標榜するクリニック数が5,739施設だったのが、2020年には7,223施設まで増加しています。精神科クリニックが増えているのは、精神疾患を有する患者数が年々増加しているからです。2011年に精神疾患を有する総患者数が288万人だったのが、2020年には503万人まで膨れ上がっています。
多様化する価値観、目まぐるしく変化する社会情勢、超高齢社会での高齢者の孤独など、現代では多くの人が過度なストレスにさらされています。こうした社会情勢において、精神科医が担う役割・責任は今後も益々大きくなっていくと言えるでしょう。
2011年 | 2014年 | 2017年 | 2020年 |
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5,739施設 | 6,481施設 | 6,864施設 | 7,223施設 |
出典:令和2(2020)年 医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況
先に述べたように、精神疾患を抱える患者数の増加に比例するように、精神科クリニックの施設数も年々増加してきています。精神科は大きな機器は使用しないことから設備投資の負担が少なくすみ、比較的開業がしやすい診療科だと言われています。ここでは精神科クリニックの特長を見ていきましょう。
精神科では他の診療科と比べて、診療に特別な医療機器を使用しません。最低限、電子カルテとレセコンさえ診察を行うことができます。そのため、開業時の初期費用だけでなく、開業後の経費(機器の保守料・更新表、医療消耗品費など)も抑えることができます。また、特別な医療機器が必要ないということは、その分設置スペースを取らないため、土地・建物代も抑える事が出来ます。
精神科クリニックを開業する場合、人通りの多いエリアは避けるべきです。通院していることを人に知られたくないという気持ちがあるため、ビルの1階も避けた方が良いでしょう。駅から5分程度離れたところにある、2階以上のテナントがおすすめです。そうなると、自ずと他の診療科と比べてテナント料は安くなってきます。
精神科での診療内容とオンライン診療は相性が良いと言えます。精神科の患者様の心理として、「近所のクリニックには行きたくない」という気持ちが働きます。最寄り駅から少し離れたエリアのクリニックに通う患者様も少なくありません。オンライン診療を導入することで、通院する患者様の負担軽減につながります。精神科に限った話ではありませんが、オンライン診療を導入することで全国から患者様を集めることも可能です。
精神科クリニックの開業資金は1,000万円~2,000万円程度です。費用の内訳は物件取得費で500万円~1000万円程度、電子カルテに約300万円程度、その他に什器類やHP制作費用などが必要になってきます。すべての診療科の中で、設備投資が一番少なく済むのが精神科の特徴です。
開業資金が全診療科で一番少なくすむとはいえ、ある程度の自己資金を用意しておく必要があります。近年、精神科クリニックが増加していることで、融資を断っている金融機関もあるといいます。自己資金の金額が少ないと融資の条件がますます厳しくなるため、少なくとも開業費用の10%~20%は自己資金として準備しておくことが望ましいです。まずは開業コンサルタントや専門の税理士に相談してみるといいでしょう。
クリニック開業時のメジャーな借入先は日本政策金融公庫です。個人でも申し込みができることがポイントになります。その他にも民間金融機関、リース信用組合、医師信用組合などから資金の調達ができます。
精神科クリニックを開業した場合の収支を下記の表で見ていきましょう。
Ⅰ.医業・介護収益 | 7,852万円 |
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Ⅱ.医業・介護費用 | 5,264万円 |
Ⅲ.所得(Ⅰ-Ⅱ) | 2,588万円 |
統計データによると、精神科の平均所得は約2,588万円です。個人クリニック全体の平均所得が2,505万円なので、平均と同水準の平均所得だと言えます。精神科は内科や外科のように、高額な医療機器を導入する必要がないため、初期投資や維持費を抑えることができる点が特長です。また、夜間の緊急対応などが少ないため業務時間もおおむね固定することができ、ワークライフバランスも意識しやすいといえます。
精神科クリニックは設備投資の負担が少ないため、開業がしやすいと説明しました。しかし、開業時に注意すべき点もあります。ここでは精神科クリニックの開業が失敗につながる要因について解説していきます。
最初に述べたように、精神科クリニックの施設数は年々増加しています。精神科の需要が高まる反面、競合となるクリニックが増えてきているとも言えます。周辺に競合となるクリニックが既にある場合には、開業をしても思うような集患が出来ない事態になりかねません。
繰り返しになりますが、精神科クリニックの開業では人通りの多いエリアは避けた方が良いです。駅前の人通りの多いエリアや、複数の診療科が入っている医療モールでは集患が難しくなります。
精神科は人目につかない場所を選ぶことが多いため、ただ開業するだけでは患者様に気づいてもらうことが出来ません。知り合いに会うことを避けるため、最寄り駅のクリニックを避ける患者様もいます。周辺に住んでいない患者様になると、WEB広告なしに自院を見つけてもらうことは期待できないでしょう。
先に述べているように精神科の開業資金は、他の診療科と比べて融資の条件が厳しくなる傾向があります。金融機関からの融資をあてにして、自己資金を十分に準備出来ていないと、資金調達に苦労する可能性があります。
精神科ではクリニック内だけでなく、薬局でも患者様の気持ちに配慮が必要です。薬局側が患者様のプライバシーや気持ちへの配慮が足りないと、薬局での処方薬の受け取りがストレスになって、患者様の脱落を招いてしまう可能性があります。
それでは精神科クリニックを成功させるためにはどうすればいいのでしょうか。ここでは精神科クリニックを成功させるためのポイントを解説します。
1つ目のポイントは、他の診療科同様に周辺環境のリサーチを十分に行うことです。実際に開業候補地を歩いてみて、人通りの多さや、テナントが外からどう見えるかも確認しておくといいでしょう。また、精神科は開業時の設備投資が少ないため、競合があとから参入してきやすい診療科とも言えます。開業後も周辺環境の情報収集は継続して行っていきましょう。
2つ目のポイントは人目につきにくいテナントを選ぶことです。テナント開業の場合、駅前の人通りの多い建物は避けて、駅から5分程度離れたところにある建物への入居がおすすめです。メイン通りから1本中に入った、2階以上のテナントであるとなお良いでしょう。
3つ目のポイントはHPやWEB広告での集患対策に力をいれることです。患者様に来院して貰うためには、まずはクリニックを知ってもらうことが大切です。精神科の場合、他の診療科と異なり、人目につきにくいテナントを選ぶことが多いため、WEBでの集患がより一層大事になってきます。HPは定期的に更新を行い、精神的に不安を抱える方に向けた情報やコラム等も発信していきましょう。
4つ目のポイントは開業資金を抑えて開業をすることです。精神科は他の診療科と比べて設備投資が少なくすむ一方で、金融機関からの融資を受けにくいことがあります。精神科の場合、開業資金を抑えて必要最低限の設備・人員でスタートするミニマム開業もおすすめです。ミニマム開業の場合、労務やスタッフ教育等の負担が減るため、医療に集中しやすくなります。
5つ目のポイントは薬局との連携です。近隣の調剤薬局に自院の患者様が訪れた際に、患者様のプライバシーや気持ちに配慮して貰えるように事前に相談をしておきましょう。例えば、呼出しの際に名前でなく番号で呼んで貰う、処方箋の確認は声に出さずに指さし確認で行う等、クリニックの外でも患者様のプライバシーが確保されていることが大切です。
ここでは、精神科の集患戦略について当サイトのマーケティング責任者である渡邉志明が解説させていただきます。
webマーケティングの手法は様々ですが、重要なポイントはたった一つ。「いかに検索1ページ目を占有するか」です。
検索1ページ目とは以下のように、特定のキーワードで検索した時の1番最初のページのことです。
検索で情報収集する際、ほとんどの人が検索1ページ目のサイトいずれかを見ます。
(実に7割程度の人が1ページ目だけで検索を終えるというデータもあります。)
従って検索1ページ目を占める自社のサイトや情報の割合が多ければ多いほど、閲覧数は増えていきます。
ホームページを見てもらった人に来院予約などのアクションを促すこと(CVR向上施策)も重要ですが、まず見てもらわなければ始まりません。また、ホームページ閲覧後の来院率に関しては、しっかりサイトを作っていれば一定の数値にはすぐに到達しますのでそこまでやれることが多くありません。
ただ、検索1ページ目占有に関しては競合クリニックも狙っている場合が多く、適切な取り組みが必要です。以下のポイントを守って施策を実行していきましょう。
精神科のオンライン集患で最重要かつ短期的に効果が出るのはweb広告です。
web広告にはさまざまな種類がありますが、精神科で利用するのは基本「検索連動型広告」です。
検索連動型とは、リスティング広告とも呼ばれグーグル検索時に検索結果画面に表示される広告を指します。以下のような例です。
検索連動広告を配信することで、例えば「○○(地域名) 精神科」と調べた際に自院のホームページやLPのリンクを上位に表示させることができます。
配信されたページがクリックされるたびに費用が発生します。
検索連動型広告枠は短期で検索の上位にクリニックのページを配信できる点が大きなメリットです。/p>
配信時に狙うキーワード例としては、以下の通りです。
○○(地域名や駅名)+精神科、○○(地域名や駅名)+○○(症例)、○○(地域名や駅名)+心療内科 など
検索連動広告の配信は代理店に任せる場合が多いですが、自分でもある程度知識を付けておくことが大切です。web広告に関しては、その他リターゲティング広告(リマケ・リタゲ)をする場合もありますが、難易度が高い内容なので本記事では割愛します。
ホームページのSEO対策を行うことで検索結果の上位に表示させることができます。
SEOはクリック毎の費用が発生しないため、一度上位を取れてしまえば非常にコスパのいい集患ルートとなります。また、検索している人は「スポンサー」という表示がされた検索連動型広告よりも、SEOで上位にあるページをクリックする割合が高いです。従って検索で上位を取ることは非常にインパクトがある施策となります。
一方で検索連動型広告に比べて、難易度が高く時間もかかります。結果が出るまで短くても3ヶ月程度はかかるので開業当初はあまり集患効果が期待できません。
長期的なインパクトの大きい施策として取り組んでいきましょう。狙うキーワードは検索連動型広告と同じです。
MEO対策とは、「Map Engine Optimization」の略でグーグルマップ内での上位表示を狙う施策です。
ご覧の通り、検索時には1ページ目にグーグルマップが表示されることが多く、そこには上位3つのクリニックがリストアップされます。
この上位3つに表示されるための各種取り組みがMEO対策となります。やることは主に以下の通りです。
MEO対策はさまざまなツールが提供されていますが、ツールのみでの導入は基本必要ありません。導入する場合はツール+MEO対策のコンサルティングまで行ってくれる会社を選びましょう。
ポータルサイトとは、クリニック情報をまとめたサイトのことです。
検索に対して非常に強く、掲載すれば短期で「○○(地域名)+精神科」のキーワードで上位表示されているページ内に情報を載せることができます。
ポータルサイトに関しては、載せるデメリットはないのでどんどん載せていきましょう。ただし費用がかかる場合があるので、ある程度の判断は必要です。
また、狙っているキーワードで上位表示されているポータルサイトは優先度が基本的に必ず載せるようにしましょう。
加えて、現時点で上位表示されていないポータルサイトでも、将来的に上位表示される可能性は高く、その他サイテーションの獲得や外部リンクの獲得など前述のSEOに対して良い効果もあるので積極的な掲載をおすすめします。
※サイテーションとは➡自院のことを言及しているwebサイトがいかに多いか。多いほど検索上位表示に対して効果あり
※外部リンク獲得とは➡他のwebサイトから自社のwebサイトに向けて張られたリンクのこと。基本的に多いほど検索上位表示に対して効果あり
まとめると以下の通りです。
施策名 | インパクト | 費用 | 効果が出るまで |
---|---|---|---|
検索連動型広告 | 大 | 継続的に発生 | すぐに出る/td> |
SEO | 特大 | 最初だけ | 最低3ヶ月 |
MEO | 大 | 最初だけ | 最低3ヶ月 |
ポータルサイト | 中 | 継続的に発生 | すぐに出る |
最後に、ホームページを閲覧いただいた方の来院率を高めるポイントについて簡単に紹介いたします。
精神科ではターゲットとする患者属性によって、診療コンセプトや開業戦略が大きく変わってきます。ここでは3つの診療コンセプト・開業戦略を紹介します。
オフィス街で働く社会人向けの精神科クリニックを開業する場合、患者様が就業時間外に通院しやすい体制を築くことが大切です。職場の同僚と待合室で鉢合わせしないように、完全予約制を導入したり、オンライン診療の利用も積極的に行うなどの戦略が考えられます。
特定の患者様に特化した精神科クリニックを開業する場合、関連する組織・団体の連携体制を構築することが大切です。例えば、児童精神科を標榜する場合、開院に向けて児童相談所や学校、警察、行政との連携体制を強化しておくと良いでしょう。HPも児童精神科関連のコンテンツを充実させ、お子さんを診てもらう親御さんから見て、分かりやすい書き方になるように心掛けましょう。
訪問診療も行う高齢者向けの精神科クリニックを開業する場合、高齢者向け事業所との連携が必要です。精神面・身体面の両方から高齢者に寄り添ったサービスを提供することが求められます。独居の高齢者も増えていることから、在宅医療で精神科医が担う役割は今後ますます大きくなっていくことでしょう。
本記事では精神科クリニックを開業するために必要な費用や、開業が上手くいくためのポイントなどを解説しました。精神疾患を抱える患者様は年々増加しており、今後ますます精神科医が担う役割は大きくなっていくことでしょう。精神科は設備投資の負担が少ないため、他の診療科と比較すると開業しやすい診療科だと言われています。一方で、金融機関からの融資が受けにくかったり、患者様にクリニックを認知してもらうためにWEBマーケティングが重要であったりと、開業に向けて計画的に準備を進めていく必要があります。この記事の内容を参考に開業の準備を進めてみてはいかがでしょうか。
URL:https://note.com/2ndlabo/n/n949eaa3e9d69
北海道大学を卒業後、医療機器の営業として6年間勤務。外科、整形外科、泌尿器科領域を中心に民間・国公立の病院を担当。2020年よりセカンドラボ株式会社に入社。医療福祉施設の課題解決プラットフォーム「2ndLabo」にて各種ITツール、医療機器の導入支援、クリニック開業支援に従事。
2ndLaboのサービスを通じて、これまで1,000件を超えるサービス導入支援・開業支援を担当。得意分野は、電子カルテ、介護ソフト、各種医療機器。
カケル
フリーランスWEBライター
URL:https://twitter.com/kakeru5152
元高校国語教師。3年ほど教育現場で働き、フリーランスWEBライターとして独立。様々なメディアで記事を制作。ディレクターとしても活動。個人でブログも運営しており、情報発信も行なっています。